126.行ってらっしゃい!
次の日。
俺はリーフの作る滅茶苦茶美味しい朝ごはんを食べ、仕事に向かおうとしていた。
「お邪魔しました。あと、夕飯と朝食ごちそうさまです」
「いえいえ。そもそもしーちゃんを呼んだんだもの。お礼を言うのはこっちの方だよ」
「いや、俺もリーフのおもてなしで昨日の仕事の疲れが吹っ飛ばすことができた。おかげで今日も仕事、頑張れそうだ」
「えへへ、それなら良かった」
ニッコリと微笑むリーフ。
その天使の如く可愛い笑顔に俺は少しドキッとしてしまう。
「あ、あのさ……例の剣技を教える件。仕事中以外ならいつでも来ていいから」
「え、ホントに?」
「ああ。俺の知る限りしか教えられないけど、それでもいいか?」
「もちろんだよ! ありがとう、しーちゃん!」
リーフはそう嬉しそうに言うと、俺の胸に向かってダイブしてくる。
「お、おいリーフ! いきなり何を……」
「行ってらっしゃいのハグ。こうすると、一日リラックスして過ごすことができるんだって」
「へ、へぇ~そうなのか」
とはいってもすごい恥ずかしい。
それに何だか昨日の夜からリーフがやけに積極的な気がするのは気のせいだろうか?
「あ、ありがとうリーフ。もう大丈夫だ」
「うん、分かった」
流石にこれ以上やられると恥ずかしてやばいので一言。
するとリーフは俺の元からスッと離れるとまたニコリと微笑んだ。
くそっ、めっちゃ可愛いんだけどこの幼馴染!
「じゃ、じゃあ俺はそろそろ行くわ」
「うん。あ、ちょっと待って!」
「ん?」
待ったをかけたリーフはすぐにキッチンへと向かうと、何かが入った小さな袋を手渡してきた。
「これは?」
「お弁当だよ。いつも質素なものしか食べてないらしいから、作ったの」
「ま、マジかよ……」
リーフが俺のためにお弁当を……!
幼馴染とはいえ、ここまでしてくれるなんて……
「え、えっと……迷惑……だった?」
「とんでもない! すっげぇ嬉しいよ。ありがとうな!」
リーフの旨い料理が外でも食えるなんて夢みたいだ。
「これはもう今日の仕事は精が出まくり確定だな」
「そ、そんな……大袈裟だよ」
リーフはほのかに頬を赤らめると、緩んだ口元を手で隠した。
今更隠してももう遅いというのに……
ホント、いつから俺の幼馴染はこんなに可愛くなっただろうか。
「し、しーちゃん……」
「ん?」
「あ、あんまりじっと見られると……その……恥ずかしいよ」
「え、あ、ああ悪い!」
つい可愛くて見入ってしまっていた……なんて言えるはずないよな。
本当は言ってあげたいけど、言ったら言ったらで俺の精神が持ちそうにないし。
「そ、それじゃあ……俺はもう行くからな」
「う、うん……! お仕事頑張ってね!」
「お前も勇者軍での仕事、サボるなよ」
「さ、サボんないもん! 最近はしっかり仕事してるんだから」
ということは前まではサボっていたと。
というのはあえて口に出さず、心に留めておくことにする。
「あ、あのしーちゃん!」
「なんだ?」
「また……来てくれる……?」
少し恥じらいを見せながら、リーフは小声で言う。
俺は迷うことなく、その質問に笑顔で答えた。
「ああ、もちろんだ。また来るよ。じゃ、行ってきます」
「う、うん! 行ってらっしゃい!」
まるで太陽のように眩しい笑顔に見送られながら。
俺は可愛らしいお弁当袋を持って、いつものように仕事に向かうのだった。