51部
高層ビルが立ち並ぶ中にポツンと取り残されたように公園があった。山本、上田、伊達の三人が公園に入り、竹中や三浦などの特別犯罪捜査課で公園の周りを調べ、怪しい人物がいないかや影山の逃走ルートの確認などを行っていた。
公園の半ばまで来ると影山はベンチに座り、空を見上げていた。
山本達に気づくと影山は笑顔を向けてから、また空を見上げて
「狭い空ですよね。
世界中の誰もが見上げても空は続いているのに、一個人に見える空は全体の極一部でしかないんです。
人の限界なんてどれだけ科学技術が発展しても本質は変わらないのかもしれませんね。」
「カメラが回ってるから良いことを言おうと必死なのか?」
山本が聞くと、影山は苦笑しながら、
「カメラなんてありませんよ。
少なくとも声が聞き取れる場所にはないと思いますよ。」
「ネットで中継するんじゃなかったのか?」
「真実はないって言いましたよ。更に言うならこれは虚構だとも言いましたよ。」
「何のためにそんな嘘を?」
「山本さんは花火を見るとき屋台とかが並ぶ所で見ますか?それとも河辺とか人の少ない所で見ますか?」
「騒がしいこと自体が好きじゃないからな。
花火自体を見に行かねぇよ。ギャラリーが多いのが気に入らなかったってことだな。」
「まぁ、そんなところです。
僕が送ったデータとかは確認してもらえましたか?」
「じっくりと検証してられるような暇はなかったからな。
なんで、急に自白する気になった?」
山本が聞くと、影山は笑顔で
「世界を変えるためですよ。
大隈さんはChange our Lifeって言って、ひきこもりの人達に自分の狭い世界を変えようって言ってましたね。寝転んでる人に座らせてみたり、立ち上がらせたりして視界の変化だけでも世界が変わるって言いながら自立することを優先的に考えてました。
ひきこもりの原因のほとんどはいじめ等の外部的な要因です。
自分が変わっても自分を取り巻く世界が変わらなければ解決しないと僕は思ってます。
他の人達の期待とかがプレッシャーになり、自分が自分である意味がわからなくなった。
そんなときに秀二が自殺してるのを見つけました。
誰も僕の話についてこれず、僕を天才と担ぎ上げて来る友人や過激論者として目の上のたんこぶ扱いしてくる教授達から解放されるにはどうしたら良いのか、そんなことを考えていたときに秀二が答えをくれたんですよ。」
「自分が自殺したことにして、ひきこもりの秀二と入れ替わった。
そんなことが上手くいくと本気で思ったのか?」
「注目されればされるほど、自分の行動が他人に影響するのだとわかってました。だから、あえて危ない感じを演出して自殺してもおかしくないという状況を作りました。
葬式の日に号泣してくれる五條のような存在も大きかったですね。
秀二もネットで誰かと繋がったりもしていなかったので入れ替わるのには最適でした。」
「弟の死を嘆いたりはなかったのか?」
「悲しかったですよ。
秀二は僕と比べられることを嫌がってましたけど、家族の中で話をしてくれたのは僕だけでした。
兄弟の仲は良かったんですよ。
親が邪魔だっただけでね。」
「入れ替わって何がしたかったんだ?
他の人を入れ替えて何をさせていた?」
「僕が入れ替わってしたかったことは、人生のやり直しですよ。
親の期待に応えようと頑張ってきたことは間違いではないと思いますが、親の期待自体が歪んだ方向に向いていたと気づいた時には引き返すこともできなかった。
だから、親の期待を受けてない秀二が羨ましかった。
こんなことを言うと無い物ねだりだと思われるかもしれませんが、僕にとっては期待されないことが望みだったんですよ。
あと、もうひとつの質問ですけど、やらせたかったことなんて何もないんですよ。
彼らが何をしたいのかを確認して、それをできるように道を整えてあげていただけです。
働きたい人に仕事を紹介して、復讐を望む人にナイフや銃を渡しました。これで誰かを傷つけろと命令したこともありませんよ。
彼らの望んだ先に今回の事件が起こった、それだけのことです。」
「誤った方向に進もうとしている人に間違いを指摘したりはしないのか?」
「山本さん、正しさってなんですか?
誰にとって誤りで、誰にとっての正しさなんですか?
石を水面に投げ込んでどんな波紋が広がるかわからないように、人の行動がどんな結果をもたらすかはわかりませんよね。
進もうとしてる方向が間違いなのかはわかりませんよ。」
「犯罪によって世界を変えても、その後の世界が胸を張れるようなものになると俺は思えないな。」
「目を背けたくなる現実は衝撃的なきっかけがなければ逃げ続けてしまうものですよ。
荒療治というのが適切ですね。」
「それで?
ここに俺らを呼んだ理由はなんだ?
まさか雑談をするためなんてことはないだろ?」
「そうですね………本題にはいりましょうか。」
影山はそう言って立ち上がった。




