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107.脱出


 今、俺たちの目の前には黒光りした巨体が寝ている。


 光が届かない場所なのに謎の光沢を帯びたその身体は一言で言えば神秘そのものだ。


「それにしてもデケェな。よくよく観察してみると迫力がやばいぜ」


「ほ、本当に死んでいるん……だよね?」


「それに関しては大丈夫だろう。このドラゴンからはもう生気を感じないし」


 でもユーグの言う通り、こうしてみてもかなり迫力がある。

 今にもその両眼をパッと見開いて、襲い掛かってきそうなくらいだ。


「で、こいつの調査は誰がやるんだ?」


「俺がやってもいいか? 少し気になっていたこともあるし」


「んじゃ、俺たちは休憩だな。終わったら言ってくれ」


「おう」


 俺はその剛体に近づき、一周して一通り全体を眺める。

 そしてまた正面に戻ってくると、そっと身体に触れた。


「すごいな……これじゃ剣を通さないわけだ」


 この巨体が持つ外殻は普通のドラゴンとは全く違うものだった。

 触ってみるとまるで鉄のように硬く、鎧でも纏っているのかというほどの強度があった。


 依然として光沢の謎は解けていないが、かなり人為的な手が加えられたのはすぐに分かった。

 

 見た目通り、これはもうドラゴンの姿をしたなにか。

 

 魔改造もいいところだった。


「まるで生物的な感触がないな……ん?」


 しばらくその外殻を触っていた、その時。


 腹部のすぐ下あたりに薄暗く光る謎の光が目に入った。

 

「なんだ……?」


 俺はしゃがみ、身体を窄めると巨体の懐に入っていく。

 すると。


「こ、この光は……」

 

 紫色の光。

 腹部の方はドラゴンを素体としているからかぷにっと柔らかく、その中心に謎の光が煌めていた。


 俺はその謎の光に手を当ててみることに。

 

 すると、突然。

 その光は照度を増し、中から紫色の球体が腹部をすり抜けて出てきた。


「な、なんだこれ……」


 ぷかぷかと浮遊する光の球体。

 しばらくは光を放っていたその球体も徐々に暗くなっていくと、俺の手中に収まった。


 だが俺の手に触れた瞬間。

 俺の体内に流れる魔力が一気に蒸発したかのような、ゾクッとした感覚が俺を襲った。


「なんだ……このとてつもない魔力は……」


 手にあるのは光を失った紫色の球体。

 だがその球体から発せられるとんでもない量の魔力。


 魔力がいっぱい詰まった魔力玉とでもいうべきか。


 とにかく異次元の魔力を感じた。


 俺はドラゴンの腹部からひょっこりと顔を出すと、その球体を持ちながら、そこから出た。

 

「お、なんだそれ」


 当然の如く、皆の視線がその球体へと注がれる。

 

「さぁ、俺にも分からない。でもあいつ腹の中から出てきたものだ」


「ま、マジ?」


「でもすごい魔力を感じる……これは一体?」


 傍から見ればただの紫色の球体だ。

 光沢もあることから、水晶玉に近い感じか。


「これ、持ち帰るのか?」


「ああ。流石にあの巨体は持ち帰れないからな。それにこの球体はただのブツじゃないは確かだ。これを解析すれば色々と分かることがあるかもしれない」


 俺はその並ならぬ謎の物体をポーチに畳んでおいた袋にそっと入れる。


 とりあえずは親方辺りに見せてみよう。


 素材とかそういうのに関しては親方は沢山知識を持っているからな。


「三人はもう帰る準備はできたのか?」


「俺は大丈夫だぜ」


「わたしももう歩ける」


「わたしも大丈夫だよ!」


 なら早速帰ることにしよう。

 いつまでもこんな薄暗いところにいると目がおかしくなりそうだ。


「みんな、集まってくれ」


「え、まだ何かするつもりか?」


「いや、流石にあの迷宮にまた潜って出口を探すのは難儀だ。これを使う」


 と言って取り出したのは一個のスクロール。

『即転移』のスクロールだ。


 これを使えばどんな場所にまでも一瞬でも転移することができる。

 ただし、発動者が一度足を踏み入れた場所じゃないと転移できないという制約はあるが。


「俺を囲むように集まってくれ」


 俺は三人にそう指示を出す。

 一応効果範囲があるからな。


「じゃあ、わたしはこうする」


 と、言って俺の右腕にしがみつくのはリィナだ。

 別にそこまで密着しろとは言っていないんだが……


「お、おいリィナ。別に俺の身体に触れなくても――」


「ず、ズルいリィナ! じゃあわたしも!」


 俺の注意を跳ね除け、今度はリーフレットが反対側の腕をガシッと掴んだ。

 

(な、なぜそうなる……!)


 よく分からない謎の張り合いで俺の両腕は完全固定。

 そのすぐ後ろから刃物で突き刺すかのような冷たい視線を感じた。


「シーオーンー?」


 低いトーンで俺の名を呼ぶのはユーグ。

 その殺意むき出しの目でじーっと俺の方を見ていた。


「お、おいユーグ。二人を止めてくれ。これじゃあスクロールが開けない」


「へぇ~そりゃ困ったな。じゃあスクロールは使えないなぁ……残念」


 ああ、もうダメだ。

 完全に何かのスイッチが入ってしまっている。


 別にユーグだってこういう経験は腐るほどあるだろうに。


 だが直後に「はぁ」とため息をつくと、ユーグは俺にスクロールを渡すように言ってきた。


「まぁ今回はお前とリーフレットちゃんのおかげもあるしな。俺がやってやるよ。どこに行けばいいんだ?」


「例のベースキャンプだ。多分、今頃討伐隊の編成を終えている頃合いだろう」

 

 とりあえず今動きだそうとしている人たちに情報を与えないといけない。

 俺としちゃあ戦闘よりもその後始末が面倒だったりする。


「分かった。ベースキャンプに行けばいいんだな?」


「ああ。ちなみに使い方は分かるか?」


「確か念じればいいんだろう? 何かの書物で呼んだことがある」


「そうだ。頼めるか?」


「へいへい」


 そう言ってユーグは俺からスクロールが手渡されると、紐をサッと解いた。

 そして同時に発動する術式。


 地面に魔法陣が出現し、転移の準備が始まる。


「よーし、じゃあここから脱出だ!」


 そう言いながらユーグは俺の背中に抱き着いてくる。

 

「お、おいユーグ! お前何を……!」


「二人がいいなら俺もいいだろう? お堅いこというなよ」


「お、お前は離れろ! 気持ち悪い!」


「え~わたしはいいと思うけど」


「わたしも、それはそれでアリ!」


 肯定するリーフレットとグッドサインをかますリィナ。


「お、お前らなぁ……」


 全身に体重がかかり、段々しんどくなっていく。


 そんな中で、俺たちは深層区画より転移。

 長かった戦いに終止符を打ち、脱出を果たしたのだった。

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