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16話 別れ

 

 トーマを見つけたのはフィーンと別れてすぐだった。 いや、本当にトーマなのかはわからない。 何となくそんな気がしただけだ。 俺は足元に転がっている死体を仰向けにする。

 鋭くとがった牙や額に生えた角。 その姿はオーガのようで身体は人間の大人ほどはある。 下半身と上半身が真っ二つに切り裂かれていた。



 トーマの面影もなければ、人間としての面影もないこの死体をトーマと認識してしまうのはなぜだろうか? 答えは一つだ。 身に着けている身体に見合わないサイズの衣服に見覚えがあったのだ。 もうあのクールな姿からは想像もできない友人の姿にこみ上げた吐き気を抑え歩き出す。


 もしかしたらまだ生きているかもしれない。 そう期待を抱かずにはいられなかった。 


 俺は全ての檻をじっくりと見る。 しかし、その中にノルンの姿はなかった。 見逃しているだけなのか?


「クソッ!!」


 俺は施設の部屋という部屋を片っ端から探した。 しかしどこを探してもノルンの姿はない。 



 もしかするともう……



 そんな嫌な想像が頭を支配する。


 最後に辿り着いた部屋はあの実験室だ。 俺は気持ちの悪い汗を拭い扉を開ける。


 ――――――いた。


 そこにはノルンがいたのだ。 ベッドの上に倒れるように横たわっている彼女が生きているのか確認する。 心臓の音が鳴りやまない。 頼む……



 脈は…………あった。


 一気に血が巡る感覚が身体を襲う。


「あぁ、よかった……」



 俺はノルンを抱きしめる。 彼女の胸に顔をうずめて泣いた。 全てを失わずにすんだことが唯一の救いだった。


 ノルンの身体は相変わらず傷だらけだったが、魔物化の影響はあまり見られなかった。 もともとが亜人のためだろうか?




「ここにいたのか……」



 部屋にポニーテールの女と金髪の女が入ってくる。


 ベッドに横たわるノルンの姿を見ると金髪の女が治癒魔法をかけた。


「命に別状はなさそうね。」


 ノルンは気を失ったままだったが、女の言葉に安堵する。


「おい、お前。」


 するとポニーテールの女が声をかけてきた。


「なんだ……」


「これからどうするつもりだ?」


「……………」


 これから……


 どうするのかなんて想像もつかない。 俺はもう人間ではないのだ。 村に戻ることもできない。 魔物として生きるか……? それもわるくないかもしれないな。 


「さぁな。 これからのことはこれから見つけるさ。」



「……お前私の家へ来るか?」


「え……?」


「ちょ、ちょっとアイシャ!! 本気なの!?」


「こいつが望むのならな。 魔王の力を持った子供なんて放っておくわけにはいかないだろう? まだ力の制御もできていないんだ。」


「それは……そうだけど……」


「なら力の制御ができるまで私が面倒見てやる。 もちろんその亜人も一緒だ。 どうだ? 悪くない話だと思うが。」


 今の俺は魔物にしか見えない姿をしている。 魔人と間違えられる可能性だってあるのだ。 この女に付いていくことだけが人間として生きられる最後の可能性なのだろう。

 まだ俺には希望がある……。


「……わかった。 よろしく頼む。」


「よし。 私はアイシャ・リー・フェルラインだ。」


「俺はクレト。 クレト・ルーデンスだ。」


「はぁ、仕方ないわね…… 私も付き合うわ。 ジュリア・ルフェアよ。」


 こうして俺たちは共に生活をすることとなり、死体の火葬を済ませると施設を抜け帰路へとつく。


 アイシャの家まではジュリアの転移魔法で1日とかからず到着した。 転移魔法はたしか最上級魔法だったと思うのだが、しれっと使うあたりジュリアは相当な魔法使いなのだろう。


 アイシャの家は山奥にあり、木の丸太を積み重ねたようなプレハブ小屋だ。 家を囲む庭の周りには気が生い茂っており人が住む気配はなかった。


 その後アイシャとジュリアは一度出かけたが半日もせず帰ってくる。 ノルンはまだ目を覚まさないがジュリアが言うにはすぐに目覚めるだろうとのことだ。


 アイシャの家には風呂というものがあり、俺は生まれて初めて入ったそれに感動を隠せなかった。 久しぶりにピカピカになった身体に、出かけたときにアイシャ達が買ってきた服を着る。 その後ノルンの身体をジュリアが魔法で綺麗にすると夕食の時間だ。 アイシャが作ったそれは大皿に乗った豚の丸焼きという何とも男らしい料理だったが、久しぶりに食べるご馳走にフォークが止まらなかった。


「そういえばお前はどのくらいの期間捕らえられていたんだ?」


 豚の足を手で鷲掴みにし口で引きちぎりながらアイシャが聞いてきた。


「いや、わからない。 そもそも捕まったのが何年だったのかも覚えていないんだ。」


「そうか。 どこの村に住んでいたんだ?」


「メルテスコ王国のケルポック村っていう場所だ。」


「ケルポック!? ケルポックっていえば3年前にドラゴンの襲撃で滅んだ村じゃない! あれもあの男の仕業だったの!?」


 ナイフとフォークで上品に食事していたジュリアが俺たちの会話に驚きの声をあげる。


「3年……」


 もう3年も経っていたのか。 ということは俺はもう11歳か……。


「もうあの村に住んでいた住人は王国に保護されて別の村へ移住したはずだがな。 お前は戻りたいのか?」


「まさか、こんな姿で戻れるわけもないしな。」


「……これからどうするつもりなんだ?」


「わからない。 ただ……強くなりたい。 あの男に復讐する。 そうしないとトーマやフィーンやフェレインに会わせる顔がない……」


「復讐なんてやめておけ。 あの男にはこれ以上関わるな。」


「……でも!!」


「ただし、強くなるのは手伝ってやるよ。 どっちにしろお前が力をコントロールできるようにはするつもりだったしな。 それからどうするかはその時に考えてみろ。」


「……分かった。」


「よし、そうと決まれば明日から修行を始めるぞ!! 今後私のことは師匠と呼べ!!」


 アイシャは立ち上がると自信満々の笑みでそう言った。 とにかく今は力をつける。 その方針に異論がなかった俺はアイシャの目を見て答える。


 ――よろしくお願いします師匠。


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