48部
「とんでもないことになってますね。」
上田は新聞を見ながら言った。新聞には『黒木議員の暴論』の見出しでテレビでの発言を批判する記事が書かれていた。
山本は自分の持っている新聞を上田に投げて、
「賛否両論ってやつだな。
こっちには政治家の鏡って書いてあるぞ。」
上田は新聞の記事を読んでから、
「真面目な話ですけど、黒木さんが前政治体制を批判したからと言って、迷惑を被るのは現職の国会議員ですよね?
あの発言の意図は何なんだと思いますか?」
「政治が変わったというアピール、それから政治家のイメージを変えるためってとこだろうな。」
「でも、黒木さんにはメリットがありませんよね?」
「間違ってることは間違っていると真っ正面から言いたい性格なんだよ。もし、それで批判されても言い返せるだけの知識も語彙力もあるやつだからな。」
「影山の事件にも関係しているんですかね?」
「影山が逃げているとして、黒木がテレビに出れたということからすると影山と黒木の関係は切れていると考えるべきだな。
とりあえず、動きを見とく必要はあるだろうな。」
山本が言うと大谷が入ってきて、
「警部、お客さんですよ。」
山本は大谷の後ろを見るとそこには銀行員で影山光輝や五條進の友人である篠田が立っていた。
篠田は軽く会釈をしてから、
「山本さんと上田さんにだけ聞いてほしい話があるんですが良いですか?」
「取調室で良いですか?」
山本が聞き、上田が
「人払いしたらどこの部屋でも良いじゃないですか?」
「いえ、取調室で良いです。
ただ、他の方が近寄らないようにしてください。」
「了解しました、大谷手配してくれ。」
「わかりました。少し待ってください。」
大谷はそう言って走っていった。
篠田の反対側に山本が座り、上田がその傍らに立った。
「それで?どんなお話ですか?」
山本が聞くと篠田は困惑したような顔で、
「それが私にもよくわからないんです。
五條から面会に来てほしいと言われて行ってみると、光輝が秀二に成り代わって生きているとか言い出したんです。
長いこと刑務所にいるので少し精神的に病んでいるのかもしれないんですけど………………」
篠田は言いかけて山本と上田が驚いていることで自分の間違いに気づいたようで
「お二人はこの事を知っていたんですか?」
「つい最近、判明したというか…………未だに確証がないので我々としても対応に困っていたんです。
五條は何でその事を知っているんですか?」
山本が聞くと篠田は困った顔をして
「謎の老人に聞いたとだけ話したんです。
詳しく聞いても五條自身がよくわかっていないようでした。」
「その事を教えてくれるためだけにここにこられたんですか?」
上田が聞くと篠田は首を横にふり、
「いいえ、五條に写真を探してほしいと言われて、見つかったら山本さんに見せてくれと頼まれたんです。」
「写真ですか?」
山本が聞くと篠田はカバンから一枚の写真を取り出した。
「この写真に何の意味があるかまでは私もわからないのですが………」
篠田の差し出した写真を山本が受け取り、山本の頭の後ろから上田も覗きこんだ。
「集合写真ですね。
これが………………、これは石田ですよね?」
山本が確認するように聞くと篠田は頷いて
「はい、一度だけですけど私達の研究会に参加して下さったんです。
石田先生のご自宅で色々な教材を見ながら憲法について話し合っていたのを覚えてます。
でも、それが光輝と秀二の入れ替わった証拠になるとは思えないんですけど?」
「うん?これは…………、篠田さん、この石田の隣にいるのが影山ですか?」
山本は写真を机の上に置いて、その人物を指差した。
「ええ、それが光輝ですよ。
それがどうかしましたか?」
笑顔を浮かべた青年は小さな人形を片手に持っている。
上田が
「この手に持っている人形は何ですか?」
「私はアニメとかあまり見ない方なので、名前までは覚えてないですけど、石田先生がはまってるアニメの人形だって言ってました。
光輝もそのアニメが好きだったので意気投合してました。
その流れで人形を持って記念撮影したんだったと思います。」
「上田、すぐに影山秀二の指紋の付いたものを採集して来てくれ。
これで影山光輝が生きてるかどうかがはっきりするはずだ。」
「わかりました。」
上田が勢いよく出ていく。まだ状況の飲み込めていない篠田は
「これがなんなんですか?」
「この人形を今は私が持ってるんですよ。
その人形から採った指紋と照合して一致すれば影山光輝が生きていたことの証拠になるというわけですよ。」
篠田は驚いた顔をしてすぐに暗い顔になり、
「それで……………光輝が生きていたと証明されたらあいつはどうなるんですか?」
「影山光輝は今、何者かによって命を狙われています。
これまでの事件のすべての黒幕が影山だったとして、それを証明するのには時間が必要になります。
その間に命を奪われてしまう可能性がある以上、すぐに確保する必要があると私は思います。」
篠田は顔を伏せて何かを考えているように見えた。少しそのままの状態が続いて、篠田が顔をあげる。
「光輝が生きていたとするなら嬉しいことです。
でも、犯罪はどんな理由であっても正当化できません。
だから、捕まえて償わせて下さい。
これ以上、友人が死ぬのは見たくありませんから。」
篠田はそう言うと頭を下げて取調室を出ていった。
山本は机の上に残った写真を見て、
「楽しい時間ってやつは何で過ぎ去ってしまうんだろうな………なぁ、石田?」
満面の笑みで写っている親友に問いかけても答えが来ることはない。わかっているはずなのに失った現実を山本は未だに直視できずにいた。




