120.やっちまった……
「はぁ……やっちまった……」
俺、シオン・ハルバードは誰もいないこの空間で、一人悩んでいた。
「まさか帰れなくなるとは……不覚だった」
今宵、俺はリーフの願いで彼女の師匠となった。
……のはいいのだが、問題はその後のこと。
俺はリーフから例の話をされてから、少し雑談をして二人きりの時間を過ごしていた。
だがそれがよくなかった。
俺はいつの間にか時間を忘れ、気がつけば王都の門が閉まる門限の時間を過ぎ、家に帰れなくなったのである。
ちなみに王都の門が閉まるのは午後9時。
そして現在時刻は午後の10時過ぎ。
その一時間の超過に気付いたのはざっと15分前ほど。
要するに”やっちまった”わけである。
だが帰れなくなったとはいえ、流石にここでお泊りするわけにもいかないので宿を探そうとするも、リーフに止められ、結局俺はリーフの家に泊まらせてもらうことに。
で、今リーフがまだ夕飯を食べていない俺のために何か作ってくれるとのことで、部屋で待機。
現在に至るわけである。
「落ち着け……落ち着けオレ……」
いくら初めての異性の子の家でのお泊りとはいえ、相手はリーフ。
昔からの馴染みだ。
だから何ら意識することはない。
実際、ガキの頃に何度かリーフの家に泊まったことがあるし、一緒に寝たことだってある。
だから今回もかつてのあの時と同じようにすればいいんだ。
同じようにすればいいはずなのに……
(なぜこうも意識してしまうんだ……!?)
初めてこの部屋に上がった時も正直、心臓バクバクだった。
相手はリーフ、幼馴染で10年以上も長い付き合い。
なのにまるで別人の女の子の家にお邪魔したかのような緊張感が身体全体を駆け巡った。
多分、容姿が激変した影響もあるんだろうけど、一番の要因はリーフの女性としての魅力が大きくアップしたことにある。
正直な話、ガキの頃はリーフを一人の女の子として見ているわけではなかった。
何も知らなかったというのもあるんだろうけど、あくまで幼馴染という認識が強くあったからか、それ以上の感情を抱くことはなかったのだ。
それは今でも変わらない。
でも、こうして大人になってみるとやはり男女としての意識が多かれ少なかれ出てきてしまう。
たとえ相手が幼馴染でも美人で優しくてスタイルが良い女の子に意識が向かないわけがない。
現に、今の俺は軽くパニック状態に陥っている。
リーフ自身は何とも思っていないんだろうけど、俺はそうはいかない。
可愛い女の子と一つ屋根の下で一夜を過ごすという現実を目の前にして落ち着けって言われる方が無理な話だ。
それは相手が幼馴染だろうが、何だろうが関係ない。
俺は今日、超絶美人な女の子と夜を共にする。
この現実だけが俺の心を支配しているのだ。
「くそっ……どうすれば……!」
次々と脳内に現れる妄想の数々。
中には卑猥極まりないものもあり、頭の中をは数多くの妄想で埋め尽くされ、かき乱されていく。
「あぁぁぁぁぁぁ! もうっ!」
しーんと静まり返る部屋で一人悩み苦しむ。
そんな中、時を同じくしてキッチンでは……
「ど、どどどどうしよう! その場のノリで泊まっていいよなんて言っちゃったけど……よくよく考えてみればこれって……」
同じように悶絶する一人の少女の姿があった。