Ⅸ. ナーマンは死ぬかもしれない
ナーマン・キュトラは冒険者である。
冒険者とは、人里離れた場所に発生した魔境や遺跡の探索や雑用を行う職業である。
そしてナーマンはその冒険者の中でもかなりベテランの部類に入る、C級冒険者であった。
そんなナーマンは今、魔境に居た。
この魔境というのは、先週発生したばかりの、出来立て魔境のことである。
「だというのに、なぜこんなにも広いんだ?」
そう、その魔境は以上に広かった。
普通魔境というのは、発生してから何年もかけて巨大に成長していくものなのである。そのはずなのだが、この魔境は先週発生したものとは思えないくらい広大であったのだ。
「まるで発生してから数百年経った魔境のようだな」
この魔境の異常性はそれだけではなかった。それはこの魔境の魔物が異常に強いということである。
ナーマンの前方にある木の陰から飛び出すものがあった。
『ブジョギュアアアアアアアア!ジョア!』
バツンッ、とナーマンの体から何かが落ちた。
「ヒギッ、ァ、ァアアア!」
ナーマンの絶叫。
ベテラン冒険者であるナーマンのレベルが50であるのに対して、この魔境に存在する魔物のレベルは100が最低レベルなのである。一人で勝てる相手ではない。
目の前にいる、三つの首を生やした豚モドキもそうだ。絶対にレベル100を超えている。
「畜生!いてえ、いてえよぉ!」
ナーマンは叫ぶ。
これまで冒険者として生きてこれたのは、明らかな格上相手に殺し合いを挑んでこなかったからだ。だからナーマンはベテランになれたのだ。
ナーマンには確実に死ぬような闘いに命を賭けるような、度胸もなければ勇気もないのだ!臆病者のナーマン・キュトラは打たれ弱い!
故に今は足を震わせ、迫りくる死に怯えて泣くことしかできない。
ナーマンは先ほど切り落とされた右腕の付け根を左手で押さえつけるが、血は止まらなかった。
「助けて、助けて……」
誰も助けに来るわけないだろ!
豚はそう言うかのように顔を歪ませ嗤った。
しかし豚の愉悦は続かなかった。
「カガリじゃない?でもまあいいや!」
我らがキチガイ、リーシャちゃんが来たからだ!