8話 施設2週間目
「お兄ちゃん!!」
「フェレインを離せ!!」
その事件は唐突に起こった。
研究者によってフェレインが別室へと移動されそうになりフィーンが研究者に殴り掛かったのだ。
なぜフェレインだけが移動させられるのかは分からないがフェレインと離れ離れになるまいとフィーンが研究者に掴みかかり必死の抵抗を見せている。
「おい! 何をやってるんだ!!」
すると扉から見張りの男が2人部屋に入ってきて、フィーンを研究者から引き離し殴り飛ばした。
「うわぁ!!」
「フィーン!!」
殴り飛ばされたフィーンにノルンが駆け寄った。
「フェレインをどこへ連れていくつもりですか!?」
「他の部屋へ移動するだけだ! それがマスターの指示だからな。」
トーマの問いかけに答えた研究者の男はそのままフェレインの腕を掴み引きずるようにして連れて行こうとする。
「お兄ちゃん!!」
「フェレインをはなせぇ!!」
しかしフィーンは再度立ち上がると研究者の男に掴みかかった。
「ええい! 鬱陶しい!! こいつを始末しろ!!」
「し、しかし教授。 よろしいのですか?」
「構わん。 どうせ失敗作だ。 替えはいくらでもいる!」
見張りの男はその言葉を聞くと腰に差した剣を抜きフィーンに切りかかった。
「きゃああああ!!」
「おにいちゃん!!」
ノルンとフィーンが悲鳴を上げる。
俺はその刹那駈け出していた。 剣を抜いていない見張りの男へと近づき剣を引き抜く。 その反動を利用し振り向きざまに剣を振りかざした男の首を切り落とそうとするが、力が足りず喉を半分抉った状態で剣が止まった。
そして絶命して仰向けに倒れた男の頭を踏みつけ剣を引き抜き何が起こったのかわからず呆然としているもう一人の見張りに剣を突き刺した。
一瞬遅れて肉を抉る嫌な感触が手に伝わる。 人生で初めての人殺しだった。
もしかすると俺の行為でマスターの怒りをかい村に危険が及ぶかもしれない。 でも俺には仲間を見捨てることができなかった。
「き、貴様ぁぁ!!」
研究者の男が叫び声をあげるが剣を持った俺が睨みつけると怯んだように逃げ出していった。
「……」
少しの間部屋に沈黙が訪れる。 血の嫌な匂いが鼻の奥を刺激していた。
「クレト!!」
そんな沈黙を破り、血まみれの俺に躊躇うことなくノルンが抱きついてくる。
「うぇぇぇぇぇん!!」
そしてフェレインが泣き出すがフィーンがすぐに駆け寄り抱きしめていた。
トーマは俺の肩に手を置き二回軽くたたく。 それはよくやったとも気にするなとも捉えられる行動だった。
騒ぎを聞きつけてやってきたのは他の見張り数人とマスターだ。
場の惨状を見てただ事ではないと見張りが剣を抜こうとするがマスターがそれを止める。
「これは君がやったのかい? クレト。」
「……はい。」
これは明らかに契約違反だ。 村へ手を出さないという約束はもう守られないだろう。
「ククク、大の大人を二人共殺してしまうとはね。」
「すみませんでした。 処分は全て俺が受けます。 こいつらには手を出さないでください。 お願いします。」
とにかく今は謝るしかないだろう。 もし仲間に手を出されるくらいならここでこいつと殺り合うしかない。 勝てないとしてもだ。
「ククク、処分? なに構わないさ。 たかが見張りの1人や2人死んだところでね。 それよりも実験材料である君たちを殺そうとしたあなたにこそ罪があるのではないかな? 教授?」
「え…… いえ! マスター!! これには深い事情が……」
次の瞬間フィーンを殺そうとした教授と呼ばれる研究者の首が胴から離れていた。 血が地面を汚し胴のみとなった身体がピクピクと痙攣を繰り返す。
マスターが何を考えているのかは分からないが、どうやら俺たちは助かったようだ。
俺は胸を撫でおろすと同時に男の気色の悪い笑みに不安を募らせていた。