141.目撃者
「今度はあの店に入りましたね」
「よし、俺たちも行こう!」
俺たちの尾行は続いていた。
もう二人を追いかけてどれくらいの時間が経つだろう。
まだ真っ暗ではないが、さっきまで茜色だった空がもう暗くなりかけていた。
施設内にある照明も次々と明かりを灯し始め、ナイトショッピング効果で人も増えてきた。
しかもこの施設内で最も観光スポットが多いエリアにいたためか、周りはカップルだらけだった。
「やっぱりこの時間のこの辺はカップルが多いねぇ~」
「そうですね」
それとなく話題を振ってみるが、リィナちゃんは二人の動向に興味が向いているためか、見向きもしてくれない。
彼女にとって今はそれどころじゃないだろうから仕方ないと言えば仕方ないけど……
「ね、ねぇリィナちゃん」
「何ですか?」
「その……俺たちも周りの人から見ればカップルに見えたりするの……かな?」
「それはないと思います」
「キッパリ!?」
ストレートな意見に俺の心に少々のヒビが入る。
言うならせめてちょっとくらい濁してほしかった。
「というか、むしろわたしは周りに怪しまれないか心配ですね」
「そ、そうだね……確かに」
というのも、今俺たちはショーウインドーに張り付くように店内を眺めている。
流石に店の中に入るとバレるから、という理由でこうなったが、傍から見れば奇行に映ってしまう可能性もあるだろう。
最も、目立たないように配慮はしているが。
「くぅ……やっぱり話し声までは聞こえませんね」
「流石にここから会話を盗み聞きするのは無理があるよ」
距離からしてほんの数メートル先に二人はいるが、外のざわつきとかその他諸々の雑音で会話は全く聞こえない。
会話の内容を聞くにはやっぱり店の中に入らないと無理がある。
「もういっそ店の中に入ってみる? その方が確実だと思うし……」
「でもどこに隠れるんですか? この狭い店内で」
「う、う~ん……」
リィナちゃんの言う通り、店内は他の店よりも一段と狭い。
服を扱っている店なので服の中に紛れて身を隠すくらいしかできない。
後は見つからないように背後から回って試着室で息を潜めるか。
前者の場合、店の人に見つかったら即終了というリスク付きだが……
「ここで悩んでいても仕方ないよ。俺たちも行こう、リィナちゃん!」
「えっ、ちょっ……先輩!?」
リィナちゃんの手を握り、そのまま店内に入っていこうとした――その時だ。
「二人とも、こんなところで何やってんだ?」
「し、シオン!?」
「シオン、いつの間に!?」
いつからいたのか知らないが、気がつくと背後にシオンが立っていた。
「お、お前……いつからそこに?」
「今来たばかりだが……ん?」
シオンの目線の先には繋がれた俺とリィナちゃんの手が。
「あっ……」
思わず声が出てしまう。
「い、いつまで握っているんですか!? 離してください!」
だがリィナちゃんがすぐに俺の手を離し、気まずそうに顔を背けた。
心なしか少し頬が赤くなっている気がするが……
「な、何ですか? あまりジロジロ見ないでください。追放しますよ?」
「なんで、そうなるの!?」
そんな俺たちのやり取りを見ていて呆れたのかシオンは『はぁ』を溜息をつくと。
「デート中に邪魔した俺も悪かったけどさ……痴話喧嘩なら他でやった方が良いと思うぞ」
「で、デートじゃない! シオンは誤解している!」
”デート”という言葉に真っ先に否定するリィナちゃん。
確かに事実ではあるが、俺としてはなんか複雑な気持ちだ。
「そ、そうなのか……?」
「そう! わたしがこんなド変態な人とデートなんてするわけないじゃない!」
「ド変態って言わんといて!」
冗談なのか嘘なのか。
何度も言うが、その判断は非常に難しい。
俺としては冗談であってほしいけど……
「そ、それよりも! シオンは何でこんなところに?」
リィナちゃんが少々語調を荒くしながら話題を変えると、シオンは答えた。
「呼ばれたんだよ、リーフに」
「呼ばれた?」
「そ。テレパシーでこの店にいるから今すぐ来てほしいって」
テレパシー?
ああ、そういえばこの二人はそんな小技が使えたっけな。
リーフレットちゃんはシオンに教わったみたいだけど。
「あ、しーちゃん!」
その時。
店の中から出てくる二人組が。
「あれ、ユーグさんにリィナまで……」
「「あっ……」」
二人同時に発せられた気の抜けた『あっ……』だった。
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