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8部

女性は何か言いたげな顔でこちらを見ていたので、大隈が

「さゆりさん、できればツッコむなり、笑うなりしてもらうとこちらも恥ずかしさがマシになるんですけど。」

「すみません、ひきこもってからは家の人ともあまり話さなかったので、そのへんが少しわからなかったです。」

 さゆりさんは勢い良く頭を下げた。だがボサボサの髪が大きく舞っただけで顔を見ることはできなかったので、大隈が

「ではもう少し、世界を変えましょうか?」

「どうやるんですか?」

「ヘアゴムとか持ってますか?前髪もだいぶ伸びているので視界が狭いと見れる世界も狭くなってしまいます。」

 さゆりさんはドアを開けたままヘアゴムを探し、後ろで髪の毛をくくった。顔を見た印象では別にブスと言われるような顔ではないと大隈は正直思った。

だが、それでもひきこもりになったのだから、自分でも許せないコンプレックスは何かあったのだろうとも思った。

「いいですね。どうですか、世界が広くなったでしょう?」

 さゆりさんは黙ってうなずいた。

「それではもう少し世界を変える方法を教えますね。」

「どうするんですか?」

 さゆりさんはどうやら自分のことを信用しだしていると感じた大隈は

「それでは、歩き方を教えますね。」

 さゆりさんは怪訝そうな顔をして

「歩き方くらい知ってますけど?」

「そうですよね。じゃあ、想像してみてください。

 さゆりさんは、渋谷を歩いてます。

 さゆりさんが思い描く渋谷はどんな感じですか?」

「えっ?オシャレな服を着た人たちが歩いてる感じです。」

「その中で、さゆりさんはなじんでますか?それとも場違いだと感じますか?」

「場違いすぎると思います。」

「どこがどう場違いですか?」

「服もオシャレじゃないし、髪はボサボサだし、皆楽しそうに歩いてるのに私だけが・・・」

「もう大丈夫ですよ。

 では、渋谷にいる人とさゆりさんは違う生物ですか?」

「何が言いたいんですか?」

「渋谷にいる人もさゆりさんも同じ人間ですよね。

 じゃあ、今さゆりさんが感じていた場違い感はどこから来ているのかを考えてください。

 服ですか?髪型ですか?楽しそうな歩き方ですか?」

「全部です。」

「でも、服は着替えればいいし、髪型は美容室に行ってきれいにしてもらえばいいじゃないですか。服も髪型もさゆりさんが変えようと思えば変わるものばかりです。

 そこで、さっき言った歩き方を教えようと思うんです。

それでは、廊下のあっちからこっちに向かって歩いてください。」

 さゆりさんは納得していない感じで言われた通りに歩いてきた。

大隈が思っていた通り、猫背のままで歩いているので下を向いて歩いているように見えたので、

「まず猫背を直しましょう。アメリカの学者の研究で猫背の人は身長が約2~3cm縮むそうです。つまり、猫背を直すだけで世界は3cm高いところから見えるようになるということです。

 さゆりさんが想像した渋谷に猫背の人はいましたか?」

「いませんでした。」

「実際はいると思いますけど、でも楽しそうに歩きたいなら猫背を直すべきです。

さゆりさんを知らない人が、さゆりさんがひきこもりだとか、場違いな人間だと感じるのは歩き方や何よりその場に自分がいてはいけないと感じていることによって発せられる負のオーラみたいなものが原因です。

 みんなに溶け込みましょう。同じように歩いて、同じように笑って、自分なりにその場を楽しめばいいんです。」

「でも、猫背はどうやったら直るんですか?」

「僕も昔は猫背でした。

 まずは、背中に手を当てて溝になってるところを探してください。

 縦に入ってるその溝は肩甲骨と呼ばれる骨によってできるものです。

溝の幅を狭くするイメージで骨を寄せてください。そしてこの時に注意して欲しいのが肩に力が入ってしまってるだけの状態になりがちなんです。

 それだと、動きが硬くなって不自然なので、できるだけ肩はリラックスして、肩甲骨にだけ集中してください。慣れないと背中の筋肉が辛いですけど、これも続けていくうちになれますから頑張りましょう。」

「でも、猫背が直っても渋谷には行けないと思います。」

 大隈は満面の笑みで

「別に渋谷に行かせたいわけではないので大丈夫ですよ。

 最初は少し遠いですけど京都とか大阪とかに出かけてみましょう。

さゆりさんを誰も知らない街から初めて、周囲に溶け込めるようになれば近場の町に出かけましょう。

 外に出るのが嫌じゃなくなったら、オシャレな街でもどこにでも行けるようになりますよ。」

「でも、働いたりとかもしないといけないじゃないですか?」

「いいですね、もうひきこもりから抜けた後の心配ができてます。

 外に出て行くというイメージができた証拠です。

 就職先などの支援も行っていますから、そこはまた後々相談しましょう。」

「わかりました。」

 さゆりさんは初めて笑ってくれたので大隈はとても充実感に満たされた。

「さあ、歩く練習をしましょう。

 今度来るときは女性のスタッフを連れてきますね。

 お化粧をしたり、僕にはわからないかわいい服を選んだり、僕が教えられないモデルウォークとかいうやつもありますからね。」

「はい、挑戦したいです。」

「良いですね、どんどん色んなことに挑戦して新しい自分になりましょう。」

 大隈は満面の笑みでそう言った。


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