表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/57

50部

「警部!」

 上田が走り込んできた。その手にはビニール袋に入ったボールペンが見えた。

「それはなんだ?」

 山本がめんどくさそうに言ったのに少し上田が顔をしかめて、

「影山の指紋が付いていた物ですよ。

 触っていたはずの物のほとんどから指紋は拭き取られていましたし、ATMとかの指紋認証も使われていなかったんで指紋のついている物を探すだけでかなり大変だったんですよ。」

「お、おう、そうか。

 それで?鑑定の結果は?」

「一致しましたよ。影山秀二が使っていたはずのボールペンから採った指紋と警部の持っていた人形の警部や石田さん以外の指紋と。」

「これで、影山光輝が生きていた証拠は揃ったということだな。」

 山本が言うと、上田も嬉しそうに「はい!」と言った。

 そこに大谷が慌てて駆け込んできて、

「大変です、警部!」

上田が

「影山の指紋が一致した件なら報告したぞ?」

「ええっ?一致したんですか?

 じゃなくて、テレビ局に影山らしき男から色んな事件の自身が関与している証拠が送りつけられてきて、これからネットで重大な発表をするから生放送でそれをテレビで放送しろと言ってきたみたいです。

 各局がスクープだと思って飛び付くのは目に見えてます。

 とりあえず、テレビをつけてください。」

 山本は近くにあったリモコンでテレビをつけた。チャンネルはちょうど佐々木アナがMCを勤めるニュース番組だった。

 ディレクターらしき男が放送中にも関わらず画面に出てきて佐々木アナに何かを渡した。佐々木アナが

『速報です。

 昨今、世間を騒がせていた事件を影から操っていたと名乗る人物がこの後すぐからネットで重大な発表をするということで、番組は予定を変更して、その発表の様子をお送りします。』

 映像が切り替わり、真っ暗な画面に3の文字が浮かびカウントダウンが始まった。そして画面は切り替わり、笑顔の影山が映し出された。

『こんにちは、日本国民の皆さん、そして全世界の皆さん。

 私は影山光輝と申します。

 私は腐りきった社会を変えていくためにいくつかの犯罪行為を計画し、腐った社会の被害者となった人達を唆し、時には騙して犯罪を実行して貰いました。

 私の大学時代の友人である五條が起こした銀行強盗、警察官による権力者達に対する襲撃事件、前科者を狙った轢き逃げ事件、マスメディアを利用した事件、日本における外国人犯罪と外国軍駐留基地に対する攻撃事件、そして全世界の要人に対する殺害・襲撃事件の6つの事件はすべて私が計画したものです。

 その裏付けとなる証拠はテレビ各局にそれぞれ送らせていただきました。この放送を実際に生放送してくれているテレビ局はその証拠の確実性を理解してくれたところと言うことになります。

後追いの形でワイドショーにでもして一個一個検証して貰えば良いと思います。

 それでは各事件についてなぜ必要だったのかという所を手短に説明していこうと思います。

 1つ目の事件は日本の秩序を定める刑法がいかに穴だらけであるのかを見せるためです。

 法律は改正されましたが、私の示した例題にのみ対処しただけに留まり穴を塞ぎきれたわけではありません。

 2つ目の事件は日本の秩序を守る警察官の腐敗と権力者のみが幸せになれる社会構造を白日の元に晒すことです。

 狙われる恐怖は人の行動を変えるでしょう。虐げられた者達の怒りを感じさせるには十分な成果をもたらしたと思います。

 3つ目の事件は犯罪は加害者と被害者がいるにも関わらず、加害者に罰を与えて終わり、被害者を蔑ろにするこの国の司法制度の欠陥を知らしめるためです。

 人権思想によって守られる加害者はきつい刑罰を受けることもなく、ただ、移動の自由がない場所に拘束されて時を過ごすだけで社会に戻ってくる。反省して更正するかはその人の性格次第で偽りの更正を表して刑期より早く出てくる者もいる。

 被害者はやられっぱなしで国からケアを受けることなんてほとんどない。

 おかしいと思いませんか?

 悪いことをした人は国からケアされ、被害にあった人達は泣き寝入りするしかない。

 4つ目の事件は、権利という名の暴力が放置された社会に警鐘を鳴らすことにありました。

 権利の意味を履き違えて、誰かを傷つけても憲法で定められた権利を行使しただけだと言えば、すべてが許されると勘違いしている。

 権利は国に対して行使するものだし、個人からの侵害から自身を守るために使うものなのに他者を攻撃するために使ってしまっている。一番わかりやすくするのにマスメディアの放送の自由、知る権利を例として扱わせて貰いました。

 5つ目の事件は、国際化という言葉で日本が食い荒らされている現状を放置している政府への警告です。

 外国人が増え、日本の経済を発展させることにばかり注目して、伝統や地域住民の考えを無視し続けた政府がいかに利己的で政治が政治家達の利益のために行使されてきたかを国民に伝えるためのものでした。

 そして今回の事件は日本の未来を背負うはずの若者が悩み、苦しみ、自分の未来を憂い、絶望している現状があるにも関わらず、政治家は目前の利益のために政治を行い、そして若者の未来を奪っているのかを伝えることにありました。

 株式会社『蝶々』の大隈氏は人生を変えろというスローガンのもとひきこもりの少年、少女の心に寄り添いひきこもりから脱却するための支援をされていました。

 でも、すべての若者が希望を見つけ人生をやり直せた訳ではない。絶望してどうしようもなくなった若者たちに僕が提案したのは別人と入れ替わることでの人生の再出発でした。彼のスローガンが『Change Our Life』で人生を変えろなら、僕の提案したのは『人生を交換しろ』でした。

 当初は彼も別人として生まれ変わることで人生をやり直せるならと受け入れてくれましたが、社会を恨み、復讐を考えている若者を僕が兵隊として育て上げ、外国の要人を暗殺するための教育をしていると知ると僕の考えを拒否するようになりました。

 だから、大隈氏には死んで貰いました。

 人生を交換すると今までのしがらみから解放され、とても楽になりましたよ。僕も弟と入れ替わり、現在まで弟の秀二として生活してました。あなたの隣にいるのは本当にあなたの知ってるその人ですか?

 いつの間にか知らない人になってないですか?

 あなたの友人が語るその人の経歴は本当ですか?

 この世に真実等ない。あるのは虚構でできたいつ崩れ落ちるかもわからない不安定なものばかりだ。

 考えろ、国民よ、世界の人々よ。

 嘘でできたこの世界で自らの幸せを手に入れたいなら、自分で世界を変えろ。

 と、まぁ、こんなことを言ってますが私は所詮、ただの犯罪者です。なので、私の最後を飾る場所を用意しますよ、山本さん。

 個別に招待状を送らせて貰います。

 ギャラリーが多すぎるのはあまり気乗りしませんし、僕の最後の晴れ舞台を汚して欲しくない。

 だから、他の皆さんはネットでその様子も配信するのでそちらで楽しんでください。

 楽しみましょう、皆さん。

 何が起こってもこれはただのエンターテイメントでしかない。

 そう、これから起こることも虚構なのだから。』

 影山が大きく手を挙げて万歳をしているような場面で映像は切れた。佐々木アナが信じられないと言った顔で「光輝………………?」と呟いてCMに変わった。

「招待状だと?」

 山本が言うと山本の携帯が震えて、メールが届いた。

 件名には『招待状』の文字があり、本文には場所と日時、そして『お越しになるのを楽しみにしています』と書かれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ