104.共同戦
魔人と相対する二人の剣士。
バルガと俺たちの間ではかつてないほどの激闘が繰り広げられていた。
「どうした! 逃げてばかりじゃこの俺様は倒せんぞ!」
勢いづくバルガ。
力任せの攻撃だが、一つ一つの挙動に無駄がない。
おまけにさっきよりもスピードが段違いに上がっていた。
「おりゃぁぁ!」
「うっ……!」
バルガの一撃がリーフレットの脇腹を掠める。
辛うじて回避行動を取れたものの、痛々しい傷が彼女の脇腹に刻まれる。
「だ、大丈夫かリーフ!」
「だ、大丈夫……! これくらい掠り傷……」
防具が地に染まり、少し傷を庇うように立ち上がる。
(あの野郎……)
さっきからリーフしか狙っていない。
何度か俺が介入して攻撃を止めたはいいが、幻影による手数で押されれば流石に守り切れない。
(くそっ、今の魔力じゃあいつを粉々にできても完全に消滅させることは……)
恐らくできない。
さっきの術式破壊の時にそれなりに魔力を消費してしまった影響だ。
本当なら一気に決めたいところだが、もう少し時間が――
「おりゃ、じゃあ次は反対側だぁ!」
(マズイ……!)
怒涛のバルガの攻撃。
背後を取られたリーフの間にすかさず入り込み、剣撃を受け止めた。
「し、しーちゃん……!?」
「ほう、流石だ。だいぶ距離があったのにも関わらず、防いでくるか。だがいつまで持つかな?」
鍔迫り合いになる俺とバルガ。
俺は背後にいるリーフレットに首だけ向けると、
「り、リーフ! 一回態勢を立て直すぞ。このままじゃ防戦一方だ」
一度下がることを指示。
リーフレットはコクリと頷くと、すぐさま後ろに下がった。
「ふん、無駄なことを。貴様はあの女がいる限り、俺様には絶対勝てないというのに……」
「さぁ、それはどうか……なっ!」
俺は聖威剣を急に引っ込めるとバルガの腹部に……
「うぐっっ……!?」
一発。
そして身体をくねらせ、脇腹に蹴りを一発くらわせる。
「ぐあああっ!!」
バルガが吹っ飛ぶのと同時にすぐに俺も後退。
リーフレットの傍まで寄ると、
「気をつけろ、リーフ。向こうは殺しのプロだ。どこから攻撃が来るか分からない。全方位に意識を向けるんだ」
「ぜ、全方位にって……そんなのどうやって……」
「意識を一点に集中させなきゃいいんだ。相手を見るだけじゃない。周りの風景や空気とかも自分の意識に取り込むんだ」
「風景や空気を……?」
上手く説明できないのが悔やまれるが、言葉にしてみるとこんな感覚だ。
動きの速い敵。
姿形が見えない敵。
相手からの意識を反らすのが得意な敵。
これらのような厄介な敵は五感で感じ取る必要がある。
口だけで言えば超人的なことかもしれないが、決してできないことではない。
「集中しろ、リーフ。お前なら絶対にできる。自分を信じろ!」
「自分を信じる……分かった、やってみるよ。必ずあの動きを見切ってみせる!」
「その意気だ。……来るぞ!」
「……ッ!」
爆速で近づいてくる黒い影。
不気味な霊気を纏った巨体が俺たちを殺さんと猛進してくる。
俺たちは共に聖威剣を構え、来る攻撃に備える。
「小癪な真似をしやがって! だが、もうこれでお終いだ!」
険しくシワを寄せ、殺意を帯びた眼差しを向けるバルガ。
でもさっきとはなんか様子が違う。
魔力も一瞬だけだが、かなり高まって……
「はぁぁっ!」
バルガの一撃は俺へ。
だが何故か手ごたえを感じない。
さっきくらった一撃とは天と地ほどの差が……
「ま、まさか……!」
この時、俺はバルガの本当の狙いに気付いた。
(もしやあいつの狙いは最初から……!)
リーフだったのか!?
俺はすぐにリーフレットの方を向く。
すると超高速で背後から切りかかろうとするバルガの姿が両目に移った。
それも完全に殺しにかかろうとしている。
(マズイ! あの速さだとリーフじゃ……!)
声を出して伝えようとするももう遅い。
完全にバルガの狙いはリーフの首元に定められていた。
(り、リーフ……!!!)
幻影を払い、リーフに元に近づこうとするが間に合わない。
バルガは殺意の笑みを浮かべると、背後から無防備なリーフの首元を狙い――切りかかった。