138.リーフレットちゃんを探せ!
「リーフレットさんですか? いえ、見てないです」
「そっか。ありがとね~」
……
……
「すみません、見ていないです」
「分かったよ。ありがと!」
リィナちゃんと別れてから。
俺は顔見知りを捕まえてはリーフレットちゃんのことについて聞き込みを始めていた。
だが、今のところ成果はなし。
予想はしていたが、全然ヒットする気配がなかった。
本部はとにかく広いからな。
その中からたった一人を探すのは、知り合いであっても至難の業だ。
「にしても相変わらず、すごい人だな……」
年々、軍に入る人間が増えていることもあるのだろう。
俺が軍に入った時よりも格段に賑わいの程度が違う。
数年前に前団長であるゴルドが失脚したことで、大幅に人員が減少して、リベルカさんは焦っていたからな。
それから沢山の人員を受け入れるために入隊条件なんかを緩和したりしたわけだけど……
「人が多くなるってのも、問題だな……」
現に人が多くなっても軍自体の質は俺が入った頃よりも下がっている。
実力者が少ない、あるいは実力者を生むための指導者が少ないってのもあるが、数だけ多くても力が伴わないと意味がない。
団長は例の組織改革について、色々と動いているみたいだけど、果たしてうまくいくだろうか……
「そう考えると、あの外道が軍にいた方が強くなっていたのかもな……」
あまり認めたくないが、ゴルドの力は本物だ。
自身の実力だけじゃない。人を導くカリスマ性も持ち合わせていた。
当時幹部だったリベルカさん。
そして勇者軍最強と言われていたシオン。
他の連中もゴルドに鍛え上げられていたからか、猛者ばかりだった。
まぁそんなゴルドを倒してしまったシオンは真の別格なんだが。
ありがたいことにシオンは軍を止めた今でも、改革に協力してくれている。
(本業との両立は大変だろうに、よくやるよ……)
そういうところも含めて、実力者なんだろうな。
「俺も、頑張らないとな」
そう思いながら、俺は再びリーフレットちゃん捜索を始める。
「約束の時間まであと15分か」
時間的にはまだまだ余裕はある。
「粗方この辺は見たから、もう少し行動範囲を広げてみるか……」
大食堂の他に第二食堂もあるしな。
もしかしたらそっちにいるかもしれない。
「行ってみるか」
すぐに方向転換し、第二食堂へ向かおうとした……時だった。
「お、ユーグ。お前も飯を食いに来たのか?」
「し、シオン!」
話しかけてきたのは我が親友、シオンだった。
作業服を着ているところを見ると、職場からそのまま来たのだろう。
鍛冶職人の作業服らしく、所々に黒いシミみたいなのがついていた。
「仕事終わりか?」
「まぁな。これから育成組の指導がある。本当は着替えてから来たかったんだが、仕事が溜まっていてな。その後も職場に戻る予定さ」
「苦労しているんだな、お疲れさん」
ホント、すげぇやつだよこいつは。
「どうも。それよかユーグよ。一緒に飯でもどうだ? これから食おうと思っているんだが」
「わ、悪い。今日はちょっと無理なんだわ。先約があってな」
「そっか。ならしょうがないな。久しぶりに色々と話したいことがあったんだけど……」
「すまん……」
親友の誘いを断るのは快いものではないが、今は仕方なし。
リィナちゃんのことが何よりも優先だ。
それに、いいところに最高の情報屋が来てくれた。
「ところでシオンよ。お前、リーフレットちゃんを見なかったか?」
「お前もか。リーフなら、別棟を繋ぐ渡り廊下の方へ歩いていったぞ」
「そ、そうか! サンキューな! あ、飯はまた今度一緒にしよう。絶対にな!」
「お、おう……」
俺はそれだけを言い残すと、シオンの言っていた場所へと急行する。
「初めて有益な情報を手に入れることができたな。流石はシオンだ!」
我が親友を誇りに思いつつも、俺は走る。
別棟の渡り廊下に向けて。
一方、その様子を見たシオンは……
「まさか、二回も同じことを聞かれるなんて。一体何があったんだ……?」
首を傾げ、ただ唖然とするばかりだった。




