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105.幼馴染の底力、そして……


 ……危ない!


 そう忠告しようとした時にはもう既にバルガは短剣をリーフレットの首元をめがけて振り下ろしていた。

 

 リーフレットはまだ気づいていない。

 背後で殺傷を確信して憎たらしい笑みを浮かべている者がいるというのに……。


(ダメだ……間に合わない……!)


 焦りによって噴き出た汗まみれの手を虚しく伸ばし、殺されようとしている大切な人の名を全力で叫ぼうとした――その時だ。


 リーフレットは突如姿勢を低くし、超高速で振り返ると、バルガの一撃を見事受け止めた。


「な、なんだとっ……!?」

 

 度肝を抜かれるバルガ。

 しかしそんなバルガの油断をリーフレットは一瞬たりとも逃さなかった。

 

 彼女は力の限り、聖威剣(ヴァイオレット)を振ると――一撃。


 バルガの右腕をスパンと切り倒した。


「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 相当な激痛がバルガを襲う。

 バルガはあまりの痛みにその場で膝をつく。


 が、リーフレットの追撃は止まない。


「まだっ……!!」


 即座にバルガのもう片方の腕を切り落とすと、剣体で思いっきりバルガを吹っ飛ばした。

 

 我が幼馴染ながらえげつない追撃だ。

 あんな殺意むき出しのリーフ、見たことない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 今の攻撃で体力をかなり使ったのか、息を切らすリーフ。

 リーフは深呼吸して息を整えるなり、俺の方を向いた。


「どう、しーちゃん。わたし、しーちゃんの言う通りにできたよ!」


「お、おう……」


 額に汗を滴らせながらも、いつもと変わらぬ笑顔がそこにはあった。

 

 彼女自身もギリギリの判断だったのだろう。


 剣を持つ手は震え、足もガクガクとさせていた。


「それよりも、大丈夫か? 相当無理を……」


「こ、これくらい平気だよ。でもやっぱしーちゃんはすごいよ。あそこまで精神に負荷がかかるなんて思わなかったから」


「見えていたのか? 奴の動きが……」


「ううん、全然見えてなかったよ。でもしーちゃんが言っていた通りのことをしてみたら、自ずと身体が動いたの。そしたらたまたま攻撃を防ぐことができて……」


 いや、それはたまたまなんかじゃない。

 それこそが五感で感じるという技術。


 それは先見の明とも言うべき所業。

 脳よりも先に身体が動くというのはその表れと言えよう。


 でもどうやら心までは追いついていないらしい。

 その震えようを見ていると、恐怖に近しい何かを感じた。


 だがその恐怖を打ち負かし、彼女は奴の攻撃を受けきった。


 短期間でこの成長ぶり。

 前々から何か起きるだろうとは思っていたが、ここに来てとんでもない潜在能力を発揮したな。


「これで、少しだけしーちゃんに近づけたかな?」


 まだ息が切らす中、リーフレットは笑顔だけは絶やさず、俺にそう言う。

 俺はすぐに彼女の元に駆け寄ると、そっと頭に手を乗せた。


「ああ。今のリーフならどんな敵であろうと怖いものなしだ。俺が保証する」


「えへへ……良かった」


 優しく撫でる度に幸せそうな表情をするリーフレット。

 

 その笑顔があまりにも可愛くてずっと見ていたいくらいだが、まだ勝負は終わっていない。

 

 俺はそっとリーフレットの頭から手を離すと、バルガの方へと視線を向けた。


「リーフ……最後、行けるか?」


 俺のその”最後”という察し、リーフは勢いよく「うん」と頷く。


「大丈夫! だってしーちゃんからお墨付きを貰ったんだもん。今ならどんな敵でも勝てる……そんな気がするよ!」


「よし、その意気だ。じゃあ……決めるぞ!」


「うん……!」


 リーフレットの攻撃で両腕を失ったバルガは立ち上がるなり、ふらふらっと身体を揺らす。

 もう先ほどまでの魔力の高まりはない。


 逆にどんどん魔力の流動の勢いが落ちていくばかりだった。


「ば、バカな……この俺様が、禁忌の力までをも解放させたこの俺様が……あんな小娘までにも……っ!」


 項垂れるバルガ。

 そんな中で俺たちは聖威剣に魂を注ぐように魔力を流し込む。


 勇者の証である双剣が光り輝き、薄暗い辺り一体を聖なる光で包み込む。


 剣先はバルガの方へ。


 ただ一刀。


 俺とリーフの想いの全てがその一刀のために剣へと注がれていく。


「あり得ん……あり得んあり得んあり得ん!! この俺様が、ここまで負けるなど……あり得ぬのだ!!!」


 この状況を認められないバルガはデカい雄叫びを上げると、両腕を失った身を投げるように俺たちの元へと突進してくる。

 一瞬、バルガの胸元に小さな魔法陣が現れ、途端に緑色の霊気がバルガを覆った。


「貴様たちも道連れだ! この俺様の自爆魔法で全てを破壊してやる!!」


 自爆魔法だと? まさかこいつ……!


「リーフ、あいつは……!」


「大丈夫だよ、しーちゃん。胸元の魔法陣を狙うんだよね?」


「……!」


 彼女は俺が咄嗟に言おうとしたことを全て把握してくれていた。

 そして狙いはバルガの胸元一点に決まる。


(やっぱすげぇなリーフは……)


 心の中でそう思いながらも、俺は冷静に狙いを定めた。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!! しねぇぇぇぇぇ勇者ぁぁぁぁぁ!!」


「リーフ、行くぞ!」


「うん、しーちゃん!」


 怒り狂うように爆進してくるバルガに俺たちも聖威剣を片手に猛進。


 それぞれの想いを聖威剣に乗せて、俺たちは振りかぶった。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 そして――


「ぐうわぁぁぁッ!」


 響く苦痛の叫び。

 光に包まれた二つは聖威剣はバルガの胸元を貫通していた。


 バルガの攻撃は外れ、俺たちの攻撃は双方とも急所を貫いていた。


 バルガは深く刺さった二つの聖威剣を眺めながら、呟く。


「へ、へへへっ……どう……やら……この俺様の負け……のようだな」


「……」


 黙りながら鋭い目つきで俺たちをバルガは屈託のない笑みで返す。


「ふ、ふはははッ……! なるほど……これが……勇者の力か。あのガルーシャが……恐れる……わけだ」


 バルガは血の噴き出る自分の胸元を見ながら、最後に少しだけ口元を歪めると、


「で、でも……これで……ようやくお前のところに行ける。待っててくれ……ユ……リア……」


 その瞬間。

 バルガの身体が白く光を帯びる。


 と、漂っていた邪悪な空気を全て吸い込み、そして――その光と共にバルガは消滅した。

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