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「今年も楽しかったなぁ」
三十代最後となる除夜の鐘を自室のベッドで聞きながら雛沢拓斗はつぶやいた。
子供の頃は、大人になったら結婚して家庭を築くものだと思っていたが現実はそうではなかった。
就職氷河期によりバイトや契約社員を転々とし、気がついたら独り身のままこの歳になっていたのである。
しかし、不幸な人生だったかと言われれば否と答えるだろう。
その理由は沢山とは言えないまでも、気の置けない友人たちがいるからだ。
皆趣味はバラバラだがお互いの趣味を肯定し、時には一緒にその趣味を楽しんできた。
女児向けアニメ映画を男数人で見にいって家族連れに白い目で見られたり、サバゲーをして翌日筋肉痛で動けなくなったり、知りもしない声優のライブに行ったり、同人誌の即売会やフィギュアの即売会なんかにも行った。
この歳にもなって何をやってるんだと言われることもあるが、どんな年齢になっても楽しいものは楽しいのだ。
これからもずっとこんな風に生きていくのだと思っていた。
しかし、そうはならなかった。
ズシン!!という強い衝撃と共に目が覚めた。地震だと気がつき急いで外に逃げようとしたが間に合わなかった。
雛沢拓斗はその日
死んだのだ。