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57部

「ただいま戻りました。」

 山本は捜査が一段落したので、自分の部屋に戻った。既に帰宅していた黒田が出迎えて笑顔で

「自分のお部屋なんですから、『ただいま』だけで良いんじゃないですか?

 課の部屋に戻ってきたみたいになってますよ。」

「あまり、ただいまと言う習慣がないんですよ。

 だからと言って何も言わずに入ってくるのもどうかと思いまして。」

「子供の頃はどうだったんですか?」

 黒田は聞いてから後悔した。山本は小さい頃に事件で家族を失っている。それなのに子供の頃の話をしてはいけなかったことに気づいて気まずい顔をすると山本は笑って

「気にしないでください。

 事件が起きるまでは母が毎日家にいたので言ってたと思いますが、その後は色んな家に預かってもらったりして、高校生くらいから独り暮らしだったので言わなくなっていった感じですね。」

「そうだったんですか。

 ま、まぁ、とりあえず今は私がいるのでただいまと言ってもらえれば大丈夫ですよ。」

「風呂に先に入らしてもらって良いですか?

 少し慌ただしくしてて汗をかいたので。」

「どうぞ、私は先に済まさせて貰いましたのでゆっくりと入ってください。ご飯作っときますね。」

「ありがとうございます。」

 山本が言って自分の個室に向かおうとすると、黒田が慌ててひき止めて

「そうだ、忘れてました。

 先ほど土屋さんが用があるから帰ってきたら連絡してくれと仰ってました。」

「何で土屋さんの連絡を黒田さんが受けられるんですか?」

 山本が不思議に思って聞くと、黒田はきょとんとした顔で、部屋の隅の方を指差した。その先には固定電話が設置されている。

 山本はその存在にはじめて気がついて

「設置されたんですか?」

「いえ、私が住ませて貰ったときには既にありましたよ。

 ご自分でつけられたんじゃないんですか?」

「いえ、基本は携帯で済ませるので固定電話をつけた覚えはないですね。」

「そうなんですか?

 でも、あの電話に土屋さんから連絡が来ました。」

「わかりました。連絡してみます。」

 山本はそう言って個室に入り携帯を操作して土屋に繋いだ。


 薄暗い部屋の中で携帯が鳴った。

 画面に表示された名前を見て、口角が上がる。

「もしもし、勘ちゃんか?

 悪いね、忙しいのに。」

『珍しいですね、連絡してくるなんて。

 というか、あの固定電話つけたの土屋さんですか?』

「ああ、気づいてなかったのか。

 勘ちゃんはあまり連絡がつかないからね。

 部屋に留守電でも残せるようにしとこうと思って、入居する前からつけといたんだよ。」

『それで、用事ってなんですか?

 この部屋の正当な借り主が見つかったから引っ越せとかですか?

 あるいは黒田さんに良い物件を見つけたとかですか?』

「アハハ、どっちでもないよ。

 しばらくの間、旅行に行こうと思っていてね。

 マンションとかの管理は会社に任せてるし関係ないんだけど、しばら会えないのでね。

 勘ちゃんから用事があったときに会えないし連絡もとれないなんてこともあるかと思っててね。

 それだけ言っておこうと思ったんだ。」

『その程度のことなら黒田さんに言っておいても良かったんじゃないですか?』

「まぁ、そう言わずに。

一人寂しい老人の唯一の楽しみが勘ちゃんなんだから。」

『それでどこに旅行にいくんですか?』

「世界一周と言いたいところだけどまだ決めてないし、行き当たりばったりで旅をするのが人生かなと最近思うようになってね。

 終着点を決めずに一歩を踏み出す人生というものに挑戦してみることにしたんだよ。」

『なるほど、戻ってきたときには色々と教えてくださいね。

 行き先のわからない旅をした感想とか』

 山本が冗談で言うと土屋も笑いながら、

「心の底から驚くような、驚いて立ちくらみがするぐらいのサプライズを用意しておくよ。

 楽しみにしておいてくれ。」

『アハハ、何ですか、それ?

 まぁ、元気に帰ってくればそれだけで驚いてあげますよ。

 楽しんできてください。』

「ありがとう。」 

 電話を切ってから一人で

「ああ、楽しみにしておいてくれ。

 勘ちゃんにとって最高のサプライズになることを願ってるよ。」

 周りを見回して、黒い幕が張られてるのを見て、

「そろそろ暑苦しい時期ですね。

 外しても問題もなくなりそうですよ。」

 そう言って一人笑った。


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