131.約束……できますか?
「まさか、リィナちゃんが俺をおデートに誘ってくれるなんて……こんなの初めてだねぇ!」
「勘違いしないでください。先輩をお誘いしたのは荷物を持ってもらうためです。あと、言い方がキモイです」
「き、キモイッ!?」
俺たち二人は施設内にあるショッピングエリアに来ていた。
ちなみに今回は俺の意思とかではなく、まさかのリィナちゃんからのお誘い。
いつもなら俺から誘うところなのに珍しいこともあるもんだ。
まぁ……俺から誘った時には悉く断られているんですけどね。
「ところで、リィナちゃん。今日は何を買いにきたの~?」
「色々です」
「色々?」
「はい」
「色々って何さ?」
「服とか、服とか、服とかです」
「服だけじゃん」
しかしこの後。
リィナちゃんの言う通り、色々な店に入っては出てを繰り返した。
それこそ色々な店を回ったが、毎度首を傾げて、次の店へ。
お目当ての物が見つからないんだろうか。
「リィナちゃんって結構こだわりがあるタイプなんだね」
「なぜそう思うんですか?」
「だって、さっきからずっと真剣な顔して悩んでいるんだもん。ショッピングには時間をかけるタイプなんだなって」
「……ご迷惑でしたか?」
「いやいや、とんでもない! ゆっくりと考えることはいいことだよ。俺も自分の身なりには結構気にするタイプだからね。買い物に時間をかける理由は分かるよ」
「そう、なんですか。でも、残念ながら今回は自分の為の買い物じゃないんです」
「え、そなの?」
「はい」
リィナちゃんは小さく頷く。
その時に一瞬見せた表情はどこか迷いがある感じだった。
「じゃあ、一体今日は誰の為の……?」
「……リーフレットです」
「え、リーフレットちゃん?」
「そうです」
「でも、なんで?」
「……」
リィナちゃんは急に黙り込んでしまう。
何か言いづらいことなのだろうか?
「あ、あの……ユーグ先輩。誰にも言わないって約束できますか?」
「えっ……」
「理由です。なぜリーフレットの為の買い物をしているのかっていう」
「ああ……」
やっぱり何かあるんだな。
彼女の表情を見ただけで分かった。
最近はいつも……というか毎日会っているから、すぐ分かる。
クールな外見でちょうど見え隠れしているけど、彼女は本気で悩んでいるんだ。
「……分かった。誰にも言わない。誓うよ」
俺はそれ以上、何も聞かずにそう答えた。
その言葉を聞いてリィナちゃんも安心したのか、いつもの感じを取り戻していく。
「ありがとうございます、ユーグ先輩。じゃあ、言いますね……」
「お、おう……!」
二人の間に走る緊張感。
じっと息を呑み、待っていると。
リィナちゃんはゆっくりと口を開いた。
「わたし、リーフレットに感謝の意を込めて何かをプレゼントしたいんです!」
「……え?」
「だ、だから! プレゼント……プレゼントをしたいんです!」
いや、ふつーーーー!!
至って普通なんだが!?
「あ、あの……理由ってそれだけ?」
「そ、それだけとは何ですか! こ、こういうのってあまり他人に言うもんじゃないでしょ!? プレゼントすら一人で決められない情けないやつって思われるじゃないですか!」
「い、いや……誰もそこまでは思わないと思うよ」
……多分。
というかもっとこう、複雑な理由なのかと思っていた。
あまりにも深刻そうにしていたからさ。
「と、とにかく! わたしは今日、リーフレットに渡す贈り物を買いに此処に来たんです!」
「そ、それは分かったけど、なんで俺は連れてこられたの?」
「それは……荷物持ちと……」
「……と?」
「じょ、助言を……貰いたいなって。……他に頼れる人もいないし」
リィナちゃんは小声でボソッとそう話す。
小声と言っても距離的な問題で聞き取ることはできた。
聞くところによればずっとそのことで考えていて、前にも何度かここに来ているらしい。
それでも結局決めることができなくて、四苦八苦していたという。
「そういうことだったんだね」
「は、はい……」
「でも助言ならシオンの方がいいんじゃないか? あいつの方がリーフレットちゃんとの付き合いは長いし……」
普段、リィナちゃんの気を引こうとしている俺がいうのもあれだけど。
他に最適な方法があるなら、そっちを優先してもらいたい。
そうすれば、リィナちゃんの為になるし……。
だが彼女は即否定した。
「し、シオンはダメです!」
「なんでさ?」
「シオンはお仕事で忙しいので。それに、今は鍛冶職人の仕事が忙しいって聞いたので、下手な理由で負担はかけられません」
「なるほどね」
逆に俺ならいいのか……
まぁでも、シオンと比べたらまだ忙しい方じゃないしな。
それよりもリィナちゃんが俺を頼ってくれるなんて初めてじゃないか?
なんか今日は驚きの連続ばかりで怖くなってくる。
「あ、あの……先輩」
「ん?」
急にリィナちゃんの声色が変わる。
これは恐らく、何かを頼もうとしている時の感覚だ。
リィナちゃんは俺の目から一瞬たりとも逸らさず、硬化した表情のままこう言った。
「恥を承知の上で頼みます。わたしと一緒に、贈り物を選んでいただけないでしょうか?」




