113.加工模索1
「これを素材に……か」
仕事を終え、皆が帰宅の準備をしていた頃。
俺は工房内の照明で輝く透明の球体を眺めていた。
「確かにこれを素材として使えば、とんでもないものができそうだけど……」
元々がドラゴンから稀にしか取れない貴重なもの。
その上、長い間体内で溜められてきた鉱石が膨大な魔力と融合して結晶化した、まさに力の結晶というべきものだ。
そんな良いものを素材に使えば、当然良いものが出来上がるに決まっている。
問題なのは……
「これをどう加工するか、だな……」
見た感じ、そう生半可な衝撃では欠けたりすることはなさそうだった。
当然ながら、この竜玉を素材として使うには剣に加工できるほどの大きさまで形を変えないとならない。
それに剣に加工するだけなら、別にこの竜玉全部を使わなくても、欠片くらいで十分なのだ。
「とりあえず、これでやってみるか……」
俺は近くにあった工具箱からハンマーを取り出す。
最初は素材生成の基本、物理的に力を加えて砕く方法だ。
「どうなるか分からないから、まずは軽くやってみないとな……」
ハンマーと言っても日曜大工とかで使うようなただのハンマーではない。
結晶や鉱石などを砕いて素材として使えるようにするための、ちょっと特殊なものだ。
所謂、職人道具ってやつ。
俺は早速竜玉を作業用の台に置いた。
そしてハンマーを大きく振り上げ、
「……せいっ!」
竜玉めがけてゆっくりと振り下ろした。
だがその一撃はカンッという激しい音と共に弾かれ、同時に身体全体にジーンと痺れるような感覚が俺を襲った。
「い、痛ってぇ~! なんなんだこの硬さは……」
軽く振り下ろしただけなのにこの痺れ具合。
その硬さは今まで俺が加工した来たとの鉱石よりも頑丈で、地面に叩きつけても音を響かせるだけで傷一つできなかった。
「思いっきりやっていたら、どうなっていたか分かったもんじゃないな……」
もしかしたら粉々になってしまうかも、と思った自分がバカらしく思えてくる。
まぁでも当然と言えば当然か。
長年溜め込まれた魔力がじっくりと形を作ってこうなったわけだから、生半可な攻撃じゃ砕けるわけがない。
もっと強力な衝撃を与えないとこれに傷すらもつけることはできないだろう。
「さて、どうしたものか……」
方法としては二つ考えられる。
一つは魔力剣でぶった切るか。
二つ目は聖威剣でぶった切るか。
まぁどちらにせよぶった切ることに変わりはないんだが、竜玉がどこまでの衝撃に耐えられるかは未知数なので、それなりにラインを敷いて置かないといけない。
聖威剣でやれば粉砕どころか跡形もなく吹き飛ぶ可能性があるからな。
その点、魔力剣は聖威剣ほどの力はないから消滅させることはないだろう。
ちなみに魔力剣とは名前の通り、普通の剣に武具強化の特殊術式を盛り込んだもの。
魔剣と混合しがちだが、別物だ。
「ますは魔力剣でやってみるか」
聖威剣はあくまで最後の手段に取っておくことに。
俺は一度作業場から離れると、製作した剣を保管する剣庫へと足を運ぶのだった。