124.一つ屋根の下
人生何が起きるか分からない。
これはどんな人間でも言えることだ。
内容はいいこともあれば悪いこともある。
人生を変える転機のような大きな出来事が起こる時もあれば、本当に些細なことでもあったりするのだ。
でもそれらのことには一つだけ、共通するものがある。
それは自分が予想していない、もしくは予想していなかったことが起きるという場面で限定するということ。
そもそも起きるのが分かっているイベントなら「何が起きるか分からない」なんて発想には至らない。
自分ではあり得ないようなことが起こるからこそ、そのような発想に至るのだ。
とまぁ、こんな感じで長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかというと、今の俺はまさにそんな状況に陥っているということだった。
「え、えっと……リーフレットさん?」
「はい」
「なんか、恥ずかしいのですが……」
「奇遇ですね。わたしもです」
隣で横になる美女は少し小さめの声でそう言った。
現在、俺はリーフレットの家のベッドの上で横になっている。
そして隣には我が幼馴染の姿が。
そう。
俺は今、幼馴染である女の子と寝床を共にしているのである。
「な、何かあれだな。昔を思い出すな……」
「そうだね。あの頃は毎日が楽しかったな~」
「だ、だな……」
……
……
(お、落ち着かねぇ……!)
それは時間が経つごとに実感する。
最初、ベッドに入った時はまだ余裕はあった。
うちのベッドと違って布団はふかふかだし、枕は良い匂いするし、むしろリラックスしてたくらい。
でもそれは時間と共に崩壊していった。
今ではもう、隣に女の子が寝ているという事実しか俺の頭の中にはない。
それがたとえ幼馴染であろうとも、だ。
だって普通に考えたら、これって恋人同士がするようなことじゃん?
確かに昔は家に遊びに行って一緒に寝たことはあったけど、あれは小さい頃の話。
まだ何も知らず、無知だったころだったから意識することはなかった。
でも今は違う。
あれからお互いに成長して大人になって、色々なことを知り得た。
だから当然の如く、小さい時の頃同じと同じ思考……というわけにはいかない。
また別の、新しい意識が生まれる。
今回のはその典型的な例と言えよう。
今まで仲が良かった女の子と一つ屋根の下、しかも一緒の布団で寝ている。
相手は幼馴染……でも異性であることに変わりはない。
そしてさらにそこから成長と共に変化した要素が上乗せされる。
こんなの……
(意識しないはずがない……!)
男ってのは単純な生き物だ。
それ故に困ることもある。
それが今の状況ってわけで……
「ふふっ、でも何か変な感じだね」
「へ、変な感じ?」
「うん。だってなんか昔と違うんだもん。あの頃は隣で平気で寝られたのに、今はちょっと緊張してる」
「ま、まぁ……あれからお互い成長したからな」
いつまでも同じというわけにもいかないだろう。
中にはずっと意識が幼い時のままの人もいるんだろうけど。
「ねぇ、しーちゃん」
「ん、どうした?」
リーフレットは少し甘めの声で俺の名を呼んだ。
恥ずかしさもあってか、リーフレットの方は向かずに天井を向いたまま、俺は返答をした。
「なんか全然寝られないから、ちょっとだけお話しない?」
「あ、ああ。別に構わないが……」
むしろ大賛成。
正直、俺も全然寝れそうにないからな。
それに、話していればいつかは眠くなるだろうし。
「やったぁ! えっとね、この前本部で面白いことがあってね――」
リーフレットは弾むような語調で楽しそうにお喋りを始めた。
俺は未だ薄暗い部屋の天井のみを見つめたまま、彼女の話に耳を傾けるのだった。