112.最強の……
「魔封じのスクロールだ?」
「はい。俺の知り合いの魔法使いに作らせたものです。これがあれば球体の邪気を払うことができるかと」
ロゼッタに作ってもらった魔封じのスクロール。
これはその名の通り、魔の力を持つ者の霊気を奪い去ることができるもの。
本来は対魔人戦用に使おうと思っていたが、必要なくなったのでどうしようかと思っていた。
せっかく作ってもらったわけだし、処分するのもなと思っていたのでちょうどよかった。
これでこのアホみたいに膨大な邪気を取り払えるかは分からないけど。
「スクロールか。また古典的なものを……」
「でも効果はそれなりにあると思いますよ。作ってもらった奴がバカみたいに知識がある魔法マニアなので」
「ものは試しようか。やってみよう」
というわけでスクロールで邪気を払ってみることに。
俺たちはその竜玉を持ち、工房の裏口へと向かう。
何が起きるか未知数だからな。
安全のために外でやることにした。
「この辺でいいですかね」
一応、竜玉が動かないように木箱の中に入れたままにしている。
俺と親方は工房の裏口から外に出て、少し離れたところで木箱を地面に置くと……
「行きますよ、親方。一応、安全のために少し離れたところで見ていてください。術式が発動したらそれなりの衝撃が来ると思うので」
「お、おう……了解した」
親方は少し後ろに後ずさり、竜玉を眺める。
俺は親方が下がったのを確認すると、スクロールの紐を素早く解いた。
と、瞬間。
魔封じの上空に赤色の魔方陣が出現し、そこから発せられた光が竜玉を瞬時に包み込んだ。
竜玉も光を浴びた途端、すぐに反応を示す。
あの時と同じ紫色の光を放ち、同時に黒い霧のようなものが辺り一帯に広がる。
そしてその直後。
魔方陣がその霧を吸い上げ、それを拒むように竜玉から身体が吹き飛ばされるほどのとてつもない暴風が巻き起こった。
「な、なんだこの風は!」
「親方、俺の後ろに来てください! スキル≪耐風防御≫!」
親方を俺の後ろにすぐに誘導。
体術スキルを発動させ、暴風を凌ぐ。
「し、シオンよ。なんなんだこの荒風は!」
「大量の魔力が一気に溢れ出たことによるものです。あの竜玉に秘められていた邪気の力そのもの……というべきですかね」
「じゃ、じゃああの黒い霧が……」
「あの竜玉に込められていた邪の霊気です」
巻き起こる暴風。
その暴風と共に魔法陣が少しずつ邪気を吸い上げていく。
にしてもすごい魔力だ。
あの球体一つにこれほどの魔力が溜まっていたとは。
(初めて手にした時もゾクッという感覚は感じたけど……)
こうしている時も自身の体内に流れる魔力と反応して、心拍数がどんどん上がっていっているのが分かる。
「ど、どうだシオン? いい感じなのか?」
「今のところは順調ですよ」
親方は吹き飛ばされないよう、俺の背中に手をかけている。
それから少しずつ風は止んでいき、竜玉も光を失っていった。
いつの間にか黒い霧も綺麗さっぱり消えており、どうやら魔封じは成功したみたいだ。
「お、終わったのか……?」
「はい。成功みたいですよ」
俺は蓋の空いた木箱から竜玉を取り出すと、
「おお、なんだこりゃ……!」
「ん……? おお、こりゃすごい!」
魔を取り除いた後の竜玉はさっきと見違えるほどのものになっていた。
色や形は変わっていないが、代わりにガラスのように透き通った綺麗なものに。
覗けば向こう側が透けて見え、太陽の光が当たると、その綺麗さが更に際立つ。
「まるでダイヤだな」
「これは売ったらとんでもない額の値がつきそうですね」
まぁ、売る気はないんだが。
かといって使い道があるわけでもなく……
「親方、どうしますかこれ。売るにしても勿体ない気がしますし。やっぱりインテリアとして……」
「何言ってんだ、シオン。これこそお前が今、一番使うべきものだろう。これを使えば確実にとんでもないものができるぞ!」
親方は少し興奮気味にそう語る。
使うにしても一体何に……と思ったその直後。
俺は過去に頼まれていた”あること”を思い出した。
「も、もしかして親方……」
「ああ、そうだ。これを素材にして作るんだよ」
女王陛下用の、最高の剣を。