132.悩みどころ
「う~ん、どれをあげればいいんだろうか……」
「悩みどころですね……」
俺たちは連なる店のショーウインドーを眺めながら、思考を張り巡らせていた。
「どういうものが好みとか、分からないの?」
「それが……色々ありすぎてどれが本当に好きなのかが分からないんです」
「なるほどね……」
あの後、俺はリィナちゃんのお願いに乗ることにした。
彼女が真剣だったのもあるんだけど、何より嬉しかったのが、俺を頼ってくれたことだ。
今までこんなことなんて一度もなかったから、正直浮かれている。
二人きりで買い物に来ているってだけでも夢のようなのに――いや、もしやこれは本当に夢なのかもしれん!
試しに自分の頬を抓ってみる。
「い、いたたたた! ゆ、夢じゃない……だと?」
現実だった。
すると隣にいたリィナちゃんがじーっと細目で俺を見ていた。
「先輩……何してるんですか」
「い、いや! もしかしたらこれは夢なのかもしれないと思ってね」
「何でそう思ったんですか……」
俺の奇行に呆れるリィナちゃん。
クールな瞳から繰り出されるその蔑むような表情もたまらない。
あ、ちなみに俺はMではないぞ。
彼女が特別なだけだ。
「でも、これじゃあいつになっても決まりそうにないね」
「ですね……あっ――!」
何か思いついたのか。
リィナちゃんはスッと顔をこちらに向けると、
「先輩、一つ行きたいところがあるんですが、いいですか!?」
「う、うん。いいけど……」
「じゃあ、付いてきてください!」
リィナちゃんは強めの語調でそう言うと、俺と共にある場所へと向かった。
♦
「ここは……おもちゃ屋さん?」
「そうです。用があるのはこのお店のぬいぐるみコーナーですけど」
やってきたのは施設内にあるおもちゃ屋さん。
リィナちゃん曰くその中のぬいぐるみのコーナーがお目当てのようだが……
「リーフレットちゃんってぬいぐるみが好きなの?」
「はい。ちょうど前にぬいぐるみのことについて熱弁されたことがあったので、もしかしたらと思いまして」
「一番好きかもしれないと?」
リィナちゃんはコクリと頷く。
リーフレットちゃんらしい、というかそんな感じはあった。
俺はリーフレットちゃんのそういうのとかは聞いたことないから、本当に好きなものは知らなかったけど……
何となく見た目や普段の行動とかで分かるのだ。
その女性がどんなものを好みそうかってのが。
「でも問題が一つあって……」
「どういうぬいぐるみが好みかってところかい?」
「はい……」
ぬいぐるみと言っても、世の中には色んなものがある。
正統派な可愛い系。
クールな人が好みそうなカッコイイ系。
人によって可愛いの基準も違うから、そこが難しいのだ。
「ところで、リィナちゃんはどういうのが好きなの?」
「わたしは可愛い系が好きですね。例えば……」
そう言いながら。
リィナちゃんは商品棚に置いてあったぬいぐるみを手に持ち、抱きかかえた。
「こういうのとか、結構好きですね」
「おお……! なんか意外だね!」
というのも彼女が手に取ったぬいぐるみはコテコテの可愛い系。
モフモフっとした頭にリボンがついたクマちゃんのぬいぐるみだった。
「意外で悪かったですね。あんまりわたしには似合いませんか?」
「いやいやいや! すっごく似合っているよ。リィナちゃんの可愛さにぴったりのぬいぐるみだ!」
「そ、そう……ですか」
むすっとした表情から一変。
少し恥ずかしそうに目線を逸らすリィナちゃん。
控えめに言ってめっちゃ可愛い。
でもこの中からは選ぶのは中々至難の業だな……
リーフレットちゃんの本当の好みが分からない以上、フィーリングで決めるしかないだろうし……
「ちなみに、ユーグ先輩ならどれを選びますか?」
「え、俺?」
「はい。女性関係に詳しいユーグ先輩の意見を聞いてみたいです」
女性関係に詳しいって……
やっぱりそう言う目で見られてんだな、オレ……
「ん~そうだなぁ……これとか、どうかな?」
「猫のぬいぐるみ……ですか?」
「うん。なんかこういうの好きそうな感じあるんだよね」
あくまでこれは直感的なものだが。
「理由とかってあるんですか?」
「いいや、何となく雰囲気で。あと俺の美女センサーがそう言っているような気がするんだ」
「……なんか、変態的なので却下します」
「えぇっっ!?」
よく分からない理由で却下が出てしまった。
だがそれ以降、意見こそ出るものの決定まで行かない時間が続いた。
そんなこんなで一時間ほどが経過して――その時だった。
「おや、リィナ殿にユーグ殿ではないか!」
ぬいぐるみを漁る背後から、俺たちに向けて声をかけてくるものが。
振り向くと、そこにいたのは俺たち二人も見覚えのある顔だった。