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52部

 上田は緊張のあまり唾を飲んだ。

 わざわざ警察を呼び出してまでしようとする話の本題がどんなものなのか、今までの事件を考えれば更に何かを仕組んでいるのではないかと考えると緊張感が増した。

 影山は笑顔で

「まぁ、本題というほどのことはないんですけどね。

 僕は単純に世界を変えたかったんですよ。

 むか~しから続く世界のあり方に絶望してます。

 独裁的な政治を行ってきた王政から民主制へと移行する過程で直接民主制は意見の集約の難しさから間接民主制となり、そして何も知らされない中での人を選ぶ選挙制度に移行して、人は政治について考えることはなくなった。

 テレビや新聞やパソコンの前でこんな政治やってちゃダメだと呟きはするがその改善のために行動をすることはない。

 坂本が言ってましたよね、『いつの間にか』が一番怖いって。

 誰が決めたのかわからない行政の方針に従って、自分達の払った税金が無駄遣いされていても、それに気づくのは財政が苦しくなったとわかってからで、それまでは何も知らない。

 無関心でいたことが表面化してから声を荒げても時すでに遅しなんですよ。

 それが今に始まった事ではなく、ずっと続いてきていたことなのであれば、どこかで誰かがその流れを切らないといけない。

 僕はそんな人間になりたかったんです。

 表だって声をあげても伝わらないのなら、恐怖心を煽って色んな所から声をあげさせようと思いました。

 ほんの些細な変化ではありますが少しずつ僕は世界を変えているんですよ。」

「だから、見逃してくださいとでも言うつもりか?」

 山本が言うと影山は肩をすくめて、

「そんなつもりはありませんよ。

 僕が言いたいのは世の中を測る物差しは、昔から伝わっている長さを基準に作られた物であって、古い基準に従って日々新しくなる世界を測り続けることはできないってことですよ。

 60代・70代の政治家ばかりが要職に就いてるようじゃダメですよ。若者の意見とか変わった時代に順応できる人なら良いけど、昔ながらの考え方しかできない人が発言してたら失言だとか暴言だって出てくるんですよ。」

「それも個人差がある話だろ。」

「個人差なんてあったらダメだと思いませんか?

 優秀な人間だからこその国民の代表者じゃなければいけない。

 失言だとか不倫だとかそんなことで注目を浴びる国会議員が多いから国民の政治に対する興味や関心はなくなり、政治とは無関係に生きてしまう国民が増えてしまう。国民が政治に関心を持たなくなれば何をしても大丈夫だと言わんばかりに政治家が好き勝手にやってしまう。

 こうやって、悪循環が続いてきた結果が今なんですよ。

 変わらなければいけないと思いませんか?」

「本当に世界を変える必要なんてあるのか?」

 山本が問いかけた。影山は質問に質問で返される形が気に入らなかったのか顔をしかめて、

「下らない世界の悪循環を取り払わない限り、人々が幸せになれる未来は来ませんよ。」

「俺が聞きたいのは、お前の見えている世界が変わればそれでいいんじゃないかってことだよ。

 マンガやアニメのヒーローだって自分の知らない所で起こってる悪事には対処できないだろ。

 お前は自分の手の届かない所にまで目が届いて、全部を自分で何とかしないといけないと思い込み過ぎなんじゃないか?

 そうやって自分で作った縛りが強すぎるから生きてくのが辛くなるんじゃないのか?」

 山本が言うと影山はニコリと笑って、

「見えないモノとか見たくないモノから目を背けて来た結果が今の腐った社会ですよ。

 例えばオリンピックもそうでしょう。

 元は選手の栄光のための大会だったのに今では国の威信のために使われる大会になっている。

 大会中のニュース番組でも、誰が金メダルを獲ったじゃなくてどこの国がっていう方に注目しているのが多いじゃないですか。

 選手は国のために頑張りますって言わされてる現状も色んな国ではあるんじゃないですか?

 勝つためにドーピングさせられてる選手もいた訳ですよね。

それって、つまりはその選手の実力じゃあ勝てないって言われてるようなものですよ。

 選手に対しての侮辱ですよね。

 他にも大会の開催地ですよね、あれって誰が望んで誘致するんですかね。無駄な金ばかり使って直接的に日本の経済を成長させることなんてないのに何のために誘致してるんですか?

 JOCの人達が仕事の成果として呼びたいんですかね?

 知らないうちに決まったことは誰のために決まったのかを明確にしないといけない。

 一部の政治家や権力者の功績のために税金を使って、一時期しか使わない施設に何十億、何百億、何千億円って税金が使われてるのは無駄じゃないですか?

 そこから利益がでて、国民に還ってこれば良いですがリオのように負債ばかりが溜まって破産したら、その責任をとるために使われるのも国民の税金な訳ですよね。

 脚光を浴びる一部の人間のために多くの国民を犠牲にしてまで日本でオリンピックを行う意味なんてないんじゃないですか?

 知らないことから逃げてしまったら残るのは負債ばかりで得はない。だから、見落としていることがないかも含めて情報を集め対処しなければいけない。

 違いますか、山本さん?」

「問題ばかりなのは人が幸せになりたいって願うからだろ。

 恣意的に国の行事を利用するやつがいるのもわかってるけど、そいつらも幸せになりたいって奴等の中から声が大きい奴ってだけなんじゃないのか。

 一億人以上の日本国民が自分の幸せのために行動すれば摩擦も衝突も起きてあたりまえだ。

 それが七十億人にもなればどうしようもない問題も起きてくる。

 その問題を話し合って折り合いをつけていくための民主制だ。

 上手く機能してない部分もあるがそれでも変えていこうと頑張ってる奴がいるなら急激な変化じゃなくて少しずつ欠けてる部分を埋めていけば良い。

 お前が一人で変えようとしてることを時間をかけてでも、多くの人間の問題として認識させていくべきだったんじゃないか。」

「問題の先送りじゃないですか。

 未来に課題を残して目をつむるのは簡単です。でも、それじゃあ解決しない。」

「本当にそうか?

 結核や白血病だって昔は治らない病気だったけど、今では完治してる人だってたくさんいる。

 対処法は時の経過や医学、科学の進歩で見つかるものだ。

 重要なのは問題提起をして、その問題があったことを正確に後世に伝えることだ。」

「未来がよくなればそれで良いんですか?

今を生きている人達は未来の人達のための実験体にでもなれってことですか?

 大事なのは今の自分達でしょう?」

「そうやって考えてた奴等の結果が地球温暖化を招いたんじゃないのか?」

「屁理屈ですね。」

 影山は吐き捨てるように言った。山本は少し笑ってから

「そうだよ。

 俺の言うこともお前の言うことも屁理屈なんだよ。

 未来をどれだけ描いても人は死ぬから描いた未来にたどり着けない。今の改善を主張しても過去と現在だけでは対処できない事が多すぎる。

 どれだけ先のことを考えることができても、皆が問題として認識できなければ変わらない。

 お前は同じところをぐるぐる回ってるだけの迷子と一緒だ。」

 山本が言い終わると影山は息を短く吸い、

「確かに……………………僕の言葉は屁理屈なのかもしれません。

 でも、その言葉が重要な言葉として捉えられていれば悲劇を起こさずに済んだんじゃないですか?

石田先生だって、山本さんに僕の事を伝えようとしていたんじゃないですか?」

「お前が石田のパソコンから消した論文のデータなら見つけたぞ。」

「甘い挑発ですね。

 僕が消したデータとは何の事かわかりませんよ。」

「この人形を見てもまだ信じられないのか?」

 山本はそう言って石田の論文の入ったUSBを隠していた人形をポケットから出した。影山はそれを見て笑い、

「まさかそんな小さな物を僕が僕であることを証明するために使われるとは思いませんでしたよ。

 協力者の一人は僕が必死に探していたので、よほどヤバイものだと思い込んでいたようですけどね。」

「加藤を使って事件を起こして俺が逃げ回るように仕組んだのも、この人形を探すためだな?」

「まさか、肌身離さず持っているとは思いませんでしたけど。

 石田先生もすごい人でしたよ。まさか、アニメの話から僕が秀二ではなく光輝だと気づいてしまったんですから。

 彼ほどの頭脳があれば、高杉元防衛相主導のプログラムにも参加できたと思いますけどね。

「三橋のゼミを使ったあれか?」

「ええ、次世代の優秀なリーダーとなるべく育てられた人達だったはずが、結果として三橋の立場を崩し、隠された計画を明るみに出すことになりました。

 自業自得というやつなんでしょうね。」

「その引き金を引いたのもお前だろ?

 お前はどの段階で三橋のゼミの事を知ったんだ?」

「初めからですよ。

 知ってましたか、この国には決して表には立たずに政界や財界、警察にまで影響力を持つグループがあるんですよ。

 高杉もそこのしたっぱでした。」

「政府の転覆を狙ってるってグループか?

 お前もそこの一員って訳か。」

「いいえ、僕は一員ではありませんよ。

 そうですね~、例えるならタンポポの綿毛のようなものですよ。

 元のタンポポから飛び出して新しい場所に花を咲かせるような存在です。

 元の場所の近くにも行けるし、遠くに旅立つこともできる。

 僕は情報を知ることもできるし、逆にまったく関わらないようにすることもできる。」

「その立ち位置が原因で命を狙われることになったんだろ?」

「僕は僕の死に様を決定する権利を持っている。

 だから、誰かのシナリオで死ぬのなんて嫌ですよ。」

「死ぬ権利はほとんどの国で認められてない。

 つまり、お前は生きて償うべきだし、迷惑をかけた友人達に謝るべきなんじゃないのか?」

「人生の良し悪しはどうやって決めると思いますか?

 お金を持っていて衣食住に困らなければ幸せですか?

 友人に囲まれて愛する人と添い遂げれば幸せですか?」

「自分の人生なんか、死ぬときにどう思うかだろ。

 最後の瞬間に幸せな気持ちだったら良い人生、後悔だらけなら悪い人生ってだけだ。

 笑って死ねたらそれが最高の人生なんじゃないかと俺は思う。」

 山本が言うと、影山は満面の笑みを浮かべて

「山本さん、あなたは最高ですよ。

 僕の欲しかった答えをそのまま返しくれた。」

「何が言いたいんだ?」

「ただ、お礼を言っただけですよ。

 お礼のついでに良いことを教えてあげますよ。

 山本さんはもうすぐ大きな決断をしないといけなくなる。

 それは、日本の未来を左右する大きな決断です。

 僕は線香花火よりも打ち上げ花火が好きなんですよ。

 山本さんの新たな世界への第一歩を祝う花火を上げてあげますよ。」

 影山はそう言って大きく万歳をした。

 その場にいた全員が花火=爆弾だと考え周囲を警戒した。

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