54部
「影山光輝が死んだようです。」
男が報告すると黒い幕の向こうに座った男は驚くでもなく楽しむでもなく、
「こちらの手の者によってですか?」
「いえ、自らの配下にやらせたようです。
処理の方はどうしますか?
テレビなどで発言する様子も映し出されていますし、マスコミは彼の存在を大々的に取り上げていますが。」
「もう隠す必要もないでしょう。
事件の処理は今まで通り武田に任せましょう。
我らが関与していない事件なら彼でも手伝ってくれるでしょう。」
「そ、それはつまり、武田総監が裏切るかもしれないということですか?」
男が驚いて聞くと、笑い声がして
「彼が本当に私に忠誠を誓っていると思っていたなら大きな間違いですよ。」
「御前様が勘違いをされておられるということはないでしょうか?」
御前と呼ばれた男は一段と大きく笑い、
「それならそれで良し。
そうでなくてもそれで良し。
周りにいる者がすべてイエスマンでは面白くないですからね。」
「身内から裏切り者が出ることは良くないことだとおわかり頂けますか。
特に近しいものほど御前様に繋がる情報を多くもっているのですから。」
「アハハ、わかっていますよ。」
御前は笑った後で冷たい声にかわり、
「息子に背かれた時からそんなことはわかっています。」
男は自分の失言に気づき身体中から冷や汗を流して次の御前の言葉を待った。
「そんなに固くならなくて大丈夫ですよ。
それよりも影山君が死んでしまったのはとても残念ですね。
長田君の唯一の跡取りだったのに。
彼には申し訳ないことをしましたね。
……………………それにしても何もせずに簡単に自殺したとは何か裏がありそう………」
御前が言い終わる前に部屋に男が入ってきて、
「失礼します、影山が事前に撮影しておいた映像がネットで拡散されています。」
「面白そうですね、ここでも再生してください。
彼が最後に何を残したのか、彼が歴史に名を刻む事ができるか見させてもらいましょう。」
「は、はい。」
『こんにちは、影山光輝です。
この動画が公開されたということは、僕は僕の運命を全うできたというですね。よかったよかった。』
影山はそう言って満面の笑みで拍手をしている。
『上手くいかなかった場合に備えて、別バージョンも撮影しましたが、まぁ結果オーライですね。
僕の動画を見て戦々恐々としている皆さん、安心してください。
僕の邪魔をできなかった、あるいはしなかった皆さんにこれ以上関わるつもりはありません。
それでは本題です。
私は世界に、社会に絶望していました。
知る者は自らの欲望のために知識を使い、知らぬ者は搾取され続けるしかないこの世界の仕組みに。
そして、自分本意に国を動かし自らの利益を最優先に考える政治家にも呆れて物が言えない。
間接民主制は、代表者による迅速な意思決定ができるが国民すべての意見を取り入れての議論はできない。
会社や団体などの大きな組織の声ばかりが政策に反映され、本当に困っている人達の声は社会問題にならなければ後回しにされてしまう。
自分で考え自分で舵をきりませんか?
アメリカの銃の規制が進まないのは政党の指示基盤に銃の協会があるからだと言われています。
それなら、既存の政党ではなく新しいクズのような繋がりを持たない新しい政党を作って、その政党を支持すれば良い。
幼い子供が親の銃を誤って触ったりして亡くなるニュースが無くならないのはなぜか?
頭のいかれた奴が学校や教会で銃を乱射できたのはなぜか?
答えがわかっているのに変えることができないのはなぜか?
国民の、本当に苦しみ、悲しんでいる人の声が政治家に届いていないからではないですか?
日本の生活保護の制度にも同じことが言える。
本当に苦しんでいる人がいるのに不正に受給している人間がいるせいで自分と子供の未来を憂いて心中する家族がまだいる。
憲法の定める生存権とはなんのためにあるのか?
健康で文化的な最低限度の生活の保証をするために作られた権利を守るために国は役にもたたない制度を作っただけでやりきった感を出しているのではないですか?
誰かがこう言ったからそれはいけないことだと決めつけてないですか?
大事なのは自分で考え、自分で答えを出すことです。
そして、答えを見つけたなら誰かに頼らず自分で実行しましょう。
僕はそれをやって来た。変わったことは少なかったが、自分で行動したから間接的にではあったが変えられた。
世界は、社会は変わるべきです。
これからの人生を自分が後悔したくないモノにしたいなら、考えろ、動け、叫べ、そして仲間と共に歩めば良い。
さようなら、この腐った世界。』
影山はそう言って頭を下げて、動画は終わった。
「どうでしたでしょうか?」
後から入ってきた男が聞いた。御前は笑いながら
「偽善の一言ですね。
彼もしょせんはヒーローになりたかったのでしょう。
ヒーローではその時その時は人を救えるが、根本的な解決にはなりません。脚光を浴びず、ただ隠れてすべてを動かし変えてやるくらいの気概がなければ、結局は英雄気取りの偽善者にしかなれないのですよ。
そういう意味では私も対して変わらない、同じ穴のムジナなのでしょう。」
御前の笑い声だけがその場に響いた。




