10.とある少女の決意
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わたしはリーフレット・ルーデント。
年齢は18歳で職業は勇者をやっている。
とはいってもまだ勇者になってほんの2、3年ほどだけどね。
わたしはある人に憧れ、その人に追いつくためだけに勇者になった。
他にも細かい理由はあるけど、勇者になった最大の動機はこれだ。
昔、奥手で臆病だったわたしはその人がいないと何にもできないほどのダメダメな女の子だった。
何かあれば助けてもらい、頼ってばかりだったのを今でも鮮明に覚えている。
「しーちゃん! しーちゃん! 早く来て!」
「どうしたリーフ!」
「む、虫が……」
「虫? ……ってお前こんなちっこいのにビビってんのか?」
「だ、だってぇ……虫嫌いなんだもん」
「はぁ……全く」
その人はそれ以上は何も言わずにわたしを助けてくれた。
そして涙目になっているわたしの頭にそっと手を添えて優しく撫でてくれた。
同い年なのにその人は自分よりも全然立派で、まるで年上のお兄ちゃんみたいな感じだった。
”その人”というのはわたしの幼馴染。
名前はシオン・ハルバード。
わたしはよくしーちゃんと呼んでいた(今もだけど)。
同じ村で生まれ、同じ環境で育ち、毎日のように顔を会わせては鬼ごっこをしたり近くの川へ水遊びに行った。
山と森に囲まれているようなちんけな村でなんにもないところだったけどしーちゃんと遊んでいる時は時間を忘れてしまうほど楽しかった。
「ねぇ、しーちゃん……わたしたち……ずっとこのまま一緒にいれるよね?」
「ああ、もちろん! 俺たちはいつも一緒だ。俺は絶対にリーフから離れない」
「ほ、ほんと……?」
「うん!」
ある日の誓い。
確か二人で山へハイキングへ行った時のことだ。
わたしは嬉しかった。
絶対に離れない――この言葉が当時、臆病者だったわたしにとって心の支えになっていた。
いつまでもこんな時間が続けばいい。
わたしは強くそう思いながら、彼との日々を過ごしていた。
……が、現実はそう甘くはなかった。
それから年月が経ち、わたしたちが10歳になった頃。
彼は突然、村を出ていくと言い始めた。
明確な理由は分からない。
でもただ一言、彼が教えてくれたのは勇者になりたいからという言葉だった。
今までしーちゃんの口から勇者になりたいだなんて言葉は出てこなかった。
ただ、毎日早朝になると家の前で木刀を振り続けている彼の姿はあった。
でもその時はまさか勇者になりたいだなんて思っているとは、わたしには想像もつかなかったのである。
「しーちゃん! 本当に村を出て行っちゃうの!?」
「……ああ」
「な、何で……何でよ! しーちゃんはあの時、絶対に離れないって……」
「……悪い。あの時の約束は忘れてくれ」
「……ッ!?」
ショックだった。
何か事情がある、そう信じたかった。
わたしはなぜ勇者になりたいのか彼に聞いた。
でも彼は何も言わずにただ無言を貫くのみ。
一言たりとも話してくれなかった。
いきなりのことだったので村のみんなも彼を心配し、しーちゃんの養父にあたるグレイおじさんも彼を止めようとした。
でもしーちゃんの意志は固かった。
結局、彼は村を出て行ってしまった。
何も告げることなく、ただひっそりと。
わたしはその時、なぜこうなったか思い当たる節を考えた。
そして、一つの結論に達した。
――わたしが、弱かったから……
うんざりしていたのかもしれないと、そう考えた。
わたしからすればそれが真実じゃなくても一番しっくりする答えだった。
そしてこの瞬間、しーちゃんと紡いできた過去の出来事がわたしの脳内に溢れ出てきた。
今まで彼に依存してばかりだったこと。
自分の弱さに対する葛藤。
大切だった人を失って初めて知った今までに感じたことのない感情。
まだまだ小さな身だったわたしに覆いかぶさるかのように様々な想いや感情が自らを襲った。
だけど、この出来事によってわたしは自分を変えるきっかけを作ることができた。
そして同時にわたしの中には今まで抱いたこともなかった自分だけの夢ができた。
誰よりも強くなって、いつかしーちゃんと肩を並べて歩けるほどの人間になりたい。
助けられてばかりじゃなくて、今度は自分が色々な人を助けることができる人間になろうって。
こうしてわたしも彼と同様に勇者を目指すことになった。
冒険者の経験のあるお父さんから剣術や体術を学び、朝から夜遅くまで稽古で汗を流し続けた。
それから数年が経った後、わたしは念願の勇者となった。
当時はあまりの嬉しさに泣いて喜んだ記憶がある。
そしてその後、なんやかんやあって勇者として力を着々と身に付け、今に至る。
昔の弱かった自分は完全ではないけど捨てることができた。
でも、この想いだけはいつまでも捨てずに残している。
あの時、村を何も言わずに出て行った人へ向けた一途な想い。
いつか伝えようと思っていたのかもしれないけど、自分を騙して一歩踏み出すことすらしなかった。
凄く後悔していた。
過去に戻れるなら、自分に説教してやりたいくらいだった。
勇者になったら……と思っていたが彼の姿はそこにはなく、後悔の念はさらに強まった。
けれど、それはもういいの。
わたしは勇者になってようやく彼と再会を果たすことが出来たのだから。
8年前と大きく変わっていない容姿とわたしに対する接し方。
鍛冶職人になっていたのはさすがに驚いちゃったけど、元気な姿を見れただけでも凄く嬉しかった。
それに、この想いを伝えるチャンスもできたしね。
普通に考えればあの時言ってくれた”いつまでも”なんて言葉は所詮まやかしに過ぎないことだった。
でもちっぽけなわたしには彼の言うこと全てが真実であった。
バカだなぁ……わたし。
今ではそう思うけど、それほどシオン・ハルバードという一人の男の子をわたしは想っていたんだ。
もちろん、当の本人はそんなことなど知る由もない。
でもいつか伝えてみせる。
この想いとそして、あの時よりも強くなったんだよってことを彼に知ってもらうために。