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115.夜の王都へ


「ふぅ……何とか成功ってところか」


 降り下げた一撃は竜玉の中心をバッチリと捉え、見事なまでに真っ二つに切り裂いた。

 その代償として俺の自信作もポッキリと逝ってしまったが。


「これくらいの大きさなら十分加工できるな。よしよし」


 これで斬れなかったいよいよ奥の手を使うことになる予定だったが、それは何とか回避された。

 あとは作る剣のスタイルに合わせて竜玉(これ)を加工して、軟鉄と混ぜ合わせつつ、少しずつ形を作っていくだけ。


 そうはいっても本格的に大変になるのはここからなんだが。

 まずは第一関門突破と言っていいだろう。


「お、そこにいるのはシオンか?」


「親方!」

 

 日もすぐに暮れるし、そろそろ工房に戻ろうかと思っていたところで。

 外倉庫に置きに来たのか、資材を持った親方が姿を現した。


 親方はその見事に真っ二つになった竜玉に目を向ける。


「おお、成功したのか」


「何とか。おかげで犠牲になったものもありますけど」


 俺は工房の外壁に立てかけてある半壊した魔力剣の方を見る。

 親方もその状況を見て大体を察してくれたようで。


「魔力剣ってそれをぶった切ったってことか。そりゃあ災難だったな」


「普通の工具類じゃ歯が立ちませんでしたからね。おかげで両手が痺れまくってますよ」


「でも、これで次のステップに行けるわけだ。大変なのはここからなんだから気張っていけよ」


「はい。頑張ります」


 今回の剣造りはいつもの作業とはワケが違う。

 責任を持って、というのはいつもと変わりないが、その責任の重みが桁違い。


 何せ今から俺が作るのはこの国を治めるクラリス王女の剣だ。

 頼まれた側とはいえ、生半可のものを作ることは決して許されない。


 聞けばクラリス王女は剣に対するこだわりがあるらしいから、尚のこと余計なものは作れない。

 現に今もクラリス王女から直々にこうしてほしいという要望がいくつか手紙で来ていた。

 

 しかも直筆で。


 責任の重さは一級品。

 でもだからこそ一人の職人としてやりがいも強く感じている。


「シオンはもうこれで上がりか?」


「はい。一応この後、予定があるので」


 この後、俺は王都でリーフレットに会う約束をしている。

 仕事があるとはいえ、遅れていくことはできない。


「そうか。でもこれから余裕がない時以外はなるべく残業はするなよ。俺たちにとっては身体が財産そのものなんだからよ」


「分かってますよ」


 親方もあまり人のこと言えない気がする。

 多分、この工房で誰よりも働いているんじゃなかろうか。


 朝もとんでもなく早い時間にいたり、夜通し作業をしていることも多いみたいだから、むしろ親方の方が身体に気を遣ってほしいと思う。


 まだまだ親方から学ばないといけないことも多いし。

 何より親方のような出来る技術者がいなくなるのは俺たち下っ端にとっては非常に悲しきことだ。

 

 見本となる者がいて初めて優秀な人材は誕生するんだからな。


「それじゃ、お疲れさまでした」


「おう! また明日も宜しく頼むぜ!」


 俺は親方に一礼すると、工房内へ。

 竜玉を作業台に置いてあった木箱に入れる。


 あとはこの最強の素材を使ってゆっくり時間をかけて一つの剣に仕上げていくだけ。

 出来る限り、三か月という期限をいっぱいまで使って最高の剣にしたい。


 こんなにも良い素材で剣造りができるんだ。

 どうせなら、自分が今まで作ったどの剣よりも上のものを作りたいものだ。


「結局、本格的な加工作業にまでは移れなかったな」


 今日はそこまで終わらせてから仕事を終えるつもりでいたが、竜玉を加工できるサイズにするために余計に時間を使ってしまった。


 一応、約束の時間まではまだ猶予はあるが、加工作業までやるとかなりギリギリだった。

 それに一度作業に着手してしまうと、職人としての熱が入ってしまって途中で中断できるか分からない。


 と、いうことで今日はもう上がることにした。


 俺はそのまま作業場から離れると、真っ先に更衣室へ。

 私服に着替え、頬に炭汚れなどないかを洗面台の鏡を見て確認すると、更衣室を出た。


「さて、行くか」


 最後に服の襟をしっかりと整えると、俺は王都へ向かうべく、夜の外へと繰り出すのだった。

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