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108.秘めるなにか


 あれからしばらくして、俺たちは例のベースキャンプへと戻った。


 ちょうどその時。

 討伐隊が編成され、作戦立案までを済ませ、次の日の早朝に討伐に向かおうとしていた中で俺たちは司令官のクゼルに事情を説明。


 その内容に目を丸くしながらも、クゼルは受け入れてくれて、討伐隊から調査隊の編成へと急遽シフト変更。

 そこから王都にいるリベルカにも大まかな内容だけを報告し、残りは勇者軍本部でという話になった。


「しーちゃん、報告は終わった?」


 クゼルのいる天幕から出ると、目の前にはリーフレットの姿があった。

 

「うん、終わった。二人はどこに?」


「休憩用の天幕だよ。なんかボードゲームに熱中してる」


「またか……」


 俺たちは横並びになって二人のいる天幕へ。

 だが数歩歩くと、リーフレットが途端に足を止めた。


「リーフ? どうかしたか?」


 リーフレットは黙ったまま、その場から動かない。

 俺はリーフの元へと寄り、顔を覗かせてみる。


「おーい、リーフー? どうしたんだー?」


 少し声の音量を上げ、再び声をかけてみる。

 と、リーフレットは唐突にバッと顔を上げると、


「り、リーフ!? なんだいきなり……」

 

 ぎゅっと身体全体の体重を俺に乗せ、抱き着いてくる。

 身体との間には寸分も隙間がなく、直接肌に触れずとも服の上から体温が分かる。


 そして同時に聞こえてくる心臓の鼓動。

 トクン、トクンと少しだけアップテンポな音が肌を通じて脳に伝わってきた。


「しーちゃん、わたしね……」


 ようやくその小さな口から発せられる言葉。

 何やら俺に話したいことがあるみたいで。


 俺はこの状況に戸惑いと、同時に湧き上がって来る緊張で圧迫されながらも、彼女に耳を傾ける。


「わたしね、ずっと思っていたの。でも、しーちゃんは普段お仕事で忙しいだろうからってずっと胸の奥にしまっていたけど……」


 意味深な切り口で話し始めるリーフレット。

 そんな彼女の迷いと不安に満ちた表情を見ながら、俺は次の言葉を待つ。


 しかしリーフレットは中々そこから先を話し始めようとはしない。

 周りに人がいないこともあってか、無の空間が場を支配し、風に靡く木の葉の音だけが耳に入って来る。


 俺とリーフレットはアイコンタクトを取りながらも、無言の間が続く。


 だがリーフレットは覚悟を決めたのか、すぅーっと息を吐くと、ようやくその口を開いた。


「しーちゃん。わたしね、しーちゃんに”全部”を教えてもらいたいんだ」


「ぜ、全部……?」


「そう、全部」


 何を基準に全部なのか分からない。

 でもリーフレットの表情を真剣そのもの。

 

 一瞬たりとも目をそらさず、抱きついたまま俺を離さない。


「り、リーフ。一応聞くが、その全部とは一体何に対してのだ?」


 趣旨が分からないので直球で聞いてみることに。

 でもリーフレットからすれば言いにくいことなのか、少し表情を曇らせる。


「い、言いにくいこと……なのか?」

 

 俺の問いにリーフレットは言葉を発せずに軽く首を縦に振るだけ。

 さっきよりも抱擁する力が強くなり、それが「言いにくい」という意思表示となって伝わって来る。


(ど、どういうことなんだ……?)


 リーフレットが何を求めているのか、分からない。

 ”全部”という言葉が彼女の求めていることのヒント何だろうけど、俺は超能力者でもなければ探偵でもない。


 その言葉だけで正解を導き出すのは至難の業だ。


 また同じようにその理由を問うストレートな質問をぶつければいいのだと思うが、あまり強引に言及はしたくない。

 

 でもこのままじゃ、先に進めそうにない。


 向こうから言えないのなら、やはりこっちから――


「ご、ごめんねしーちゃん。自分から言い出しておきながら、困らせるようなことをしちゃって……」


「い、いや……別に俺は気にしていないけど、どうしたんだ? さっきの話の筋からすれば、俺に頼みたいことがある感じだったけど」


「う、うんそうだよ。でも、いざ口にすると申し訳ないなって思っちゃって……」


 よほど頼みづらいことなのか。

 

(で、なければあんな表情はしないよな)


 でも俺はリーフレットが望むことなら、何でもやってやりたいと思っている。

 もちろん、出来る範囲でだけど、頼みを断ることはしないつもりだ。


「リーフ、話してくれないか? 俺はどんな頼みでも受け入れるつもりでいるし、力になってやりたいと思ってる。あ、どんな頼みと言っても俺の出来る範囲ならって話だぞ? 王女とかに会わせろ! とかそういうの以外なら、何でも言ってほしい」


 俺だって一人の人間であり、王国に住む一般人だ。

 流石にできることとできないことがあるからな。


「そ、そういう頼みじゃないの。むしろしーちゃんだけにしかできない頼みというか……」


「俺にしかできない頼み?」


 パッと思いつくものがない。

 でもヒントは得ることが出来た。

 

 俺に頼みづらいことで、かつ俺にしかできないこと。


 う~ん、まったく分からん。


 考えれば考えるほど分からなくなってくる。

 

 そんな中、背後から聞きなれた声が飛んできた。


「おーい、シオーン! そこでなにやってんだ~?」


 声質的にユーグの声だ。

 リーフレットもそれを察したのかすぐに俺から離れる。


「お、リーフレットちゃんも一緒だったか? ならちょうどいい。迎えの馬車が来るまでみんなでコレをやろうと思うんだが」

 

 と言って取り出したのは一個のボードゲーム。

 相当、娯楽の波に飲み込まれてしまったのか、目をキラキラさせながら誘ってくる。


「面白そうですね! わたしもやってみたいです!」


 リーフレットはさっきまでの表情から一変していつもの笑顔に戻っていた。

 ユーグは俺の方にも熱い視線を向けてくる。


「わ、分かった。俺もやればいいんだろ?」


「おう! じゃあ、帰る前にみんなでボードゲーム漬けと行こうぜ!」


 いつになくハイテンションなユーグ。

 一体、何をきっかけにボードゲームの虜になってしまってしまったのか。


 俺たちはユーグの誘いを受け、リィナの待つ天幕へと向かう。


 それから数時間後、俺たちはリベルカが手配してくれた馬車で王都へと帰った。

 

 帰りの馬車ではボードゲームに関するトークで盛り上がりはしたが、結局、俺は王都に着くまでにリーフレットの頼みを聞くことができなかった。


 そんな心にちょっとしたモヤモヤを抱えながら。

 俺は久しぶりに親方の工房に顔を出したのであった。

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