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119.幼馴染と夜の王都4


「で、弟子にしてほしいって……今そう言ったのか?」


「はい」


「冗談とかじゃなくて?」


「本気です」


「マジで?」


「マジです」


 リーフの真剣な顔つきから嘘ではないことは分かる。

 でも予想もしない言葉が出てきたからか、俺は脳内は何とも言えない状況に陥っていた。


 予想していた展開とは全く違う方向に行ったからな。

 

 俺はてっきり……


「しーちゃん?」


「あ、悪い。いきなり予想外なことを言われたもんだから」


「そ、そうだよね……ごめんね、いきなりこんなこと」


 リーフも俺の表情から何を汲み取ったのか、すぐに謝ってきた。

 確かに突然こんなことを言われれば反応に困る。


 だからこそ、リーフは今まで言おうにも言いにくかったのだろう。


「リーフ、一つ聞きたいんだが」


「ん?」


「その……俺の弟子になりたいって、剣術とかそういうのを学びたいってことか?」


「うん。そういうことになるね」


「でもどうして……」


「……もっと強くなりたいの。勇者として胸を張れるくらいの強さが。でも、今のわたしじゃこれ以上強くなれない……そんな気がするの」


「そんなことはないと思うぞ。最近は鍛錬も頑張っていたじゃないか」


 俺と会うまでは少々おサボりがあったみたいだが、最近のリーフは誰よりも鍛錬に打ち込んでいた。

 現に俺は毎日本部に行く度に、リーフの頑張っている姿を見ていたしな。


 確かに未熟な点はある。

 でも彼女の才能と潜在能力を持ってすれば、より高みへ至るのはそれほど難儀なことではない。


 一つ、一つ、段階を踏んでいけば多分、俺なんかよりも遥かに強い力を得ることが出来ると思っている。

 でも、彼女の思考は俺の思考の真逆を行っていた。


「峡谷での戦いで、わたしは思ったの。これが自分の限界なんじゃないかって」


「なぜそう思う?」


「分からない。でも、あの時のわたしは確かに今までの自分を遥かに超える力を発揮した。でも……結局は敵わなかった。また、わたしはしーちゃんに助けられちゃった」


 彼女から発せられる言葉には一言一言に重みを感じた。

 あの時、リーフは自分の中にいるもう一人の自分と戦っていた。


 強く前向きな自分と、昔からの弱く臆病な自分。


 でも最終的にリーフは臆病な自分に勝ち、覚悟を持ってバルガに剣を抜いた。


 確かに結果だけで物事を片付けてしまえば、リーフの剣はバルガにあと少し及んでいなかった。

 それは事実であり、認めなければならないこと。

 

 彼女にとって、いい意味でも悪い意味でも様々なものを得ることができた一戦だったのだ。


「一度ならまだしも二度も危機を救われるなんて。ほんと、情けないよ」


「でも、あの時リーフが助けてくれなかったら俺はバルガに致命傷を負わされていた。バルガを倒せたのも、今俺がここにいるのも、全部リーフのおかげなんだぞ?」


 バルガにハメられた時、俺は一瞬だけ死を予感した。

 脳裏に過る死への認識。


 そんな危機を救ってくれたのは紛れもなく彼女、リーフレットだった。

 

「今の俺がいるのはリーフのおかげなんだ。だからそう自分を責めるな」


「……でも、今のままじゃ誰も救えない。わたしはあの戦いで全てを確信したの。自分一人の力だけじゃ叶えられないものがあるって……」


「リーフ……」


 向上心の高さ、責任感の強さ故に彼女は深く悩んでいた。

 このままじゃいけないと。


 そして同時に自分一人の力じゃ限界だと悟った悔しさも、顔全体からにじみ出ていた。


「リーフ、一つ聞いてもいいか?」


「ん……?」


「何故今まで剣を教えてほしいって、そう言わなかったんだ?」


「そ、それは……」


 普通にそう言ってくれれば、俺はリーフの願いをすんなり聞き入れただろう。

 時間がある限り、剣術でも体術でもいくらでも教えたのに。


 むしろ俺の持つ知識で得るものがあるのなら、その全てを与えてやりたいくらいだ。


「わたしも本当は”あの時”からずっと言いたかった」


「峡谷でのことか?」


「そう。でも言えなかった」


「どうして……?」


「だ、だって……」


 リーフは自分の服の裾をぎゅっと掴むと、


「最近のしーちゃん、凄く忙しそうだったから……」


「い、忙しい? 俺が?」


「うん……」


 リーフレットは力なく頷くと、話を続けた。


「この前、少しだけリベルカ団長から聞いたの。しーちゃんのことについて」


「俺のこと?」


「うん。毎日本部に顔を出して仕事をしていたから、しっかりと休養出来ていないんじゃないかって思って」


 リーフはずっと気にかけてくれていた。

 俺が仕事漬けの日々を送っていることに。


 事実、最近の俺は本業である鍛冶職人の仕事を終えてから勇者軍本部で育成組(Cランク)の教育をするのがルーティーンとなっていた。

 休息日で工房が閉まっている時も本部には定期的に顔を出し、契約通りの職務を熟す。


 それこそ、まともに休んだのが昨日までの長期休暇くらいだった


「たたでさえ職人業って体力を求められるお仕事なのに、しーちゃんは勇者軍のことも気にかけてくれてる。本当は仕事終わりで凄く疲れているはずなのに……」


 リーフの表情が次第に暗く、沈んでいく。


「だから言えなかったの。わたしのために時間を割いてなんて、とてもじゃないけど……」


 そう、だったのか……


 まぁ実際、ハードスケジュールなのは否定はしない。

 正直身体にもそれなりにくるし、疲労は溜まっていく一方だ。


 でもこれは俺が好きでやっていること。

 職人業も勇者軍でのことも。


 元々は勇者軍の方は契約上の中での話だったけど、今ではそれなりに楽しくやっている。

 色々な人と関わることも増えたし、育成組の中には俺を慕ってくれる若き勇者もいる。

 

 辛いことも多いけど、そればっかりじゃないんだ。


 それに、鎧や剣を運ぶ仕事なんかより人に剣を教える方が数倍楽しいしな。

 今更用事の一つや二つができたとしても生活サイクルに支障をきたすわけでもない。


 毎日がアクティビティなのもう慣れたし、本部にいる間は少しだけ暇な時間もあるしな。

 暇な時間を無駄に過ごすよりは何百倍、いや何千倍も有意義だ。


「……話は分かった。でもその心配はいらない」


「……え?」


「俺は決めたよ。今日から、リーフの師匠になろうってな。これはもう確定事項だ」


「し、師匠って……しーちゃん?」


 当の本人は顔を上げるときょとんとした目でこちらを見てくる。

 俺はもう一度、リーフレットの顔を見て告げる。


「そうだ。今日から俺は……リーフの師匠になる。俺がお前を……立派な戦士にしてやる」


「ほ、本当にいいの?」


「ああ。でもその代わり、俺の鍛錬は厳しいぞ。付いてこれるか?」


「う、うん! 付いていく……わたしはしーちゃんにどこまでついていくよ!」


 さっきまで雲に隠れていたリーフの表情は天晴れのように輝きを放っていた。

 

 大いなる希望を手に入れたような、輝かしき瞳。

 その奥に感じるただ強くなりたいと思う静かなる闘志。


 その想いを背負うだけのものを彼女に与えることができるかは分からないけど。


 俺はリーフが願うことなら何だって叶えてあげたい。

 この想いは昔から変わらない。

 

 幼馴染として過ごしてきてから、ずっと。


「じゃあ、決まりだな! よろしくな、我が弟子よ」


「う、うんっ……! よろしく……お願いします! 師匠!」


 俺は手を差し伸べると、リーフもその手の上に重ねるようにして自分の手の平をそっと置く。

 温かくて柔らかなその手にはまだ緊張による震えが残っていた。

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