129.娯楽女王
「流石は勇者軍一の隠れ娯楽王! 今日も遊びに精が出るね!」
「うるさいです。そういう先輩こそ、ここ最近毎日来ているじゃないですか。あとわたしのことを言っているなら”王”ではなく、”女王”と呼んでください」
細かなことを気にする琥珀髪の美少女。
彼女の名前はリィナ・フローズン。
俺と同じくSランク勇者で年齢は俺よりも年下。
強い・可愛い・カッコイイと三拍子揃ったクール系美少女で、俺の中じゃ今一番にホットな子。
ホット……というのは色々と意味合いはあるが、毎日ここに通いつめるのは彼女の存在あってのこと。
何せ俺は彼女に――
「ふふふ、いつも通いつめているのはリィナちゃんから勝利を得るため! 今日こそ、その娯楽女王の名に泥を塗って見せる!」
あれからずっと、ゲームで勝てていないのだ。
そう、峡谷での時から。
「ふふっ、流石はユーグ先輩。何度やっても同じことだというのに、愚かですね」
自信に満ちたこの表情。
彼女の中には絶対的な勝利への確信があるのだろう。
不敵な笑みを浮かべ、さも雑魚を見るような目で見下げてくる。
「おやおや、いいのかなそんなこと言っちゃって~」
「どういうことですか?」
「ん? もしかして今日の俺が一味違うことに気付いていらっしゃらない?」
「いつも通りに見えますが?」
クールな眼差しを向け、小首を傾げるリィナちゃん。
今度は俺が彼女に対してニヤッと笑い返す。
「ふふっ、本当にそうかな? 実は昨日、俺はリィナちゃんに勝つために戦略を練っていたのだよ」
……10分だけだけど。
「それで俺は編み出したんだ。君に勝つための最強の策を!」
「……そうですか」
「……あれ? なんか反応薄い?」
もっと食いついてもいいだろうに。
そう思っているとリィナちゃんは顔を上げ、細目で俺を見てくる。
「いや、薄いというか。この前も同じこと言ってわたしに大敗したじゃないですか。もうその手には乗りませんよ」
「ぐっ……!」
確かにあったような気がする。
その時はマジで自信があって負けた時だと思うから、記憶がフルに吹っ飛んだんだろう。
頑張って思い出しても薄っすらとしか出てこない。
「それに、ユーグ先輩はいつもワンパターンなんで他の誰よりも勝ちやすいんですよね~」
「グハッッッッ!!」
我が友人ながら痛いところを突いてくるな、この子は……
だが俺のメンタルは鋼を越えし、ダイヤモンド級のメンタル。
負け続けて培ったこの最強メンタルの前には無力だ。
「ふっ、なら早速始めようじゃないか。戦ってみれば、俺が嘘を言っているかどうかがすぐ分かるさ」
「そうですね。あ、でもまずは今の勝負を終わらせてからですよ?」
「あ、そういえばそうだった。Ok~」
順番待ちはしっかりとしないとね。
スポーツマンシップならぬゲーマーズシップだ。
そしてその勝負はリィナの勝利に終わり、とうとう俺との対戦へと移る。
「今日こそ、勝ってみせる。リィナちゃん……覚悟!」
「返り討ちにしてあげますよ。完膚無きにね」
バチバチと火花を散らす俺たち。
そして勝負は気合い十分の中、始まり――
……
……
「……ば、バカなッ! この策をもってしても、勝てないというのかッ!」
負けました。
それも彼女の宣言通り、完膚なきまでに叩きのめされて。
「ふふふふっ! その程度でわたしに勝とうだなんて100年早いですよ」
「く、クソッ! 俺が昨日あんなに時間(10分)をかけて編み出した不屈の策が、こうも簡単に……!」
「すこーーーーしだけ期待してたんですけど、やはりまだまだですね。少し方向性を変えただけで相変わらずワンパターンでしたし」
「くっっ! 無念だッ!」
俺はその場で膝をつき、崩れる。
そんな情けない俺の姿を勝利の微笑みと共に見つめる少女の姿が。
「と、いうことで先輩。負けたということはもちろん……分かってますよね?」
「あ、ああ……もちろんだよ。ルールだからね」
「じゃあ、早速行きましょう♪」
途端にテンションが上がるリィナちゃん。
俺は彼女の従うがまま、ある場所へと直行するのだった。