準備と予定
今回短めです汗
謁見の間に勇人達は通され、そこには初日と同じくキャメリアをはじめ、大臣やカトレアが待機していた。
「勇者よ、私に話があると言う事だったがもしや私の願いを聞き届けて貰えるのか考えてくれたと言う事か?」
キャメリアが口火を切って勇人に話しかける。
「はい、俺達は王の願いを聞き、この世界を救う事に決めました」
「それは良い返事を聞けた!こちらも支援を惜しまずに出す故、旅に必要な物などあれば遠慮せずに言うのだぞ」
支援を惜しまないと言われたため勇人は旅の仲間が欲しいと伝える。
「うむ、それについてはこちらも考えていてな、3人程人材を見繕っておいた」
「どんな方達ですか?」
「私の方から説明させて頂きます」
説明してくれるのはダラスという大臣だった。
「まずはフリージア・インテゲルと言う魔道士です。かつて天才魔道士として名を轟かせた人物です」
「次は我が国と同盟国であるロータス教国から戦乙女の異名を持つ、リリス・プリムと言う剣の使い手です」
「最後になりますが魔導生物研究所、通称ドグマよりウルティオと言う戦士を用意させて頂きました」
ダラスの説明ではフリージアと言う人物は魔法に秀でた人材で、リリスと言う人物は剣士として周辺諸国から一目を置かれる人材だそうだ。
ウルティオと言う人物に関しては詳しくは言っていなかったが、戦士として高水準な実力を持っているらしい。
「わざわざありがとうございます。その人達とはいつ会う事が出来ますか?」
「うむ、お主達には悪いのだがフリージアとリリスはお主達が直接会いに行き、合流して貰いたい。ウルティオは2、3日中にはこちらに来て貰える手筈になっている」
キャメリアが言うにはフリージアは国の北の方に居て、リリスはロータスで任務についているらしく3カ月は合流出来ないそうだ。
「フリージアがいるノーザンと言う名の村に行くのに大体1カ月程掛かる。ノーザンからロータスまでは2カ月と言ったところか、故にフリージアと合流後はそのままロータスに向かいリリスと合流して貰いたい」
(リリスとか言う人と合流出来るのが最低でも3カ月掛かるならその方が効率が良いか)
勇人はキャメリアの提案したこれからの予定に納得して頷く
「旅の道中ではレベル上げも行えよう。我が国の領土内にはさして強力な魔物も少ないのでな」
「分かりました。仲間を用意してもらいありがとうございます」
「よい、今はこの程度しか支援出来ず申し訳ないな、後は旅の資金と武器や防具一式を贈与する」
やはり旅立つにあたり先立つものは必要になり、魔物が跋扈している世界なら武器や防具も必須なのだ。
それらを全て用意して貰えるなら勇人達にとっては有難い事だった。
「お主達をこちらの都合で呼んでおいて、こちらの願いを聞いて貰えるのだ。これぐらいはせねばな、これから必要な物など出てくれば出来る限りは用意しよう」
「王の配慮、ありがとうございます。後、最低限戦えるぐらいの訓練をしておきたいんですが」
勇人達は武器など使った事が無い素人なのだ。
いきなり武器を渡されても簡単な使い方は分かっても、本当の意味での使い方は教えてもらわなければいけないと勇人は思っていた。
野球を全く知らない人がバットを振ってもボールに当たらないようにある程度扱えるようにしておかないと、魔物と戦う時に取り返しの付かない事になってからでは遅いのだ。
「ウルティオの到着や装備等の準備に一週間程掛かる。それまでは武器使用の訓練をするが良い。指導を受けれるよう手配しよう」
キャメリアがダラスに目配せするとダラスから具体的な訓練予定が説明される。
「勇者様には剣の訓練を受けて頂きたく思います。いずれ魔神達と戦う際に聖剣を振るう必要があると思われますので、ハヤト様には魔法を、リン様は弓の訓練をして頂きたい。せっかくの異能ですのでそれを伸ばすのが良いかと」
(聖剣か、俺は不満は無いけど)
勇人は自分の訓練については不満は無い、しかし勇人の判断で訓練をしたいと言ったため2人がどう思っているか気になる。
「2人共、俺が勝手に話を進めちゃったけど不満があれば言ってくれ」
「私は不満は無いよ、弓は日本にいた時からも使ってたしね」
「僕も大丈夫、それに勇人の言う事は正しいと思うし、僕もまだ魔法を覚えていないから、このまま旅に行けば足手纏いになるのは確実だからね」
2人は勇人が勝手に決めた事に賛同してくれ、とりあえずの予定は立った。
「2人共ありがとう。それと王様、訓練はいつから受ける事が出来ますか?」
「それは本日より受けれるよう取り計ろう」
「ありがとうございます」
「うむ、では勇者達よ!諸君らの協力に心より感謝する。既に城の訓練所にいる者達に使いを出しておる。いつでも訓練所にて教えを請うと良い」
勇人達はそのまま謁見の間を後にし、訓練所に向かうのであった。
〜〜マグオート城最下層、特別牢〜〜
「今日、勇者に会いました」
暗い表情でアキレアは話しかける。
「名前を聞いて衝撃を受けてしまいました。ユウトと言う名だそうです」
男が勇者の名を聞き少し反応したように感じるも、それは気のせいで終わる程小さいものだった。
「本来なら貴方があそこに立っていたかもしれないと考えてしまいました。そう思ったら黒い感情に飲まれてしまいそうになって」
アキレアはそこまで言いかけ、頭を振る。
「いけませんね。暗い話ばかりしていては」
先程までの暗い表情が嘘だったと思うぐらいの優しい笑顔でアキレアは話題を変える。
「それはそうと私、しばらく会いに来れそうにないんです。ロータス教国に外交のために行かなければならなくなってしまいまして」
寂しそうにアキレアは男に語りかける。
「次に会う時にはもう少し楽しいお話をお聞かせ出来るようにしますね」
アキレアは日課を済ませて男の元から去っていく。
「いやはや、本当にアキレア様は健気でいらっしゃる」
アキレアが去った後すぐに複数の男が牢獄に姿を現わす。
魔法により姿を隠しアキレアが去るのを待っていた者達で、その正体はドクトールをはじめとしたドグマの構成員だ。
「あそこまでこの男に執心とは、これは代わりの者を置いてもすぐにバレてしまうかもしれませんね」
「ですが、アキレア様はロータス教国まで外交に行かれ、しばらくお戻りになりません。それに所長自ら偽装した囚人は完璧な仕上がりだと思いますが?」
ドクトールの懸念に部下が杞憂では無いかと問いかけるがドクトールはそれを否定する。
「アキレア様は感性が昔から優れておられます。それに古来より女性の勘は侮れない物だと言いますしね」
ドクトールは女の勘などに興味は無いと笑いを浮かべながら付け足す。
「ともかくこの男の移送を始めましょうか。早く調整して送り込まねばなりませんからね」
ドクトールの指示で構成員達が動き出し、男の代わりに囚人を置いて男を人目に触れないように棺のような箱に入れる。
「所長、準備が出来ました」
「よろしい、では研究所に戻り早速調整を始めましょうか」
男は2年振りに地下牢から連れ出される。
本人はもはや何も感じずにいたが、この男が外に出る事で世界に混乱をもたらす事態に発展するのだが、それはまだ誰も知る由もなかった。
現在公開出来る情報
《ノーザン》
マグオート王国に属する村で王都から北の僻地にある村。
寒地のため周辺の魔物は皮が厚く、特産物は魔物の皮であり狩猟で生計を立てる者が多く居住している。