49部
大久保が部屋に入ると、カーテンは締め切られ、電気もついていない。部屋の奥へと進むと机の上にろうそくがあり、部屋を照らしている。
その机の横の椅子に座り、グラスを片手に影山は微笑んでいた。
「こんな真っ昼間からお酒ですか?」
大久保が聞くと影山は笑いながら、
「まともな仕事に就いているわけでもないのに、他の人と同じように生活するのも何か違うと思わない?」
「そうですね。
真面目な話ができるくらいの状況ではあるんですよね?」
「大丈夫だよ、大久保君も飲む?」
「下戸なので遠慮しておきますよ。
それに見るからにアルコールも強そうですしね。」
「ウィスキーだよ。
僕はこれしか飲まないからね。」
「本題に入っても良いですか?」
「どうぞ。」
影山は笑顔でいるのに対して大久保は真剣な顔で、
「今朝、黒木さんが僕のところに来て、あなたのことを心配してましたよ。
国内にいては暗殺部隊の標的として命の危険がある。
早期に国外に出るべきだが、空港はどこも監視されているので、船の貨物に紛れる方が良い。
できれば整形して他人に成り済ました方が可能性も上がるだろうと言ってました。」
「なるほど…………貨物に紛れていた正体不明の男として処理するつもりなんだね。」
「そのようですね。
黒木さんの計画というよりは、もっと上の方の考えだと思いますよ。」
「それで?大久保君はどうなるの?」
「先行きは不明ですね。
ある意味では今、この瞬間の行動によって試されていると考えるべきですね。
この場所も安全とは言えないですから、早く移動するべきです。」
「そうだね。
周辺を見回しても怪しい人達に囲まれてるからね。
そろそろ潮時なんだろうね。」
危機的な状況を分析しているはずなのに影山は相変わらず楽しそうに笑っている。
「もう少し現実をみるべきですよ。」
大久保は呆れた風に言った。影山は楽しそうに
「花火が人に好かれる理由はなんだと思う?」
急な問いかけだったが、影山がこのタイミングで聞いてくるのだから意味のある質問だと思い、
「一瞬の輝きのために職人の正確な計算と技法を組み合わせた芸術である所じゃないですか。」
「そうだね、やっぱり意見が合うよ。
たくさんの人の努力と犠牲によって、正確な量の火薬、色彩は発見され、そして爆弾と変わらない性質を持ちながらも人の心を動かすことができる。
一瞬の輝きがその日との人生に変化をもたすことだってある。
僕は人知れず咲いてきた花だから、最後くらいは派手に咲いて、散っていきたいと思うんだよね。」
影山はそう言ってグラスに口をつけ、少し飲んでからグラスを傾けて、グラスの中の氷で遊んでいる。
ろうそくの明かりで照らされた影山は切なそうに、悲しそうに見えたが、その目には強い力が宿っていた。




