勇者召喚
気が付いたらそこは先ほどまでの光景とは違っていた。
屋外のそれも公園に居たはずなのに屋内、しかも豪華な装飾品がそこら中にしてある場所に居た。
しかも周りに多数の人が自分を見ているのである。
高校3年生の神田 勇人は困惑していた。
高校最後の夏休みに思い出作りをしようと幼馴染の早乙女 凛に提案され、同じく幼馴染の風間 隼人と3人で旅行中だった。
旅行の最中色んな場所で思い出の記念撮影をしたいと言う凛の願いで、自然豊かな公園で撮影をしていた時急に目の前が暗くなり、自分が立っているかも分からない不安定な感覚に襲われたと思ったらこの場所にいた。
(ここは何処なんだろう?それに2人は?)
後ろを見ると凛と隼人が自分と同じく困惑しているのが分かった。
自分1人がここに居るのではないと分かり勇人は安堵する。
「勇人ここは?さっきまで僕達は公園に居たよね?」
「分からない・・・隼人も分からないか・・・凛は?」
「私も気が付いたらここに居たから・・・それにあの人達は?」
3人で軽く現状を話すと自分達を見ている人達について気になった。
自分達に話し掛けてくる様子はなく彼等同士で何か話し合っているようだが、こちらまで話す内容は聞こえてこなかった。
「何を話しているんだろうね?」
「いっそのこと聞いてみる?」
凛と隼人が聞いてきた。
勇人はとりあえず現状が分からないため、覚悟を決めて彼等に話をしてみることにした。
「あの、すいません!」
大声で周りにいる人達に向かって叫んでみた。
すると話し合っていた人達は話し合いをやめ、改めて自分達をみる。
そして1人の女性が前に出てきた。
「ようこそおいで下さいました!勇者様」
勇人は自分のことを勇者と呼ぶ女性を見る。
見ればとても美しい女性で眼鏡を掛けた蒼い眼と長い金色の髪の毛が印象的な女性だった。
「き、君は?」
「これは失礼しました勇者様。私はマグオート王国第一王女のカトレア・マグオートと言います」
優雅に一礼するカトレアに勇人は尋ねる。
「ここは、何処なんですか?」
「ここはマグオート王国の王城の中です」
マグオート王国、全く聞いたことのない国の名に3人は困惑する。
「失礼ですがマグオート王国と言う名前を聞いた事が無いのですが・・・」
隼人が横から申し訳無さげにカトレアに言うと
「それは仕方ありません。ここは皆様のおられた世界とは違う世界なのですから」
「っ!違う世界ですって!?」
驚く凛がーーー勿論勇人と隼人も驚いていたがーーーカトレアに言い寄ると、カトレアは「説明致します」と話し始めた。
「皆様は勇者召喚の儀にて世界を渡り、私達のいる世界“パラディス”の国の一つであるこのマグオート王国に来ていただきました。お呼びした理由についてはこれより玉座の間にお越しいただいた後、私の父国王キャメリア・マグオートが致します」
カトレアが言い終わると勇人は3人で少し話しをしたいとカトレアに言い、「どうぞ」と許可を得てから少し距離を置いて3人で話し始めた。
「2人とも話を聞いてどう思う?」
「私は未だにここが異世界だなんて信じられない、けど私達に何かをしてもらいたくて呼ばれたって事なのよね?」
「そうみたいだね。僕達に何をさせたいかは分からないけど、それはこれから国王がしてくれるみたいだし、とりあえず話を聞いてみてからかな?」
凛は不安そうだが隼人は落ち着いているようだ。
「勇人はどうなの?」
不安そうに聞いてくる凛に
「俺はあの人が嘘を言ってるようには感じられない、だから国王に会って話を聞いてみようと思うんだ」
自分の思いを伝え、3人でとりあえず理由を教えてくれると言う国王に話を聞いて自分達を呼んだ理由を聞くという方針が決まり、カトレアに玉座の間までの案内を頼む。
「分かりました。今より案内させていただきますので私について来て下さい」
カトレアを先頭に3人がついて玉座の間まで歩いていく。
城の中は広く歩いて10分近く経ったかと言う時に大きな扉の前に辿り着く。
「この扉の向こう側が玉座の間です」
そう言われて3人に緊張が走り心の準備が出来る間も無く扉が開いていく。
部屋の中は豪華な装飾品に飾られており、更に恐らく大臣だろう人物達が自分達を見ていた。
部屋の一番奥の玉座に座っているのが国王なのだろうと3人が思っていると
「勇者達よ部屋に入り私に顔を良く見せてはくれまいか?」
国王が3人に呼びかけ、その呼びかけに緊張で固まっていた3人はハッとして国王の元まで歩き出す。
「国王よ勇者様達をお連れ致しました」
カトレアが国王に勇者を連れて来たことを報告する。
「うむ、私はキャメリア・マグオートこの国の王をしておる。カトレアよ勇者達を私に紹介してくれぬか?」
「分かりました。勇者様方よろしければ王に自己紹介をして頂けると有難いのですが・・・」
カトレアに言われて
「俺は神田 勇人、年齢は18歳です」
「私は早乙女 凛、勇人とは同い年です」
「僕は風間 隼人、2人と年齢は同じです」
3人は簡単に自己紹介をした。
「ユウト、とな?」
王は勇人の名を聞き顔を一瞬しかめた。
「俺の名前がどうかしましたか?」
「いや、勇者の名を胸に刻んでおっただけよ、気にするでない」
勇人は少し引っかかるものがあるが、勇人は話を進める事にした。
「それより俺達を呼んだ理由を教えてもらえませんか?」
「うむ、説明をせねばなるまいな。まずはこの世界の状況について話しておく必要がある。」
「この世界には多数の種族が存在していてな、私ら人間もその一つであり他の種族とは共存してこの世界は平和を保っていたのだが、近年その平和を乱す者達が世界を征服しようと行動に移しつつある」
「世界征服、ですか」
「うむ、かの者達は“魔族”と言う種族の者達でな、魔族の神『魔神パズス』を絶対神として崇めておる。以前は距離を置きながらも魔族とは交流は少しではあるがあったのだ、しかし近年魔神パズスが復活する兆しが出てからというもの、魔族との交流は断たれ、戦の準備を進めておるようなのだ」
王が魔族について説明するが分からない事があった。
「失礼ですが、魔族の神が復活するから魔族は世界征服をする?その理由が分からないのですが」
隼人が王に聞いてみる。
「魔族は絶対神と崇めておるのが魔神パズスと私は言ったな?」
「はい」
「その魔神パズスの目的が世界を支配することなのだよ」
勇人達は困惑する。
いきなり魔神などと言われてもと言う話である。
「お主達の世界の神がどういったものかは私は知らぬが、この世界は太古の昔神々が創りたもうた世界で、魔神パズスもその時世界を共に創ったとされる神の一柱だったのだ」
「しかし世界を創造して神々の間で大きな戦があったとされていてな、その戦の内容は失伝してしまって私達には何があったかは伝え聞いておらん。だがその戦のせいで神々の数は最早数えるのみにまで減ってしまわれた。」
「魔神パズスは他の神々と共に戦い生き残った数少ない神の一柱でな、他の神々と戦で荒れた世界の再生を行う過程で創造神ロゴス様や女神アストレア様と意見が割れ、魔神パズスは世界を支配する事で世界を導こうとして神々と争い、やがて神々の力により封印されたと伝えられておる」
勇人達は突拍子も無いと思いながらも世界の成り立ちを聞いていた。
「近年その封印が解ける兆しがあると神託があった。同時期に魔族に動きがあったため私達も対策を練る必要があった」
「それで俺達を呼んだんですね?」
「うむ、対策を練る過程で女神アストレア様からの神託を受けてな、勇者を召喚し女神アストレア様が勇者に加護を与えて魔神の復活の阻止、もしくは討伐をさせるように、と」
そこまで聞いた隼人と凛は怒りを覚えていた。
勝手に呼んでおいて魔神を倒せと言っているのだ、怒らない訳が無い。
しかし、
「困っている人は助けたいと思いますが、魔神を倒せと言われても残念ながら俺には力は何も無いですよ?」
勇人がその頼みを受けるような返事をして、2人は驚きながらも改めて勇人がこういう性格だったと思い出す。
勇人は昔から困っている人を助けたり、間違っていることを放って置けない性格をしていた。
「ちょっと勇人!いきなり呼ばれてそれでもその人達を助けるって言うの!?」
「そうだよ勇人!この世界の問題はこの世界の人が解決するべきじゃないか!」
怒りをあらわにする2人に王が2人に謝罪する。
「お主達の言う通りこの世界の事はこの世界の私らで解決するべきなのじゃが、恥ずべき事に私らにはその力が無い」
「なら!私達だって!」
「それが違うのだ」
「!?」
力が無いと言う3人に王は否定する。
「この世界には『異能』という物があり、平たく言えば特殊能力と言うものか、この世界で時折その異能を持って生まれてくる者がいるのだ。お主らは世界を渡る過程で通常持ち得ないような特殊な異能を身につけてこの世界に来ているのだよ」
『異能』と聞いて、まるで漫画やアニメみたいだと隼人は思った。
「異能とか言うものがあっても私達3人で神なんて倒せる訳ないじゃ無い!」
なおも感情をぶつける凛に勇人が落ち着かせ、王に自分の思いを伝える
「凛も少し落ち着いて、キャメリア王、俺達はどんな異能があるとか分からないし3人で神を倒せと言われても難しいと思います。けど自分に世界を救う力があるのなら力になりたいと思っています」
それを聞き王が
「異能についてはお主達には悪いがこちらで調べさせてもらった。カトレアよ」
「はい、王よ」
「3人の異能について説明してくれぬか?」
「分かりました」
「では皆様にご自身の力について説明させていただきます」
今まで控えていたカトレアが3人に宿った力について語りだす。
現在公開出来る情報
《マグオート王国》
世界で1、2を争うほどの大きな国であり勇者召喚を行った国、世界の安寧を目指している。