109.とある早朝の出来事
「ん、んん……朝か?」
起きたら目の前にあったのは見慣れた自室の天井。
カーテンから隙間から差し込む一筋の光が、ちょうど俺の目の元に届き、俺に朝を告げた。
「ふわぁ~」
大きな欠伸を一つ。
そこから地に足をつけ、いつものように洗面台へと直行する。
気付けば、俺たちが王都に帰ってからまる二日が経過していた。
王都に帰った後、俺はリベルカに報告を済ませ、工房に帰った。
身体は疲れていたが、休んだ分の仕事を済ませるつもりで工房に行ったものの、親方に疲労を見抜かれ、休めと警告。
二日間の休みを貰い、今に至るというわけだ。
「今日から仕事漬けだな……」
最近、色々あって仕事が手につかない状況になっている。
親方は気にするなと言ってくれてはいるが、やはり申し訳ない。
まだまだ返すべき恩は残っているのに。
「……よし」
歯を磨き、顔を洗い、服を着替える。
テーブルには昨晩市場で買ってきた安売りパンが。
それにバターを塗り、質素ながら朝食を済ませ、身支度を始める。
今日はそのまま工房に行って仕事の予定。
あれから発注数がとんでもないことになっているらしく、あまりの忙しさに職人も新たに何人か採用したらしい。
そんな中で不在だったということで、さらに罪悪感が俺を襲った。
「せめて、この二日間分の仕事はこなさないと!」
俺は玄関を出る前に頬を二回。
パンパンと叩き、気合いを注入する。
そしてよし行くかと玄関の扉を開けた――時だった。
「きゃっ……!」
扉に何かが触れた。
同時に謎の悲鳴が……
「って、リーフ!?」
扉を開けると、目の前で尻もちをつくリーフレットの姿が。
「だ、大丈夫か? 怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫。ドアをノックしようとしたらいきなり扉が開いて……」
「わ、悪い。まさかリーフがいるなんて知らなかったからさ」
「ううん、こちらこそいきなり訪問しちゃってごめんね」
ちょうど俺の扉を開けるタイミングが悪かったらしい。
でもそれよりも気になるのは、なぜここにリーフがいるかだ。
時間もまだ7時前とかなり早いのに。
その前になんで俺の家を知っているだろうか。
(親方以外、家の住所は公言していなかったはずだが……)
「リーフ、こんな時間にどうしたんだ? それに……」
「ご、ごめんね。ホント、いきなりで。家の住所は前にガイルさんから直接聞いたの。どうしても、しーちゃんに伝えておきたことがあって」
「伝えておきたいこと?」
「うん……」
こんな時間にこんなところまで来て伝えたいことか。
というのもここは王都から来るには少々遠い位置にある。
工房からは歩いて10分くらいだが、王都となると30分くらいかかる。
辺りに馬車とかないところを見ると、歩きで来たみたいだが……
「それで、伝えたいことってのはなんだ?」
「え、えっと……しーちゃんは今日の夜って時間空いてる?」
「まぁ空いてるけど、何かあるのか?」
「その……少し話したいことがあって。今日の夜に家に来てほしいなって思ってて……」
「家にってリーフのか?」
「う、うん……」
少し言いにくそうな雰囲気を醸し出すリーフレット。
二日前もそうだったが、リーフレットの様子がおかしい。
何かを抱え込んでいるというか、何というか。
「ここじゃダメなのか? 周りに人はいないから聞かれる心配はないと思うけど……」
「で、でもしーちゃんこれからお仕事だよね? 少し長くなりそうだから、ちょっと……」
「そ、そうか……」
それなら仕方ない。
それに、彼女の様子を見る限り、二人きりで話したい内容のようだし。
「分かった。じゃあ、夜にリーフの家に行くよ」
「ごめんね、しーちゃん。ありがとう」
俺はリーフから時間等の詳細を聞くと、リーフレットは足早に王都方面へと走って行った。
「一体、何を話すつもりなんだろう。あの具合だとあまりいい話じゃなさそうだよな……」
とはいっても約束はした以上、行かないといけない。
「ま、今は仕事のことを考えないとな。……俺も行くか!」
再び両頬に一発。
気合いを入れ直すと、そのまま真っ直ぐ工房に向かうのだった。




