103.最大の禁忌
盛大に解かれる力。
グランの特殊能力≪極限突破≫を使い、一気に魔力を解放していく。
その破格な魔力の高まりにバルガやユーグたちもすぐに異変に気づいた。
「な、なんだこの凄まじい魔力は……!?」
「し、しーちゃん……?」
「な、なんだありゃ……」
「し、シオン……?」
上限なく膨れ上がる魔力。
それは人知を超え、人が許容できる魔力量も遥かに超えていた。
『し、シオン……! あまり無理するな。これ以上魔力を高めたら流石のお前でも……』
「いや、大丈夫。まだいける」
多分、後でそれなりに身体への反動が来るだろう。
前にゴルドと戦った時と同じように。
でもどうやらこの策は間違いではなかったみたい。
さっきよりも魔法の効力が落ちてきていた。
そして少しずつだが、上空にある魔法陣に亀裂が入っていく。
「ま、まさかあの男……!」
そう、そのまさかだ。
バルガの表情は額に汗をかきながら、少しずつ険しくなっていく。
「グラン……!」
『うむ!』
魔法陣はビリビリっと紙切れのように破られ、そして――
「これで、終わりだ!」
目を覆うように襲う激しい閃光と共に魔法陣は完全消滅。
と、同時に身体にかかっていた謎の重みがなくなり、一気に軽くなった。
「……ふぅ、どうやら成功みたいだな」
『ホント、お前さんは規格外な男だ。まさか絶対術式を魔力で破壊してしまうとは……まさに溜息が出るレベルの魔力量だな』
「それ、褒めてるのか?」
俺は服についた砂や埃をパッパと払い、バルガの方を向く。
流石のバルガもこれには驚きを隠せないようで、
「ば、バカな……! 暗黒魔法が……絶対術式が破られただと!?」
「魔力の使い過ぎで少し身体が震えるがな。でもあんまり大したことなかったぞ、その絶対術式とやら」
「くっ……!」
俺は聖威剣を片手に持ち、剣先をバルガに向ける。
そして一言――バルガに向けて言い放った。
「これで状況が大きく変わったわけだ」
「ちっ……!」
リーフレットもすぐに立ち上がると、両手で聖威剣を握りしめた。
「今のお前に俺とリーフを同時に相手にする力はないはず。覚悟しろ、魔人バルガ!」
「ふっ、上等じゃねぇか。やってやるよ。今俺様が出せる全力でな!」
「全力……ん?」
と、次の瞬間。
先ほどまでの空気とは一変する。
(なんだ、この感覚は……魔力の集まりは……)
「見せてやる。これが俺様の……全力だ!!!」
邪気を含んだ魔力を探知。
黒の霧のようなものが発生し、バルガの身体全体を包んでいく。
そして謎の爆発と共に、バルガの新たなる姿が露わになった。
「こ、これは……」
「す、すごい力……」
先ほどとは桁違いの魔力量。
髪も黒く変色し、一回り身体も大きくなっていた。
「ふふふふ……まさか、この俺様が最大の禁忌を犯してしまう時が来るなんてな……」
「最大の禁忌だと?」
「ああ。この姿こそ、魔界では禁忌そのもの。ガルーシャ様にもこれだけは使うなと言われていたが……」
(これだけは……?)
どういうことだ。
暗黒魔法が魔界では禁忌とされているのは分かった。
だがこの姿は一体……
変わったのは姿形だけじゃない。魔力も力もさっきのバルガよりも数段増している。
まるで別人のように。
(何が起きたんだ……? 魔人は自分の姿を変え、力を増幅させることできるというのか?)
だがゴルドの時はそんなことはなかった。
もちろん、今まで戦った魔族たちも同様だ。
暗黒魔法の存在も初めて知ったし。
(まだ他にも魔族特有の”なにか”があるというのか?)
でも可能性は高い。
実際、目の前で起きている謎の現象もそうだ。
この力の高まりは尋常じゃない。
「さぁ、来いよ。俺様はもう命を捨てる覚悟でいる。だから貴様らも命を献上する覚悟で来いやぁぁ!」
激しく揺れ動く地面。
周りにどす黒い霊気を纏い、バルガの目の色もより赤く変色。
元から強かった覇気もさらに強さを増し、身体を通じてそれが伝わって来る。
「リーフ、後は俺がやる。お前は後ろに下がっているんだ」
こいつはもうただの魔人じゃない。
それを越えた何かだ。
あまりこういうことを言いたくはないが、とてもじゃないがリーフでは力不足。
だがリーフはすぐに首を振ると、
「わ、わたしも戦うよしーちゃん! いや……戦いたい!」
「り、リーフ……」
否定。
自分の戦いたいという強い意志がリーフの眼から感じられる。
「もう、守られるだけなんて嫌なの。わたしも……しーちゃんと戦いたい!」
彼女の目に嘘はなかった。
澄みきった奥深い碧眼の眼が俺にそう訴えかけてくる。
(そうか、お前は乗り越えようとしているんだな。自分の弱さと……)
昨日の夜に彼女の口から語られた弱い一面。
彼女は今、それを乗り越えようと必死に頑張っている。
それはもう目を見れば分かる。
覚悟を持った強き者の目だ。
そんな人間を俺は無碍にはできない。
「……分かった。でもリーフ、無理だけはするな。あれはもう、さっきの魔人じゃない」
「う、うん……! 分かったよ!」
俺はリーフレットと共に一緒に戦うことを決意する。
少しだけ震える手で聖威剣を握るリーフレット。
俺はそんな彼女を横目で見ながら、
「……怖いか?」
「う、ううん……大丈夫。今はしーちゃんと一緒だから」
「そうか。でも深追いはするなよ。ヤバイと思ったらすぐに下がるんだ」
「う、うん……! 分かった!」
「よし……じゃあ行くぞ!」
「来い……! 殺してやる……!」
これが恐らくラストバトルになるだろう。
俺たちはグッと身構え、魔力を解放。
剣先をバルガに向けると、俺たちは最後の戦いに向かうのだった。




