100.新たな一歩を踏み出すために
おかげさまで100話目になります!
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それは目にもとまらぬ剣撃だった。
激しくぶつかる剣と剣がギリギリと鉄が擦れるような音を奏で、火花を起こす。
「り、リーフ……!?」
「貴様……! なぜ動ける!? 貴様の精神は完全に……」
「支配されたよ、貴方にね。でもわたしはもう迷わない。現実と……今の自分と向き合うって決めたから!」
リーフレットは一度態勢を整え、身体を一回転させると、剣体を使ってバルガを壁の方まで弾き飛ばした。
「ぐっ……!!」
圧倒的パワーで押すリーフレット。
先ほどまでのリーフレットとは何もかも違っていた。
「しーちゃん、大丈夫?」
真っ先に俺の元に駆け寄るリーフレット。
俺はただ、今起きた状況を理解するのに必死だった。
「り、リーフ……お前、動けるのか?」
「うん。わたしならもう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「で、でもどうして……」
リーフはバルガに催眠魔法をかけられていた。
通常、催眠魔法は一度かかったら自我だけで切り抜けるのは非常に難しい。
相当強い”何か”がない限り……だ。
リーフは一度聖威剣を鞘に納めると、
「全部、しーちゃんのおかげだよ」
そう一言、言った。
「俺のおかげ……?」
「うん。わたしは戦う前から諦めていた。強がっていたけど……本当は凄く怖かった」
前の日の晩。
リーフは俺に自らの胸の内に秘める想いを打ち明けてくれた。
自分の剣が通用するのか。
自分の実力では魔人には敵わないんじゃないかと。
「でも、しーちゃんが昨日の夜に言ってくれたことを思い出したの。何があっても諦めない、気持ちで負けたらお終いだってことを」
リーフはそのまま続ける。
「だから、わたしはもう諦めない。たとえダメだとしても、自分の身が灰になるまで戦おうと思う。しーちゃんがそう言ってくれたように……」
「リーフ……」
その眼はもう、さっきのリーフレット・ルーデントではなかった。
迷いがなく、強く逞しい目の色になっていた。
「しーちゃん、後はわたしに任せて。今度はわたしが、しーちゃんを守ってみせるから」
彼女はいつものあの愛嬌ある笑顔で俺にそう言った。
そしてリーフはバルガの方を向くと、再び聖威剣を鞘から抜いた。
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「いってぇ……やってくれるじゃねぇか」
バルガは壁に当たった時の衝撃で崩れ落ちた岩をかき分け、服についた砂をパッパと払いながら出てくる。
依然として胸元からは血が出ているが、奴自身は何ともないようだった。
「まさか、あの催眠魔法から抜け出してくるとはな。あっぱれだ。だが、抜け出したところで貴様に勝ち目はない。貴様も分かっているのだろう? 俺様との実力の差ってのを」
「分かってる。でも、それで諦めたら何もかもが終わってしまう。たとえそうであったとしても、わたしはわたしの信念を最後まで貫き通す!」
リーフレットは聖威剣を握りしめ、そう叫ぶ。
いつもの笑顔溢れる表情から一変、キリッとした力強く鋭い眼差しへと変わる。
バルガもその眼差しを見るなり、ニヤリと笑った。
「へぇ~女のくせにいい顔すんじゃねぇか。その眼差し……貴様の闘志を感じる」
「それはありがとう。でも、変わったのはそれだけじゃない」
「ふん……なら見せてもらおうじゃねぇか。貴様の言う”信念”ってやつを」
「望むところ……! ヴァイオレット!」
『ええ!』
瞬間。
吹き荒れる風と共にヴァイオレットが白く光り輝く。
今までのリーフレットでは想像もつかないほどの魔力の高まり。
高ぶる心と比例してリーフレットの力は何倍も膨れ上がっていく。
「な、なんだこの力は! この覇気はっ!」
聖魂の覚醒。
今、リーフレットに起こっているのはこの現象に近いものだろう。
まだ完全に覚醒しきってはいないが、リーフレットはその殻を破る一歩手前まで来ている。
その力がこうして形になって表れたのだ。
「……わたしはずっとこの時の為に剣を握ってきたのかもしれない。いつか、彼を守る立場になりたいと……」
「何をグチグチ言ってやがる! 来ねぇならこっちから行くぞっ!」
流石にこの力はバルガにとって脅威に映ったのか、段々と語調が荒くなっていく。
でもリーフレットは至って冷静。
何も動じず、ただ前を見つめ、剣を握っていた。
「ヴァイオレット、力を貸して。ここから……新たな一歩を踏み出すために」
『もちろん。私もそれを望んでいるわ』
「ありがとう、ヴァイオレット」
「……来ねぇか。なら……容赦なくこっちから行かせてもらう。……死ねぇ!」
大地を蹴り上げ、猛進するバルガ。
リーフレットは静かに目を瞑り、精神を整える。
そしてパッと目を大きく見開くと――彼女は全てを解放させた。
「行くよ! ≪解放せよ≫!!」