118.幼馴染と夜の王都3
お久しぶりです。
リアルの方が少し落ち着いてきたので、ちょっとずつですが、更新を再開していきたいと思います。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
「あのーリーフレットさん?」
「はい」
「一つお聞きしたいのですが、女にしてほしいって……どういう意味で?」
「言葉通りの意味です。わたしはしーちゃんに立派な女にしてもらいたいのです」
夜の王都。
人々がまだ歓楽街に入り浸っている時間に俺は幼馴染の家にいる。
そして今、俺は幼馴染から衝撃的なお願いをされてしまった。
(お、女にしてほしいって……)
つまり……そういうことだよな?
あくまで俺の認識が間違っていなければの話だが。
(いや、待てシオン。一旦情報を整理するんだ)
最近のリーフは何だか様子がおかしかった。
峡谷からの帰り道も何だかそっけなかったし、王都に帰ってからもそれは変わらなかった。
俺が休んでいる間の数日間は全く会うこともなかったし、これといって連絡を取っていたわけでもなかった。
そんな中でようやく顔を合わせて会話したのが今日の早朝だ。
リーフは話したいことがあるから、夜家に来てほしいと言った。
でも、もうこの時点で俺は何かを疑うべきだったんだ。
こんな時間に女の子がわざわざ俺を家に招くなんて、よっぽどの理由があったからこそ。
単なるお願いなら早朝のあのタイミングでも言えないことはなかったはず。
でもリーフはこの場を設けてまで言いたいことがあった。
この時間に、二人きりで。
そして今、彼女の口から出た願いとは、自分を女にしてほしいという衝撃的なものだった。
そもそもの話。
冷静に考えてみれば、初めから可笑しかったのだ。
今までのリーフの行動や仕草から考えて、単なるお願いではないことぐらいは分かったはず。
それが女にしてほしいという極端なものだとは流石に予想はしてなかったけど。
「あの……しーちゃん?」
でも一つだけ、どうしても分からないことがある。
それは何故リーフがそのようなお願いをするまでに至ったか。
最近のリーフは確かに可笑しかった。
でもそれは例の峡谷での一件からで、それ以前はそんな素振りは見せていなかった。
むしろ昔通りで何の違和感もない彼女の本来の姿だった。
(いつから歯車が狂ったんだ……?)
「ねぇ、しーちゃん!」
「えっ……うわっ、り、リーフ!?」
考え込んでいる最中、頭に入って来る彼女の叫び。
その声で目覚めて前を向いた時には目の前にリーフの顔があった。
てか近い、かなり近い……!
心臓の鼓動が早まっていく。
というかこうして見ると、改めてリーフが美人になったんだということがよく分かる。
成長して顔立ちはより大人の女性っぽくなり、スタイルは華奢ではあるが、つくところはしっかりついていて、尚且つ色気も申し分ないくらいあって、女性としての魅力が格段にアップした。
多分、この子が幼馴染という関係じゃなかったら、こうして目を合わせて話すことすらできなかったと思う。
あまりに女っ気のない俺にとっては高嶺の花すぎて。
「もう……やっとこっち向いてくれた」
リーフレットは少し顔を顰めながら、ぷくーっと頬を膨らませる。
俺が思考の迷宮を彷徨っている間に何度も声をかけていたらしい。
「悪い、全然気づかなかった」
「ふーん……目の前にこんな可愛い女の子がいるのにそっちのけで他のこと考えてたんだぁー」
自分でそれを言うか……まぁ、実際可愛いのは事実だけど。
「いや、今考えていたのはリーフのことで……」
「わたしのこと?」
「そ、そう! だから断じて他のことなど考えてない!」
嘘ではない。
本当の話だ。
リーフレットはじーっと俺を見ながら、目を細める。
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「ならよし!」
納得してくれたようだ。
現にリーフのことを考えていたからな。
何も動揺することはない。
「ところで、しーちゃん」
「なんだ?」
「わたしのことを考えていたって言ったけど、一体何を考えていたの?」
「え?」
「わたしのこと考えていたんでしょ? 何を考えていたの?」
「いや、普通に何でなのかなって」
「なんでって?」
「いきなりとんでもないお願いをするからさ。何かあったのかなって思って」
色々な過程をすっ飛ばしてのお願いだ。
その要因は分からないが、何かあったのかと思ってしまう。
いや、むしろ何かないとおかしいな。
そうでなければ、こんなお願いに至らないと思うし。
(……いやいや、ちょっと待てよ)
もう一つ、考えられる可能性があるな。
それはリーフ自身が心から望んで……という場合。
つまりは俺を求めての願いだということだ。
可能性は限りなく低いが、ゼロではない。
仮にもリーフが俺に好意を持っていて、そうお願いをして来たのだとしたら……
「しーちゃん?」
「……え?」
「またぼーっとしてたけど、本当にどうしたの? 何かあった?」
俺はまた気づかぬうちに思考の迷宮に迷い込んでいたらしい。
流石にリーフも心配になってきたのか、俺にその潤った碧眼を向けてくる。
「何でもないよ。ごめん、心配かけて」
「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫」
いらない心配をリーフにかけさせてしまった。
考えすぎもよくないってことか。
それに、真相を知りたければ直接聞けばいいんだ。
こうして面と向かって話しているのだから。
「あ、あのさしーちゃん。話を戻すんだけど……」
「お、おう……」
リーフレットは少し言葉を詰まらせながらも、話を振り出しに戻す。
俺もその真意を探るために正座をして、耳を傾ける。
「わたしはしーちゃんに立派な女にしてほしいの」
「うん。それは分かったけど、なんで俺なんだ?」
「そ、それは……しーちゃんにしかできないことだからだよ」
「俺にしかできないこと?」
「うん」と頷くと共に言いにくそうにモジモジと身体をくねらせるリーフレット。
やはり俺の思惑通り、リーフは俺に対して何か特別な感情でもあるんだろうか。
俺にしかできないってそういうことだもんな。
「わたしはあの時、痛感したの。自分がどれだけ未熟なのかってことを。今まで自分の中で勝手に限界を決めていて、わたしもそれでいいと思った。でもしーちゃんの姿を見ていたら、高まる気持ちがどうしても抑えられなかった。初めて変わりたいって強く思えたの」
「リーフ……」
リーフはリーフなりに考えていたんだな。
ここまで熱意ある告白をされれば、もう俺は何も言えない。
むしろ、面と向かって答えてあげないと失礼だ。
「だからしーちゃん、わたしを……」
リーフはその美麗な眼を向け、身を乗り出してくる。
そして何かを訴えかけるような強い眼差しで、俺を見つめてくる。
ゴクリ。
彼女の口から何が出てくるのか。
そんな緊張感を感じながら、俺は彼女の目を見る。
もう覚悟はできている。
今からリーフが何を言おうと、俺は受け入れるつもりだ。
……絶対に。
そんな想いを心に誓うと同時に。
リーフはその潤った唇を小さく動かし始めた。
「わたしを……しーちゃんの弟子にしてください」
「わかっ――は?」
……………………どゆこと?




