18話 4人での生活
師匠の家での生活を初めて1年近くが経過した。
俺は目を覚ますと魔力コントロールの訓練を始めた。 俺は魔法の適性がもともと無かったため火魔法や風魔法などは使えない。 使えるのは魔王の力のみである。
ということで普通の人とは違った訓練をジュリアから指示されている。 目の前に置いた木片に手をかざし強くイメージする。 細かいところまでイメージし魔力で構築。 すると目の前の木片は細かな装飾の入った木剣になった。 これが魔王の力の一つ物質変形魔法だ。 今俺の使える力は大きく分けて3つある。 1つ目は物質変形魔法。 物の形をイメージ通りに作り替えることができる。 ただしあまり大きなものは複雑には変形できず、複雑な変形ができるのは大体縦横1メートルほどの物に限る。 2つ目は変身魔法。 自分自身を人間や魔物に変える能力だ。 3つ目は幻覚魔法。 生き物に対し幻覚を見せることができる能力だ。
以上の3つを1年間の修行で習得した。
「ふぁ~。 おはよ。」
大きなあくびをしながら挨拶してきたのはジュリアだ。 寝ぐせでいつもボサボサの金髪がさらに爆発している。
「おはよう。 ジュリア。」
「むぅ。 私のことは先生と呼びなさいと言っているでしょ?」
「ハイハイ先生。」
「それにしてもあなた、魔法の扱い本当にうまくなったわね。」
俺の作りだした木剣を持ち上げて感心したようにそう呟く。
「まぁ教えてくれる先生が優秀だからな。」
「ふふ、当然よ。」
ドヤッという顔で腰に手を当てるジュリアに思わず笑いそうになりながら「はいはい」と返す。
「そろそろ朝食の支度しなくっちゃ。」
ジュリアは軽く魔法のアドバイスをくれると調理場へと向かう。
いつの間にかノルンも起きてきてジュリアを手伝っていた。
朝食ができるとノルンがアイシャを起こしに行く。 そして4人でそろって朝食を食べた。
午前中はジュリアとの訓練だ。 魔法もかなり上達してきたため今では山中で魔物との実践訓練を行っている。
俺たちの住んでいる家は山の頂上付近にあり、山には凶悪なモンスターが多数生息している。 この家はジュリアの結界で守られているので安全だが一歩外に出ると猛獣たちの住処だ。
俺は歩きなれた道を歩き1体の魔物と対峙する。 体長5メートルほどの熊型の魔物【ジャイアントベアー】だ。 赤毛を逆立てて大きな体を更に大きく見せるかのように威嚇してくる魔物に対し自分自身も変身魔法でジャイアントベアーに変身すると威嚇した。 突如突進してくるジャイアントベアーと相撲を取るような体制になる。 お互い力いっぱい敵を押すが、力は同程度なのかどちらも一歩も動かない。 一通り力比べをした後、俺は唐突に変身を解く。 突如力の行き場を得たジャイアントベアーの身体が前向けに倒れる。 俺は足元を駆け抜けると倒れたジャイアントベアーの背後に登り剣を抜くと後頭部に突き刺した。 一度だけビクンと動いただけで動かなくなったジャイアントベアーをもう一度変身でジャイアントベアーになると担ぎ上げて家まで運んだ。 このようにして狩った魔物は食料にしたり、素材をアイシャやジュリアに売りに行ってもらうのだ。 修行にもなるし、金にもなる。 一石二鳥である。
「お見事お見事。」
ジュリアが手をパチパチと鳴らしながら姿を現す。 いつも見えないところで戦闘を見ているのだ。
「そろそろこの山の魔物じゃ相手にならなくなってきたわね。」
「まぁこの山の魔物のほとんどには変身できるようになったしな。」
「そろそろあなたも村へ出るべきかしら? 人間にはなれるわけだしね。 でも魔物に変身しているところをみられると厄介だし……」
うーーんと難しい顔をして考えるジュリアをよそに、魔物をさばくと食べれる場所だけノルンに渡しに行く。 素材になりそうな部分は日干ししておく。
昼食をとると今度は師匠との訓練だ。 師匠との訓練では魔法は一切禁止されている。 ただし人間に変身することだけは認められていた。 なぜなら元の姿のままだと左腕がないからだ。 まずは格闘技の訓練からだ。 お互い向き合うと得物を持たずに組み合う。 30秒に1回程吹き飛ばされながらも1時間の組手を終える。 ボロボロの身体を引きずりながら今度は剣術の訓練だ。 俺の真剣に対し師匠は俺の作った木剣を使い対峙する。 斬り込みのことごとくを受け流され300回程後頭部を木剣で強打されるとその日の訓練は終了だ。
「なかなか動けるようにはなったがまだまだだな。」
「し、師匠がつよすぎんだよっ!」
息を切らしながら大の字に倒れこんだ俺が返事を返す。
師匠はニヤニヤと笑うだけで息を切らした様子もなく木剣で肩をトントンとしながら家へと向かった。
夕食に熊鍋を食べると日課の筋トレを始める。 風呂を沸かし終えたノルンが幸せそうな顔で見守ってくる。
「クレトすごい体になったねー」
「んっ? っふ そうかっ? っふ」
腹筋を鍛えながらそう返事をする。
「うん。 体中青痣だらけだよ? ほんとアイシャさん容赦ないんだから。」
ぷんぷんと怒るノルンに筋肉をほめてもらえなかった俺は少し落胆する。 結構鍛えあがってきたと思うのだが……
「じゃあ、先にお風呂入ってくるね?」
一通り会話を終えるとノルンが風呂場へ向かう。
俺が筋トレを終える頃には風呂から上がっていたので俺も風呂場へと向かった。
「ふぅーー」
軽く身体を流すと湯船に浸かる。 師匠につけられた青痣がじんじんと痛むが慣れたものだ。
湯船の気持ちよさに目を瞑って天井を仰いでいると
――ガチャッ
と扉の開く音が聞こえて目を向ける。
「ちょっ!! 師匠!! なにしてっ!!」
そこにいたのは生まれたままの姿をした師匠がいた。 俺は急いで目を背ける。
「なんだ入ってたのか。 ん? どうした?」
「いや、その、むむむ胸が……」
「なんだ照れてるのか? ガキのくせにませてやがんな。」
俺がいることを気にも留めないように湯船へと入ってくる。 浴槽の体積を超えた水が流れ落ちる。
嗅ぎなれた甘い汗のにおいが鼻腔を刺激した。
そして俺を膝の上に乗せると満足そうにする師匠だったが、頭の後ろの柔らかい感触に俺はそれどころではなかった。
「お前そういえば今いくつになった?」
「え……12だけど。」
「なに!? いつの間に成人したんだお前?」
「いや、俺の国では成人は15だったぞ?」
「ん? あぁメルテスコだとそうなのか。 ヴァレント帝国では12なんだよ。 ここは一応ヴァレント帝国の国土だからな。」
「そ、そうなのか? そ、それよりそろそろあがってくれないか……」
「なに言ってんだ。 今入ったばっかりだろ?」
「い、いやそうだけど……」
「ん? ふーん。」
と何かに気が付いたかのように俺の股間を頭の上からのぞき込む師匠の視線を遮ろうと試みるも無駄だった。
「み、みんなよっ!」
「そんなところだけはいっちょ前になりやがって。 仕方ねぇなー。」
そう言うと師匠の手があそこに触れる。
「ちょっ!! 何して……」
「私が男にしてやるよ。」
耳元で囁きニヤッと笑った師匠の顔を見て背筋を悪寒が駆け抜ける。
風呂から上がれたのはその2時間後だった……
「お、お前何回ヤるつもりだよ……」
「何でもしていいって言ったのは師匠だろ?」
「そりゃそうだが、限度ってもんが……」
風呂から上がるとダウンしていたのは意外にも師匠だった。
初めはやりかたを教えながら余裕そうにしていた師匠だったが4回目からは立場が逆転し、回数が2桁を超え後ろの穴を使い始めたときには気を失う寸前だった。
「こ、こんな化け物育てちまうとは……」
火照った身体を夜風で冷ましながら腰をさする師匠だったが言葉とは裏腹にどこか満足そうな顔をしており、肌はツヤツヤだった。
この日から風呂場に突撃してくるようになった師匠と親睦を深め始めるのだが、風呂場から変なにおいがするとノルンとジュリアが騒ぎだし、俺は知らないふりをするのに精一杯だった。