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53部

都内某所

 影山が大きく万歳をする少し前。

カーテンが締め切られた部屋を照らすのは机の上のロウソクだけで、机の上にはウィスキーのボトルと氷の入ったグラスが2つ置かれている。

 大久保はボトルを手に取って、2つのグラスにウィスキーを注いでいく。時計を確認してから、

「そろそろ時間だな。

 あなたの上げる最後の花火が一人でも多くの人を救い、そして少しでも多くの人の意識を変えることができることを祈ってますよ。

 さようなら、光輝。」

 大久保はそう言うと自分の前のグラスを手に取り、誰が飲むでもないグラスに自分のグラスを軽く当てて、

「乾杯」

 大久保はグラスの中のウィスキーを一口飲むと

「やっぱり下戸の僕には何が良いのかわからないな。」

 そう言って口をぬぐった大久保の頬には涙の筋が伝っていた。


 都内公園

 花火=爆弾のイメージで周囲を警戒していた山本達はすぐにその違和感に気がついた。

 影山が大きく万歳をしていたのに顔は自分達の方に向いたままだった。勢いよく両手を上にあげれば、少なからず顔は上を向くはずだが、影山は笑顔で正面を見ている。

 その場にいた山本、上田、伊達は三人で確認しあうこともなく影山に向かって走り出した。

 影山の口角が更に上がったように見えた瞬間、影山の眉間に赤色の点がつき、影山は笑顔のまま後ろに向かって倒れた。

 山本が影山に駆け寄り、上田と伊達は拳銃を構えた。

 ビルに囲まれた公園では狙撃手の正確な位置まではわからなかったが、影山が正面から撃たれたように見えたので自分達の背後を警戒したが既にどこにも人影はない。

 山本が駆け寄ると影山は笑顔のまま死んでいた。

 先程の会話が脳裏に浮かぶ。山本が『笑って死ねたら幸せ』と言ったのに対して影山も同意した。

 影山を殺したのが、ずっと影山を狙っていた奴等なのか、それともさっきの自分の死に方は自分で選ぶという話からすると自分の部下に狙撃するように言っていたのかもしれない。

 どちらが正しいのかはわからないが、被疑者に目の前で殺されたことに変わりはない。

 不甲斐なさから山本は握りしめた拳を地面に叩きつけた。

「警部!」

 上田が駆け寄ってきたので、

「竹中さん達に周囲を包囲して狙撃手が逃げられないようにしてもらえ。」

 短く指示を出すが、伊達が

「既に配備済みです。

 ただ、ビルにいる人間すべてを調べようにも軽く1000人以上いますから、特定できるかは疑わしいですね。」

「そうか………………」

 山本が言うと伊達が影山を覗きこみ、

「計画的に死ぬつもりだったんですかね。

 そうじゃないと笑顔で狙撃されるなんてできないでしょう。

 狙撃されたらどんなに笑顔だった人でも苦痛の表情になるものですからね。」

「とにかく、周囲の捜索をしてくれ。

 自分が死ぬシナリオだったとしたら、何かを残してるかもしれない。」

「了解しました。」

 伊達が離れていく。

上田が

「影山が最後に言っていた警部の決断って何なんですかね?」

「武さんが同じようなことを言ってた。

 何で俺が下す決断が日本の未来を左右するんだよ。」

 上田は何も言い返せずに,影山を見ている山本の背中を黙って見ていた。

 

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