9部
上田は冷や汗を流しながら直立不動で立っていた。
「あはは、そんなに緊張しなくていいよ。」
上田の前に並んだ男のうち椅子に座り笑顔の男が言った。横に立っていたもう一人が
「武さん、無理もないですよ。
急に総監に呼び出されれば緊張するのが当たり前です。
山本基準で部下と接する方が間違ってますよ。」
上田は武田総監と上杉刑事部長が目の前で自分が緊張している話を本人の目の前でされることにも納得がいかなかったが、課の部屋で暇しているところに急に上杉刑事部長が来て、他にも何人かいたにもかかわらず上田だけが総監室に連れてこられていた。
「山本の部下なんだから山本と同じ方がいいと思ったんだがなぁ」
武田総監はマイペースだなと上田が思っていると上杉刑事部長が
「上田君、ここに来てもらったのは山本についてのことと、あとは君達に任せたい捜査があってね。残念ながら黒田課長も監視付きで隔離、頼りの竹中警部は謹慎中、伊達巡査部長・松前巡査部長・片倉警部補は連絡がつかない状態。
残った者の中で捜査の指揮を任せられそうなのは君だけだったのでね。」
「あ、はい、光栄です。」
上田は自分が評価されているのかそれとも他の残りがあてにならないだけなのか迷ったが一応答えた。武田総監が
「山本に関してだが、君はどう思っている?
私と上杉は、あいつが部下を撃って逃げるやつには思えないし、何より山本が不自然な行動をとりすぎていることに違和感しか感じない。」
「私も同じ考えです。
ただ、そうなると加藤巡査部長を銃撃したのは警察内部の人間である可能性が高いと自分は思っております。
警部の銃の扱いについては総務課より何度も注意を受けていましたし、警部と加藤巡査部長しかいないタイミングで銃撃が行われた点も、二人の行動を把握していたからできたことだと思います。」
「さすがだな。私達も全く同じ見解だったよ。
だが、立場上、どうしても山本だけをかばうわけにはいかないので、困っているんだよなぁ。」
武田総監は困っているという顔を作っているように上田には思えた。上杉刑事部長が
「山本についての見解が同じならそちらは問題なさそうだから、捜査の話に移る。
実はAI機能付きの信号の捜査利用ができるようになって、失踪者や行方不明者の発見が相次いで報告されている現在、かなりの数の失踪者・行方不明者のリストから名前が消え、その総数もここ最近までは減少傾向にあった。」
「つまり、ここ最近に減少傾向で無くなったということですか?」
「そうだ。
理由はわからないが行方不明者の数が増えてきている。
全体でみるとまだ減少傾向にはあるものの、ここ一か月で捜索願が出された件数が増えているのも現実だ。
山本に近い君なら、これは何かの事件が起き始めていると感じてくれているかもしれないがどうだ?」
「影山秀二という人物が関連した事件かもしれないということですか?」
「上田君は随分と山本に信頼されていたようだね。」
武田総監が言い、上杉刑事部長が
「話が早くて助かりますね。
最近の捜索願いが出された人達には共通点があった。
まず、前科者が多くいなくなっていること。そして他に自殺サイトなるものを利用していた者だ。
事件性は今のところ見つかっていないし、AI機能付きの信号で捜索を行っているが今のところ有力な手掛かりはゼロ。
事件として捜査もできないから君達にお願いしたいと思った。
詳しい資料はまた持って行かせるので部署で待機をしていてくれ。」
「了解しました。」
上田はそう言って、敬礼をして総監室を後にした。
「彼はどこまで知っているんですかね?」
上杉の問いに武田は肩をすぼめて
「勘の良さはさすが山本が認めた男と言った感じだね。
彼よりも伊達たちの動きの方が気になるよ。」
「公安の片倉がどう出るかもカギですね。」
「極秘任務で動き回られてはこちらも気苦労が多いからね。」
武田はそう言ってため息をついたが上杉にはこのため息すら演技にしか思えずにいた。