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123.一緒に……


「ごちそうさま。最高だったよ、ホントありがとうな」


「そういってくれると作った甲斐がありました。しーちゃんも洗い物してくれてありがとうね」


「おう。せめてそれくらいはしないと、罰が当たるからな」

 

 食事を終え、俺はリーフの代わりに洗い物を済ませると、二人仲良く部屋でくつろいでいた。

 満たされた心と空腹感から俺の身体は一気に身軽になり、溜まっていた仕事の疲れなんて嘘のように吹きんでいた。


 大体家に帰ると、重い身体をベッドに預けるような生活ばかりを続けていたから、今日は何だか新鮮な気分。

 ひとときの幸福ではあるかもしれないけど、こんなに心地の良いものだと知ると、前までの生活がアホらしく思えてくる。


 ホント、過ごし方一つでここまで世界が変わって見えるなんてな……


「さっきから天井ばっか見てるけどどうかした?」


 ポカンとベッドに寄りかかりながら天井を見上げる俺に雑誌を片手に持ったリーフがそう聞いてくる。

 俺はそのまま首だけをリーフの方に向けると、


「いや、幸せだなって。こんな生活ができたらさぞ毎日が楽しくなるんだろうなぁ~って、そう思ってたんだよ」


 なんでこうも後から恥ずかしさで悶絶するほどであろうセンテンスがホイホイと出てくるのか。

 言い終わった後で自分でもそう不思議に思う。


 でも嘘を言っているわけじゃないんだ。

 

「そんな……大袈裟だよ」


「大袈裟なんかじゃない。これは俺の本心だ」


 これはお世辞でも何でもなく、本当に自分が思ったことを口にしている……ホイホイと言葉が出てきちゃうのも感情が先行してつい出ちゃうんだろうな。


 リーフは俺の言葉を聞くと、途端に目を反らす。

 するとボソボソッと小さな声で……


「もう……しーちゃんはズルいよ……」


「えっ、今なんか言ったか?」


「な、何でもない! しーちゃんのバカ!」


「は、はい!?」


 途端に怒りを見せながら、リーフは手に持った雑誌に顔を埋めた。


(これって、照れ隠しってやつなのか……?)


 怒っているとはいえ、語調に全く棘がなかった。

 雑誌からチラッと見えた頬は真っ赤に染まっており、雑誌の切れ端から目だけをチラッと出したり引っ込めたりして俺の様子を伺ってくる。


 そして目が合うとまた雑誌に顔を埋める。


(何なんだ、その可愛らしい仕草は……)


 この後。

 俺たちはしばらくの間、何も会話をしない時間を過ごした。


 今までにない独特かつ緊張感高まる雰囲気が少しずつ俺の心に変化をもたらし、少しずつ落ち着きをなくしていく。


 そんな時間が15分ほどたった頃だろうか。

 俺のこの落ち着かない心は絶頂期を迎え、勢いよくサッと立ち上がると、


「お、俺はもうそろそろ寝ようかな。あ、明日も朝から仕事あるし……」


「あっ、うん。わかった」


 そういうとリーフは雑誌をテーブルの上に置くと、扉の方に向かってスタスタと歩き出した。


「ん、リーフ……どこにいくんだ?」


「毛布を取りに行くの。しーちゃんはベッド使っていいよ」


「お、お前はどうするんだよ」


「わたしは下で寝るよ。別にベッドじゃなくても毛布さえあればわたしは寝れるから」


「い、いやいやいや! それは悪いって! リーフがベッドを使ってくれ、俺が下で寝るから!」


 当然だが、部屋にベッドは一つしかない。

 とはいっても少し大きめなベッドで、二人で寝ようと思えば寝れるが、流石にそこまで図々しいことはできない。


 こういう時は男は黙って下で寝るものなのだ。


「いいよ。しーちゃん、お仕事で疲れてるだろうし、明日も朝早いんでしょ? それにベッドで寝た方が身体も休まるよ?」


「いや……それはそうだが、仕事があるのはリーフも同じだろ? そもそもこれはリーフのベッドなんだし……」


 いくら相手が良いとはいっても、快く「はい」とは言えない。

 寝るのが男ってだけで抵抗があってもおかしくないだろうに……


「むぅ……しーちゃんってこういう時に限って頑固なんだよね……」


「そ、それは……仕方ないだろ」


 あくまで俺は自分のことよりも、常識を優先したまで。

 親しい中にも礼儀ありというように、親密な間柄でもある程度一線は引かないといけない。


 世の中とはそういうもんだと俺は思っている。


「……分かった。じゃあこうしよ」

 

「ん……?」

 

 何かいい案を思いついたのか、俺の方にスタスタと歩いてくる。

 そしてスッと顔を上げると、恥ずかしそうに口をもごもごさせながら。


「……わたしも一緒に寝る」


「え……? 今なんて……?」


 まさかと思い、問い返すと、


「だから……! わたしもしーちゃんと一緒にベッドで寝るの!」


 そこにあったのは耳まで真っ赤にさせ、羞恥心を隠しきれていない少女の姿。

 蒼く澄みきった双眼を潤わせ、それでいて俺から絶対に目線を反らすことなく。


 彼女はそう、強く言ったのだ。

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