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121.乙女は悶える


 今、家には幼馴染のしーちゃんが来ている。

 経緯はわたしがしーちゃんに剣技を教わりたいという意思を伝えるため。


 そのためにわざわざ仕事終わりにも関わらず、家まで足を運んでもらったのだ。


 そして、今わたしは自分の家のキッチンにいる。

 というのも、彼は仕事を終えてからまだ何も食べていないとのことで何か力のつくものをと思ってキッチンまで来たのはいいのだが……


「ど、どどどどうしようっ……!」

 

 わたし、リーフレット・ルーデントは悩み悶えていた。

 誰もいない空間に身を置いてから、わずか数秒。


 自分のした行動に対して後からやってきた羞恥心にわたしの心は酷くかき乱されていた。


「泊まっていいよ、だなんて……」


 もう王都の外に出るための門限は過ぎていたし、状況的には仕方がなかった。

 しーちゃんはわたしに配慮してくれたのか宿を取るって言ってくれたけど、今日は週末。


 年中観光客で溢れる王都で週末に(しかも夜に)宿を取るのは中々至難の業。

 場合によっては野宿もあり得る。


 わたしは彼をそんな状況に追い込むことは絶対にしたくなかった。

 そもそもこうなったのは全部、家に招いたわたしの責任なんだし。

 

 でもやっぱり……


「一緒に夜を共にするのは、ちょっとまだ……!」


 決して嫌なわけじゃない。

 むしろしーちゃんと一緒にいれる時間が長くなるから、嬉しい気持ちの方が大きい。


 でもまだ心の準備というか、精神的なものが追い付いていないというか……


「うぅ……どうしよう……」


 色々な思考が交差してどんどん頭の中がぐちゃくちゃになっていく。

 普段なら考えないような良からぬ思考も混じっており、思い出すために身体全体が熱くなる。


「しーちゃんはどう思っているんだろう……」


 ふとアツアツの脳からこんな考えが飛び出す。

 幼馴染とはいえ、いきなり泊まっていいよなんて言われたら色々と誤解を招いてしまうかもしれない。


 結構ナチュラルな感じでそう言っちゃったし。


「でも別に驚いている様子とかはなかったから……」


 何とも思っていないのかな?

 

 それはそれでちょっと複雑な想いがこみあげてくるけど。


「考えすぎなのかなぁ……」


 いつものような感じで接すればいい。

 これは究極の目標であり、理想の形だ。


 でも簡単にそうはいかないのも事実。


 長い付き合いとは言っても、やはり意識してしまうのは避けられない。

 いくら相手がしーちゃんとはいっても同い年の異性という事実は変わらないのだ。


 つまり何が言いたいのかというと、異性の子と一つ屋根の下で、ということは何が起きても不思議ではないということ。

 

 考えすぎなところもあるかもしれないけど、そんな思考を張り巡らせている内は意識でざる負えないのだ。


「と、とりあえずこのことは後で考えよう……」


 今は何か力のつく料理を作ることに専念しようと思う。

 あまり長引かせると、不審に思われたりするかもしれないし。


「まずは食材を……」


 今回作る料理は前にしーちゃんを看病した時に作ったクリームシチュー。

 彼に大絶賛されてから密かに練習を重ねていた、というのはわたしだけの秘密。


 あれからかなり練習を重ねて、自分でも結構うまくなったなと自負できるまでになっていた。

 作り過ぎのせいで一週間ずっとクリームシチューだったこともあったくらいだ。


「牛乳はこれくらいで……後はコンソメパウダーを……」


 不思議と料理をしている間は平然としていられた。

 おかげで特に手間取ることもなく、いつも通りに事が進んでいく。


「しーちゃん、また美味しいって言ってくれるかな……」


 そんなことを考えながら、鍋一杯に入ったクリームシチューをかき混ぜ、しばらく放置してじっくりと煮込んでいく。

 時折、火加減をチェックしながら、隣でもう一品の作業を。


 流石にクリームシチューだけでは寂しいのでもう一品作ることにした。


「これからどうしよう……どう接すれば……」


 その間、わたしの思考は再びさっきの問題へと戻る。

 

「ただ普通に、いつも通りでいればいいだけなのに……」


 そう思っていても、自分の意思に背いた感情が出てきてしまう。

 でも深く考えすぎると、次から次へと良からぬ妄想が出てきてしまうのだ。


 例えば、あんなことやこんなことが……


「あ~ダメダメダメ!!」


 よくない流れが来ている。

 でも考えるなというと余計に意識が――


「うぅぅぅ……」


 頭を抱え、またもの迷宮入りしてしまう。

 だが次の瞬間、一気に我に帰る出来事がわたしの嗅覚から脳に伝わってきた。


「あれ、なにこの匂い……」

 

 なんか、普通じゃない……この焦げ臭いような香りは……


「……あっ!!」


 ハッと思い、クリームシチューの入った鍋を覗く。

 気がついた時にはもう遅くて、鍋底が煮込み過ぎで焦げていた。


「あぁ、どうしよう……」


 考えることに気を取られ、完全に鍋の方の意識がなくなっていた。

 わたしはすぐに火を止めると、数秒間その場に立ち尽くしたのだった。

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