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106.安堵の時


「お、終わった……の?」


 リーフレットは震える手はそのままにそう呟く。


「ああ、そのようだな」

 

 俺も続いて返事を。

 俺たちが突き出している聖威剣にはもうバルガの姿はなかった。


 魔力探知を展開しても周りにも怪しい気配はない。

 さっきまで漂っていた不穏な空気もなくなり、この場所全体が本来の明るさを取り戻していた。


「う、うぅ……」


「お、おい大丈夫か」


 リーフレットは全てが終わったという脱力感から膝をつき、その場で崩れ落ちる。

 心配する俺を横目に彼女は少しきつそうに微笑むと、


「うん、大丈夫。ちょっと疲れがでてきちゃっただけ」


 彼女は本当に頑張った。

 自分と、恐怖と向き合い、最後まで立派に戦った。


 帰ったらたくさん褒めてあげよう。

 俺は心にそう誓う。


「リーフ、悪いが少しここにいてくれないか? すぐに戻る」


「う、うん……分かった」


 そう言って背を向け、すぐさま駆け寄ったのはユーグたちのいるところだ。

 バルガが言っていた通り、ユーグたちの術式は消滅と共に解除されていた。


 が、肝心の二人は眠ったように動かず、俺はすぐに脈拍などを確認。


「良かった。脈はある」


 魔力が吸われ過ぎて気絶にまで至ったのだろう。

 あと、もう少しし時間が経っていたら本当に危ない状況になっていたのは間違いない。


 俺は二人を仰向けにすると、顎を上に向かせ、ポーチに入っていた回復薬(ポーション)と魔力安定剤を飲ませる。


「よし、後はこれで安静にさせておけばいいだろう」


「ふ、二人は大丈夫?」


 戻ろうとする前に、リーフレット自身が向こうから歩み寄ってきていた。

 俺は「大丈夫だ、心配するな」と一言かけると、リーフレットにも回復薬(ポーション)と魔力安定剤を差し出した。


「あ、ありがと」


 渡された回復薬(ポーション)を一気に飲み干し、「ふぅ」と一呼吸するリーフレット。


 それからしばらくは地面に尻をつけて安らぎの時間を過ごしていた。


「もう一人の魔人はどうしたんだろう。逃げた……わけじゃないよね?」


「でも逃げた可能性はゼロではないな。もし近くで俺たちの戦いを見ていたのならもう出てきてもおかしくない」


 どこか俺たちの手が届かない場所で見ていたのは多分間違いない。

 でも今、こうしている間も含めて襲う機会はいくらでもあった。


 それでもなお、何も仕掛けてこないということはもうこの場にはいない可能性だってあり得る。


 どちらにせよ、俺たちにとっては都合のいい話だ。


 今ここで攻められたら、たまったもんじゃない。

 ほとんどの人間が戦闘不能だからな。


「う、うぅぅ……」


「ん、んん……」


 背後で聞こえる小さな声。

 もぞもぞと動く音も聞こえてくる。


 二人が目を覚ましたようだ。


「お、シオン? それにリーフレットちゃん?」


 目覚めたてのせいか状況を上手く把握できていないユーグ。

 リィナも目を擦るなり、周りを見渡し始めた。


「シオン……魔人は?」


「もう倒したよ」


「倒したってお前一人でか?」


「いや、リーフと一緒に倒した。中々ギリギリだったけどな」


 どうやら二人は戦いのフィニッシュも含め、リーフとの協力戦闘も見ていないらしい。

 俺はバルガとの戦闘を含め、事の詳細を端的に話した。


「ま、マジかよ。お前あの術式を自分で壊したのか?」


「まぁな。でもそれができたのもリーフのおかげだ。リーフはバルガと対等に戦った」


「あの魔人相手に対等って……何が起きたの?」


「それは分からない。でも突然すごく力が溢れてきて……」


 あの時のリーフの気迫はすごかった。

 もしもっと器用な戦い方さえ知っていれば彼女一人の力だけでバルガは撃退できただろう。


 リーフの一刀一刀が彼女の潜在能力の高さを示していた。

 

「と、とにかく俺たちは助かった……んだな?」


「ああ、もう大丈夫だ」


「ごめん。シオン、リーフレット。わたし……何もできなかった」


「お、俺もすまなかった。感情的になって自分を見失ってしまっていた」


 自分の行いを猛省する二人。

 そんな二人のもとに真っ先に身を寄せたのはリーフレットだった。


「気にしないで、二人とも。こうしてみんなで生き延びることができた。それだけでも意味がある」


「リーフの言う通りだ。お前たちは何も悪くない。あんな挑発を受けたら怒りを抑えられないのは当然のことだ」


「リーフレット、シオン……本当にありがとう」


「うぉぉぉぉぉぉぉ! ごめんよ二人ともーーーーーー!」


 自分の情けなさから豪快に涙を流すユーグ。

 

 そんな時間を過ごした後、俺たち四人は帰る前に最深部の調査に入った。


 そして一通り、辺りを見てみたが特に何もなかった。

 

「どうだった二人とも」


「こっちには何もなかった」


「奥の方にも変わったことや誰かがいる気配も感じなかったです」

 

 魔力探知にもなにも引っかからない。

 魔物とかも全くいる気配がなかった。


「じゃあ、後はこれだけってことか」


「ああ、そうだな」


 ”これ”というのはこのだだっ広い空間の中央にドスッと倒れ込む巨体。

 バルガが強制的に行動不能にさせた黒い竜の屍だった。

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