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9話 施設1ヵ月目

――施設へ来てから一ヵ月が経った。 


異変に気付いたのは3週間が経った頃だっただろうか?


「お願いします…!! 飴をください!! もう我慢できないの!!」


叫び声をあげているのはノルンだ。 ノルンの姿は窶れており髪もぼさぼさだ。 ノルンが【飴】を求めるようになったのは最近のことではない。


いつからか実験室へと行きたがるようになり、帰ってきたときにはどこか満ち足りた表情をしているのだ。


「うぅ…… お願い……」


ノルンが頭をかきむしる。 亜人である彼女の爪は鋭く血がしたたり落ちていた。


「ノルン!! ノルン掻いちゃだめだ!! しっかりしろ!!」


俺の言葉は彼女には届かなかった。 俺はノルンを抱きしめ手を抑えこむ。 抱きしめた俺の背中を苦しそうに引っ掻き続けている。 ドロっとした血の感触が背中に流れていた。


俺は助けを求めようとトーマを見るがトーマは虚ろな目で地面を見つめ、ブツブツと何かをつぶやくだけだった。


フィーンとフェレインのほうを見る。 フィーンは頬に青痣ができ気絶している。 フェレインは膝を抱えて部屋の隅で震えていた。


数分前にフィーンが悲鳴を上げてフェレインに手をあげたためやむを得ず俺が気絶させたのだ。


「くそっ、何がどうなってるんだ!!」


恐らくことの原因はあの【飴】にあるのだろう。 幻覚や依存症を引き起こす毒キノコの症状とよく似ている。 レイナールさんから絶対に摂取してはいけないと教わったことがある。


「クレト…… クレトぉ……」


俺の胸の中でノルンがすすり泣いていた。 俺を引っ掻いていた手はもう既に力を失っており、手のひらを背中に添える形で俺を抱きしめ返していた。


「ごめん…… ごめんねクレト…… ごめん……」


「いいんだよノルン。 大丈夫俺がいるから。 もうあの飴は食べちゃダメだ。」


「分かってるんだよ? 分かってるんだけど…… どうしても…… どうしても欲しくなっちゃうの……」


「お願いだノルン。 お願いだから我慢してくれ……」


俺は怒りを抑えながらノルンを必死で説得する。


まだ言葉が届くうちにと……



そう願いを込めて……


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