114.加工模索2
「この辺でいいか……」
魔力剣を担いで作業場へと戻ってきた俺は竜玉を持って工房の外に繰り出していた。
「流石に工房内でやるわけにはいかないからな」
時間は午後6時を回ったところ。
もうすぐ日も暮れ、他の職人たちは続々と帰宅を始めていた。
俺も本当は帰宅しないといけないのだが、そろそろ依頼された剣造りを始めないと間に合わない。
それに今日は夜に王都でリーフに会う約束もしている。
あまり時間はないが、せめて素材の加工だけはしておきたい。
三か月の期限なんて職人からしたらあっという間に過ぎ去るものだからな。
「……よし、やるか」
竜玉を作業台に置き、セットする。
そして剣を両手で力強く握りしめ、ゆっくりと振り上げる。
「まずは一発目……」
少しずつ魔力を解放していき、勢いよく剣を振り下ろした。
しかし、そう簡単にうまくいくはずもなく。
ガンッという重い音が響き、案の定剣先は竜玉に弾かれてしまった。
「やっぱりこの程度の力じゃビクともしないか。てかめっちゃ痺れる……」
ジーンと痺れたところを手をぶらぶらとさせて緩和。
こりゃ早くケリをつけないとこっちの手が持ちそうにない。
「もう思いきって全力でやってみるか」
これで傷一つつけられなかったら、割とショックだけど。
「こっちの方も後一回が限界ってところか」
剣先を見てみると、なんともう既に刃こぼれが。
まだ製作してそんなに日は経っていない新品同様の物だがさっきの一撃で瀕死一歩手前までもっていかれていた。
「なんか、腑に落ちない気分だな。結構な自信作だったのに」
俺が一から作った剣は沢山剣庫にあるが、その中でもこれは自分の中では一級品のブツだった。
本来なら使わずに保存して売るなりする方がいいんだろうが、剣士の手前使ってみたいという衝動の方が強く、今回が絶好の機会なんじゃないかと引っ張りだしてきたものはいいものの……
「まさか、刃こぼれまでもっていかれるとは……」
もういっそ剣の強度を確かめるための道具にこの竜玉を使いたいくらい。
でも逆にこれを加工して剣を作ったら、親方の言う通りとんでもないものができそうかと思うと、ワクワクしてくる。
職人魂が疼くのだ。
「折れたらまた作ればいいし」
今度はもっと強く頑丈のものを。
職人というのは常日頃からさらに上の次元を見て仕事をしている。
限界を自分で決めたら職人はそこで終わり。
かつて親方が新米だった俺に口酸っぱく言っていた言葉だ。
だから自分の中で傑作と思っていた剣が折れようとも、構わない。
まぁ、傑作度が高ければ高いほど受けるショックが比例するのは否定できないが。
「今度はもっと力を入れて……」
俺は再度剣を振り上げる。
今度は徐々に、ではなく一気に魔力を解放。
俺の高ぶる魔力が周りの木々たちを揺らし、空気そのものを一変させる。
魔力流動が激しくなっていき、それに準じて心拍数も上がっていく。
俺はグッと両手に力を入れると、刃の部分が白く光りだす。
魔力剣に込められた術式が俺の魔力に反応して、共鳴現象が起きている証拠だ。
「そろそろ頃合いだな……」
狙いを竜玉の中心部分に定め、ガッチリと固定すると。
俺はそのまま力が込められたその剣を振り、一刀。
竜玉の中心に刃を入れた。