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3話 あの事件

ーーあの事件が起こったのは俺たちが単独で狩りにでられるようになってから1ヶ月ほどが過ぎ、連携にもかなり慣れてきたときのことだ。


「今日もいつもの洞窟へ行くの?」


「そうだな。 まぁあの洞窟なら余裕だろ。」


ライラの問いにそう答えた俺はいつものように四人で狩場へと向かった。


「フェルマ! そこだ!」


「てやぁぁ!!」


「ライラ! やれ!」


「ウィンドカッター!!」


「よし! ナイスみんな!」


いつもの蝙蝠型の魔物を倒した俺たちはその日かなりの長時間狩場へと潜っていた。


「そろそろ暗くなる時間だし戻るか。」


「えぇ、もう少し潜っていこうぜカナン。」


「だめだクルト。 レイナールさんに暗くなる前に帰れって言われてるだろ?」


「じゃあ後一体だけ!」


今日は調子が良かったからもう少しだけ狩りを続けたかった。


「しょうがないな」


俺のわがままを聞いてくれたみんなは更に奥へと進む。


「敵影確認! 来るよ!」


現れたのはウサギ型の魔物【ラベット】だった。


「ラベットがこんなところにいるなんて珍しいな? いつもなら暗くなってからしか出てこないのに」


「まぁいいだろ! サクッとやろうぜ!」


まずは俺が突貫し脚を切りつける。


ラベットは機動力が武器だから、まずは機動力を落とすことを優先させた。 その判断は正しく機動力の落

ちたラベットを狩ることは簡単だった。


「よし! じゃあ帰るか!」


「「はーい」」


カナンの言葉に返事をしたのは俺以外の二人。


「ふぅ、疲れたな今日は。 まぁでも収穫は上々だ。」


「頑張ったもんね!」


俺の言葉にライラが答える。


そうして洞窟の入り口に戻ってきたときのことだった。


「グルゥゥゥッッ!!!」


背後から獣の唸り声が聞こえた。


「な、なに!?」


急いで振り返るとそこにいたのは狼型の魔物【グレイウルフ】だ。


「グレイウルフだと!?」


「なんでこんなところにいるんだよ!!?」


カナンとフェルマが驚きの声を上げる。


それもそのはずだ。グレイウルフは森林で群れで生活する魔物で単独ではほとんど行動しない。 森林から

は距離があるし一体しかいないこの状況は異常でしかなかった。


「しかたない! やるぞ!」


カナンの指示で素早く陣を取る。


「俺が行く!!」


「待てクレト!」


俺はカナンの指示を無視して先手を取るべく突貫していく。


「やぁぁぁ!!!」


俺の攻撃がグレイウルフの首を捉えたーーかに見えた。


しかし俺の攻撃は空を切り、グレイウルフは跳躍によって後衛にいたライラの背後を取った。


「くっ! ウィンドカッター!!」


ライラが風の初期魔法を唱えるがグレイウルフは直撃を受けながらもライラに突撃し噛み付いた。


「あぁぁっっ!!!!」


「「「ライラ!!」」」


ライラの悲鳴が洞窟に木霊した。


カナンが噛み付いたグレイウルフを斬りつけ距離をとらせる。


「ライラ!」


俺は急いでライラに駆け寄った。 ライラの肩からは大量の血が流れており、血が足りてないのか青白い顔

をしている。


「ラ、ライラ! ライラぁ!」


「クレト!今は敵の迎撃を優先させろ!!」


カナンの声が聞こえるが気が動転している俺の耳にはよく聞こえなかった。


「くそ! フェルマ! 距離をとりつつ魔法で時間を稼ぐぞ!」


「わかった!」


二人が必死で戦っているにも関わらず俺はライラを抱きかかえ呆然としていた。


そのとき、ふとライラが目を開けるとおれにつぶやく。


「ク......レト。 2人......を............守って。」


「ライラ! 大丈夫なのか!?」


大丈夫なはずがない。 そんなことはわかっていた。


「大......丈夫............だよ。」


強がっていることが丸わかりだった。 だがそんなライラの姿を見て正気を取り戻した俺はライラの持って

いた荷物から止血剤を取り出し患部に塗り込んだ。 そして自らの肌着を破り巻きつける。 レイナールさんに教わった技術だ。 そして気を失ったライラを安全な場所に移し戦闘に参加した。


「ごめん待たせた!」


「クレト!」


カナンがほっとした顔をする。 よく見ると二人共ボロボロだ。 俺が冷静になっていれば! 後悔の念が沸

き起こるがグッと我慢する。


「フェルマ下がれ!」


前衛を代わり攻撃を続ける。


「グルゥゥゥ!!」


俺がグレイウルフの攻撃を弾きその間にフェルマが槍で突く。 敵がこちらの隙をついてきたときにはカナンが魔法で距離をとらせる。


そうして1時間程戦っていたが戦況は悪くなる一方だ。


そしてついにカナンの魔力がつき膝をつく。


俺も敵の攻撃を何度か受けてボロボロだった。


「グラァァァア!!!!」


グレイウルフがこちらの隙を見逃さず突撃してくる。 もうダメかっ!! そう思ったときだった。


「ウィンドレイ・マクスウェル!!」


俺たちの背後から声が聞こえたかと思うとグレイウルフがバラバラに吹き飛んだ。


「大丈夫ですか!? みなさん!」


「レイナールさん......」


「う、うぅレイナールさん!!」


カナンがほっとしたのか涙を流し、フェルマも膝をついて泣き出した。


「ライラが! ライラがぁ!!」


俺も必死で状況を伝えようとするがうまく言葉にならない。 ライラが死んでしまうのではないか。 そう思うと涙が止まらなかった。


「大丈夫です。 クレト。 ライラは必ず助けます。」


レイナールさんはそう言うとライラの治療を行った。


それから数分後。


「よし。 とりあえずはこれで安心でしょう。 治癒魔法をかけました。 すぐに移動しますよ!」


俺たちは重い体を動かし村へと戻った。


「レイナールさん、ライラは!?」


「大丈夫です。 すぐに目覚めるでしょう。」


ライラの無事にほっとした俺だったがすぐに罪悪感で胸が苦しくなる。


「俺のせいだ! 俺のせいで......」


レイナールさんはそんな俺の頭を優しく撫でると言葉をかけてくる。


「事情はカナンから聞きました。 確かに今回の件であなたはやってはならない過ちを犯しました。 自身の力を過信し、グレイウルフが一匹しかいないという異変に冷静な対処ができなかった。 あのグレイウルフははぐれでしょう。 仲間のいないグレイウルフなら冷静に対処すればなんとか勝てたはずですよ?」


「うぅ...... ごめんなさい。 ごめんなさい!」


全部正論だった。


「でもね、あなたは最後まで諦めずに戦いました。 そのおかげでみんな死なないで帰ってこれた。 誰も死んでいなければこれからやり直せるはずです。 大事なことはもう二度と同じ過ちを繰り返さないこと。 そしてその仲間を失う恐怖を忘れないことです。」


「......はい」


俺はその日一日中レイナールさんの胸で抱きしめられながら泣き続け気がつけば眠っていた。


その後俺たちはもれなく村の大人達にこっぴどく叱られ、1ヶ月の狩りを禁止させられた。


翌日にはライラは目覚めておりおれはライラに謝罪するためライラのいる部屋へと訪れた。


「あ、クレト!」


「...........」


「どうしたの?」


ライラは笑顔で出迎えてくれたが、俺は言葉を発することができない。


「ライラ............ごめん!」


「どうしてクレトが謝るの?」


「だって、俺のせいでっ!」


「違うよ? クレトのせいじゃないよ? クレトの言葉に賛成したのは私たち。 無理だって思ったなら無理

矢理にでも止めてた。 それにあんなイレギュラーは想定できるものじゃないよ?」


「それでも! 俺が冷静に対処すればライラが怪我することは無かった!」


「違うよ。 クレトはいつも前衛で一番危険な役目を負ってくれてる。 あのときだって先制攻撃をうけな

いために仕掛けてくれたんだよね? まさか私のところにまで来るとは誰も思わなかったし。 あのときだって身を守れなかったのは自分の責任だよ。」


俺が何を言ってもライラは引き下がらなかった。 それなら俺の決意を伝えよう。


「もう…もう二度とあんなヘマはしないから!! 俺がずっとお前を!! お前を支えるから!」


「............」


俺の言葉にライラは何も言ってこない。


疑問に感じた俺はライラを見る。 するとなぜかゆでダコのように顔を真っ赤にしているライラがいた。


「ライラ......?」


「......はっ! う、うん! よ、よよよろしくね!!」


なぜか激しく動揺した様子のライラに疑問を感じたが理由を聞いても答えてくれなかったためライラの部

屋を後にする。


俺はそれからカナンやフェルマ、レイナールさんとライラの両親に謝罪し、1ヶ月後もう一度狩りを始めた。


変わったことといえば、ライラが少し怒りっぽくなって暴力を振るうようになったことだ。 理由はわからないがあの日部屋を訪れた日から様子がおかしい。 やはり怒っているのだろうか?




ーーそれから1年が経った今でもその理由はわかっていない。


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