130.娯楽契約
「ん~~~~~っ! やっぱり、ここのシュークリームは至高の味! これだけでも生きてる甲斐があるってものね」
「そりゃあ、良かったねぇ……」
それ、買ったの俺だけど。
場所は娯楽室から、本部に隣接している商業施設。
その中にリィナちゃん一押しのスイーツ屋さんがあるみたいで、今は俺たちそこにいる。
で、割と高めなシュークリームを買わされて今に至るというわけだ。
「(はむはむ)……ん~~~~!」
滅茶苦茶ご満悦そうに食べるな、この天使さんは。
それはまるで小動物のようで、普通とは少し違った可愛さがあった。
ぶっちゃけ容姿はそこいらの同世代の女の子と対比すると、別格レベルの可愛さと男相手でももろともしないクールさ。
だが、彼女の魅力はそれだけではない。
なんと仕草から何までが全てが可愛いのだ。
これは俺が今まで会ったどんな美人でもなかったもの。
俺は年下にはあまり靡かない性分だったが、彼女だけは別。
年齢には到底収まりきれないほどの魅力を持っている。
俺が執拗に彼女を追い求めるのも、そんな魅力があるからこそ。
さっき言った例外というのはまさに彼女のこと。
彼女こそ、典型的な例外と言えよう。
今まで色々な女性を見てきたからこそ、俺にはその素晴らしさが分かる。
そして、思うんだ。
俺は……彼女のような人を求めていたのではないか、とね。
「はぁ~美味しかった。先輩、もう一個お願いします」
「え、もう一個? もう上限の3個には達したじゃない」
既に彼女は3つのシュークリームを平らげていた。
「忘れちゃいましたか? もし今日負けたらシュークリームの個数上限を上げるって約束を」
「あっ、そういえばそうだった……」
昨日言われたことを思い出す。
俺自身はすっかり忘れていたけど。
俺とリィナちゃんはある契約を交わしている。
と、言っても堅苦しいものじゃない。
娯楽を通じての契約だ。
名づけると……そうだな、娯楽契約ってとこか。
契約内容は至って単純。
ボードゲームで対戦した際に勝敗に応じて、自分の願いを聞かせることができるというもの。
普通に戦っては楽しくないということで俺が提案したものなんだが、今では自分で自分の首を絞める結果となっている。
それもそのはず。
俺はボードゲームをやり始めてから今日に至るまで一度も彼女に勝てていないのだ。
王族オセロにルーベリック・チェス。
一対一でできるものは色々と試したが、どれも悉く惨敗。
結局、俺が一方的に彼女の願いを聞き入れている状況と化していた。
(ま、自業自得なんだが)
でも俺にだってメリットはある。
それはこの契約が彼女と俺との二人の間だけで交わされたものということ。
二人で決めたことなんだから、当然。
そう思うかもしれないが、重要なのは二人だけというところ。
この契約は俺とリィナちゃんを繋ぐ大きな橋のようなものなのだ。
この橋がなければ、多分俺は見向きもされなかっただろう。
実際、俺は彼女に嫌われているみたいだし。
おかげでこの広い勇者軍本部内で毎日のように会えている。
向こうも勝つたびに報酬が手に入ることを知っているから、毎日同じ時間・場所で待っている。
だから俺にメリットがないわけじゃない。
確かにその代償となるものは大きいけど。
「わ、分かった。買って来るよ……」
「ありがとうございます、先輩!」
嬉しそうに笑顔を輝かせるリィナちゃん。
約束は約束だから守らないといけないけど……
(かなり、痛い出費だなぁ……)
このシュークリーム、一個1000Gもするんだぜ?
味は確かに美味しいけど、スイーツにしては中々いいお値段だ。
「買って来たよ」
「ありがとうございます。では早速……」
パクパクと食べ始める琥珀髪の天使。
食べている姿はいつものクールさはなく、年相応って感じで可愛らしい。
あと幸せそうに食べてくれるから、こっちまでニヤけてしまう。
あまりそんな面見せると、「なにニヤニヤしているんですか? はっ、もしかしてわたしを見てエッチな妄想を……!?」とか言ってくるので、控えているが。
それでも頬の緩みは出てしまう。
「はぁ~美味しかった」
「相変わらず、食べるの速いねぇ」
「美味しいものはすぐ食べられちゃうものなんですよ、先輩」
分かる。その気持ち分かるぞ。
俺も美味しい物は真っ先に手を伸ばすタイプだからな。
「満足したかい?」
「はい。今日もありがとうございます。ユーグ先輩」
「いえいえ。じゃ、今日はこの辺で――」
「あっ、待ってください先輩!」
「えっ?」
席から立ち上がり、去ろうとした時。
急にリィナちゃんから待ったの声が。
なんだろう? まだ足りないとかか?
「あ、あの……この後、時間ありますか?」
「う、うん……大丈夫だけど」
そう返事をすると。
リィナちゃんは恥ずかしそうに身体をくねらせながら、その小さな口を開くと、
「えっと、その……す、少し付き合ってほしい場所があるんです!」
羞恥からか、少し声を張って。
彼女はそう言った。