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127.最高の剣を目指して


「お、シオン。おはよう」


「おはようございます、親方」


 工房に行くと、真っ先に俺に挨拶を交わしてくれたのは親方だった。

 今日も親方は早朝から働いていたのか、昨日洗濯したはずの作業着がもう既に汚れていた。


「今日も宜しくお願いします」


「おうよ。それよか、シオンよ。お前、最近ちょっと顔色良くなったよな」


 親方が俺の顔をじっと見ながら、そう言ってくる。

 自分の顔色とか気にしたことがないから、全然実感が湧かない。


「そ、そう……ですかね?」


「おう。こっちに帰って来た時よりもなんかみなぎる力をお前から感じる。なんだ? 女に精のつくものでも食わしてもらったのか?」


「あ、いや……その……」

 

 鋭いなぁ……


 実際、大正解なんだけど。


「ガッハッハッハッハッハ! 若いってのはいいもんだな!」


「か、からかわないでください」


 豪快に笑い飛ばす親方。

 相変わらず、いつも通りだ。


「すまんすまん。でも正直、あの時のお前さんはホント、死んでたからなぁ……顔が」


「まぁ、だいぶ疲れが溜まってましたから……」

 

 王都帰りの馬車なんて初めはリーフたちと会話こそしていたが、最後は爆睡だったし。

 

 一番疲れを実感したのは家に帰ったからだったかな。

 ベッドに座った瞬間にどっと疲労が出てきたのを覚えている。


「でも、これで心配する必要はなくなったわけだ。本調子じゃない職人に無理をさせたくないからな」


「すみません、本当にご迷惑ばかりおかけして……」


「いいってことよ。お前さんはそれ相応の働きをしてんだから。工房でも、勇者軍の方でもな」


 親方はニヤリとワイルドな笑顔を浮かべる。

 本当、この人には感謝してもしきれない。


 少しずつでいいから恩を返していかないとな。

 まぁ今まで恩返しだと思ってやってきたことが、結果的に多忙を招いてしまったわけだけど。


「じゃあ、俺も作業に入りますね」


「あ、シオン。その前にちょっと見せたいものがあるんだ」


「見せたいもの?」


「いいから、こっちに来てくれ」


 俺は言われるがままに親方に連れていかれる。

 連れてこられたのは親方が普段使っている作業台だった。


「ほれ、これを見てみろ」


「こ、これは……!」


 作業台に置いてあったもの。

 それは俺が昨日加工するために真っ二つに割った竜玉で既に加工済みまま、台の上に置いてあったのだ。


「でも、なんで……」


「すまん、シオン。本当は手を出すつもりなかったんだが、俺も職人の手前。こんな珍しい素材を前にして我慢できなくて、つい手が動いちまってな。昨日、お前が帰った後にここまでやっちまったんだ」


 い、いや……逆に俺としてはすごい在り難い。

 加工の作業は素材によってはとんでもなく大変なものもあるからな。


 多分、特にこの竜玉の加工に関しては一筋縄ではいかないレベルだと思うけど……


「いやぁ~にしてもこいつの加工には結構手間がかかってたぜ」


「ま、まさかこれを加工するために徹夜した……なんてことはないですよね?」


「いやいや、こんなの加工するには徹夜しないと無理だぞ? というか終わったのついさっきなんだけどな」


「ま、マジですか……」

 

 頼むから親方も少しは休んで欲しい。

 でもそれでもなお、ピンピンしているのは本当にすごいなといつも感心するけど。


 職人にとって身体は資本だ! って言っている人の行動ではないよ……


「な、なんかオレ……一生かけても親方の領域に辿り着けそうにないっす」


「ん、何の話だ?」


 自覚無しなのか、首を傾げる親方に呆れと尊敬が混じった溜息が出る。


「でも、これで最高の剣を作るための下地はできた。これを本当に最高のものにするか、腐らせるかはお前の腕次第だけどな」


「そ、そうですね……」


 そう言われるとすごいプレッシャー。

 それに渡す相手はこの国の王女。

 

 自分の持っている力をフルに発揮しないと、多分満足のいくものなど作れない。

 いや、フルで発揮しても微妙なラインだが任された以上、やるしかない。


 せっかく親方がここまでしてくれたんだ。


 絶対に腐らせてなるものか。


「親方、俺早速作業に入ります! 絶対にこの剣を……最高のものにしてみせます!」


「おう、その意気だ! 分からないことがあったらいつでも言ってくれよ」


「はい!」


 俺は作業着に着替えるために飛ぶように更衣室の方へ。

 

 何故か今日は身体が軽い。

 多分、昨日リーフがいっぱい元気をくれたおかげだろう。


 いつもよりも軽快な気分だ。


(今度会った時は俺があいつを元気にさせてやらないとな……)


 心の中でそう誓いつつも、俺は秒で作業服に着替えた。

 そして両頬に一発ビンタすると、


「よし、今日も一日頑張るか!」


 いつものように、気合いを注入するのであった。




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