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4話 誕生日

「クレト! 起きなさ……あれ? 今日はちゃんと起きてるのね。」



俺の部屋のドアを開け母親であるクレアがそう呟く。


俺の家族は両親と俺の三人だけだ。 父親は騎士として王国に勤めているので今は二人で2階建てのこの家に暮らしている。


俺と母はよく似ていると言われる。母は真っ直ぐな長くて黒い髪に黒い眼を持っており息子の俺から見てもかなりの美人だ。 母は母親を体現したような人ですごく厳しいがその厳しさの裏には優しさがある。

そんな母が俺を起こしに来たのには理由がある。


今日はライラの誕生日なのだ。



この村には子供が俺とライラ、フェルマ、カナンの四人しかいないため村人達は皆俺たちを自分の子供のように大切にしてくれている。


なので今日は村をあげてライラの誕生日をお祝いするのだ。


俺はその準備の時間を作るために子供達を狩りへと連れて行くように言われていた。


「当たり前だろ?ライラの誕生日なんだから! すぐ用意してライラ達と狩りに行くよ!」


「くれぐれも怪我だけはしないようにね?」


「わかってるって母さん。 」


俺は急いで準備を整えると机の引き出しに入ったプレゼントを確認する。


「……喜んでくれるかな?」


俺はそう呟くと朝食を食べ家を飛び出した。


「あれ? クレト? 今日はちゃんと起きたんだ!」


家を出るとちょうどライラが迎えに来たところだった。


「おはよ! ライラ。 今日は目覚めがよかったんだよ。」


本当は楽しみでよく眠れなかっただけだがサプライズに気づかれないようにそう言う。 といっても毎年の

ことなので気づいているかも知れないが。


「じゃあ、集合場所に向かおっか!」


「おぅ!」


俺たちは二人で集合場所へと向かう。 集合場所にはもうカナンとフェルマが来ていた。


「おはよ! カナン! フェルマ!」


「おーす!」


ライラと俺が二人に声をかける。


「おはよー! お、珍しいなクレトが時間通りに来るなんて。」


「今日は槍でも降るんじゃないか?」


珍しく時間通りに来た俺に対しニヤニヤとそう言うカナンとフェルマ。 二人は俺がライラの誕生日に気合いをいれて来たことに気づいているようだ。


「たまたま目が覚めたんだよ! いいから早く行こうぜ?」


俺は恥ずかしくなり出発を急かした。 今日はいつもの洞窟とは違うもう一つの狩場である草原に行く予定だ。


「そうだね。 じゃあ行こうか!」


カナンの声でみんなが歩きだす。 俺もそれに続いた。


目的地に到着すると俺は気を引き締める。 今日も気は抜かない。


--狩りを始めてから4時間ほどが経過した。 あと1時間もすれば夕刻だ。 夕刻になればお祝いの準備も整うだろう。


「ふぅー、結構倒したね! これ以上は持って帰るのが大変だからそろそろ帰ろうか。」


「いや、待てライラ。 も、もう少し狩っていかないか?」


「そ、そうだぜライラ。 今日は俺も槍の調子がいいんだ!」


ライラの言葉に焦った俺とフェルマが狩りの続行を提案する。


「えー、でも魔物持って帰れなくなっちゃうよ?」


「そ、それは……そうだよな。」


俺はついライラの正論に折れてしまった。 カナンとフェルマが無言で俺を睨んでいる。


「それじゃあ帰るか。 すまないが寄りたい所があるのだが構わないか?」


俺の失敗をカナンがうまくフォローしてくれる。


「寄りたい所?」


「あぁ、レイナールさんが明日出発するだろ? だから無事に帰ってこれるようにお守りを作ってあげよう

と思ってさ。」


「うわぁ、それいいね! 」


そういえば明日出発すると言っていたな。 すっかり忘れていた。 俺たちの村で言うお守りとは紺湖石(こ

んこせき)という湖に落ちている紺色の石をピカピカに磨いた物のことだ。


早速俺たちは湖で紺湖石を探す。


「ーーあった!!」


ライラが大きな声で叫んだ。 探し始めてから大体30分程で見つけることができた。 今から帰れば丁度良い時間になるだろう。


「よし、じゃあ帰ろうか!」


そして俺たちは帰路へついた。


「ーー誕生日おめでとう!! ライラ!!」


村の入り口に入った途端炸裂音がしたかと思うと村人達が総出で出迎えてくれた。


「え、え? なんで?」


ライラが驚いて呆然としている。 どうやら誕生日のことはすっかり忘れていたようだ。


「誕生日おめでとうライラ!」


「「おめでとう!!」」


俺たちからも祝福の声を届ける。


「わー! すっかり忘れてた! みんなありがとう!!!」


ライラが笑顔でお礼を言う。 本当に嬉しそうだ。 次々と料理が運ばれてきてバーベキューが始まった。


俺は隙を見て家に帰ると用意していたプレゼントを持ってもどる。


みんなの元へ戻るとみんながプレゼントを渡していた。 ライラは抱えきれないほどのプレゼントを貰ってご満悦だ。


「うわー! すごい! みんな本当にありがとう!!」


ライラはレイナールさんから貰った戦闘用の赤い服を着ていた。 その姿はいつも見るライラとはどこか違いとても魅力的だった。


「ラ、ライラ」


俺はなぜか少し緊張しており、声が震えてしまった。


「あ、クレト!! どう? レイナールさんに貰ったんだ! 似合う……かな?」


「え? あ、うん、似合うんじゃないか?」


上目遣いでそう聞いてくるライラにドキドキしながらそう答えた。


「ふふ、ありがと。」


「……ライラ、これ俺から。」


「え、これって……」


俺が袋を渡すとライラはすぐに中身を確認する。 ライラは俯き表情がよく見えない。


「ライラ?」


「……これ、いつ買ったの?」


「都市へ行った日、ライラが欲しそうにしてたからトイレに行くって言って買いに行ったんだ。」


ライラはなぜか俯いたままこちらを見ない。


「えっと、気に入らなかったか?」


「ううん、嬉しい。クレトありがとう!!」


ライラは俯いた顔を上げると俺に抱きついてきた。 ライラの良い匂いが鼻腔を刺激する。


俺はドキドキする心臓の音が聞こえないようにと必死で祈りながらライラから離れた。


「よ、喜んでくれてよかったよ。 お、おおおれはちょっと用事あるから!」


そう言って走り出す。


「え? ちょっ! クレト!?」


ライラの声を背に受けながら俺は鳴り止まない心臓を抑え必死に足を動かした。



--それから少しして呼びにきたカナンとフェルマに無理矢理連れ戻されるとなぜか生暖かい視線で見つ

めてくる大人達に違和感を覚えながら料理を口にした。



「--あれは落ちたな。」


「--あの鈍感なクレト君がねー」


大人達がニヤニヤしながら何か言っているがよく聞こえない。


なぜかその日は一日中ライラから目が離せなかった。


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