102.一か八かの賭け
81話以降に章を入れ忘れていたので追加させていただきました。
現在進行中の話は第4章の内容となっています。
『破壊するってどういうことだシオン!』
「言葉通りの意味だよ。この魔法を外部から術式ごとぶち壊すんだ」
大胆不敵な策。
でもこうなった以上、手段など選んではいられない。
それに何かしらアクションを起こさない限り、先はないことは分かっている。
「グラン、俺とお前の力を使ってこの術式を壊す。魔法は本来、術式に流れる魔力を上回る魔力を流し込めば強制的に止めることができたはずだ。確かに危険な賭けになるが、戦況をひっくり返すにはこれしかない」
『いや、シオンよ。残念だがそれは不可能に近い』
「なぜそう言い切れる?」
『そもそも暗黒魔法というものは魔界より古くから伝わる古典魔術。そして同時に魔界ですらも禁忌とされている魔法群だ。どれも世を変えてしまいかねない魔法だが、その代償として自分自身に”呪い”を付与することになる』
「呪い? どういう呪いなんだ?」
『そこまでは我も分からん。だが、暗黒魔法を使った魔族の末路は無残なものだと古くから言われている』
「だから魔界でも禁忌魔法になっているのか……でも、それと解除できないのと何の関係があるんだ?」
『単純な話だ。さっきもあの魔人が自分の口から言っていただろう? 絶対術式が施されていると。それが魔法の力とは別で呪いに対する恩恵なのだ』
「自分に呪いを付与する代わりに、強力な魔法で相手を縛り上げると……そういうことか?」
『ああ。ただ術式を発動させただけで自分に災いを呼び込むほどの魔法……それほどのものが普通の魔法であるはずがない。要はこの暗黒魔法とは相手の持つ命そのものを具現化させた魔法にほかならない。自分の身を削ってまで発動させた魔法に他人が介入することは不可能ということなのだ』
命を懸けてまでの魔法……か。
バルガはそれほどの覚悟を決めてあの魔法を放ったということか。
「じゃあ、初めからバルガは捨て身の覚悟であの魔法を……」
『どちらにせよこの魔法をお前に使うつもりだったのだろう。切り札としてな』
「切り札か……」
でもたとえそうであってもこのままじゃ、ダメだ。
リーフも少しずつ息が上がってきていた。
「おいおい、どうした? さっきまでの勢いがなくなってるぜ?」
「くっ……!」
『リーフレット、一旦態勢を立て直しなさい。今の貴方の攻撃は全部読まれてしまっているわ』
「わ、分かってる……! でも今引いたらみんなが……!」
聖威剣をギュッと握りしめ、構えるリーフレット。
額からは汗が滴り、さっきまでの自信がいつしか焦燥に変わっていく。
「ふん、何をブツブツ言ってやがる? 念仏でも唱え始めたのか?」
「そんなわけないでしょ! わたしは貴方を絶対に倒す! 倒さなきゃいけないの!」
「おぉ~いいねその眼。なら来いよ。そんなところで突っ立ってないで……さぁ!」
バルガの猛攻。
残像を巧みに操りながらひたすら繰り出される剣撃。
リーフレットもその一撃一撃に耐えるだけで精一杯だった。
『下がりなさいリーフレット! このままじゃ貴方が……!』
「い、嫌だ! わたしはしーちゃんに言われて決めたの! たとえダメでも自分の力を信じて全力で戦うって……! 今ここで下がったらその言葉に背くことになる。だからわたしは……わたしは!」
(り、リーフ……)
その言葉を聞いた瞬間。
俺の身体にズドンと雷が落ちたかのような衝撃が走る。
(そうだ。俺は何を後ろ向きに考えたんだろう。自分で言ったことなのに全然守れてないじゃんか)
この魔法にかかった時、俺は心のどこかで諦めてしまっていた。
昨日の夜、彼女にあんなことを言っておきながら。
(絶対に守るとか言っておきながら……俺は……)
ホント、自分の未熟さに反吐が出る。
でもおかげで目を覚ますことができた。
「さっきからごちゃごちゃうるせぇーんだよ!」
「うっっっ……!?」
腹部を貫こうかという一撃がリーフレットを襲う。
リーフレットは腹部をそのまま地に膝をつけると、苦しそうに顔をしかめる。
「クソ女が。手間をかけさせやがって……まずは貴様から始末してやる」
ジリジリとリーフレットの元へと寄るバルガ。
片手には砂と泥のついた一本の短剣。
完全に息の根を止めるつもりなのだろう。
刃先をリーフレットの首元に定め、切りかかろうと準備をしていた。
「……グラン」
『ど、どうしたシオン?』
「やるぞ」
「や、やるとは……どういうことだ?」
「このうざったい術式をぶっ壊す。力を貸してほしい」
『し、しかしこの魔法は――』
「たとえ不可能でもだ!」
グランが喋りだす前に遮り、意思を通す。
”やる前から結果を決めるのは敗者のすること。やってみなければ結果など分からない。真の勝者は最後まで己を突き通すもののことを指す”
だいぶ前に読んだ小説の内容に出てきた言葉だ。
勇者を目指していた頃、俺はこの言葉に深く感銘を受けたのを覚えている。
しばらく忘れていた一言だが、今になって鮮明に蘇ってきた。
「グラン、頼む。力を貸してくれ」
『だ、だがこれは危険な賭けになる。それに、お前さん自身の身体もどうなるか……』
「分かってる。でも俺なら大丈夫だ。だから頼む……グラン!」
俺の必死の頼みにグランも感化されたのか、渋々了承する。
『分かった。それが我が主の判断だというなら従うほかあるまい。最後まで付き合おうぞ』
「ありがとう、グラン。じゃあ、早速……」
俺はグランの持つ特殊能力を発動させるべく、聖威剣を握る。
そして同時に目を瞑り、精神集中。
自身の心臓に魔力を集約させる。
「……悪いな、グラン。こんなアホみたいなことにつき合わせて」
『構わん。それにそのアホさは昔からだ。今更、気にすることはない』
「言ってくれるじゃないか。なら、とことんやってやる!」
少しずつ高まっていく魔力。
その膨大な魔力の集まりで大地が揺れ、空が震える。
大自然に流れる魔力が激流を引き起こし、殺伐とした空気をガラリと変える。
そして力は大気を震わせながらも、解き放たれた。
「≪解放せよ≫!」
俺は集約させた魔力全てをグランに流し込むと一言――解放の呪文を唱えた。




