47部
「本日は国会議員の黒木俊一さんにおこし頂いています。
黒木さんよろしくお願いします。」
テレビ番組の司会者が会釈すると黒木は笑顔で「よろしくお願いします。」と言って会釈を返した。
「それでは早速なのですが、問題になっている外国人に対する犯罪について黒木議員にお話を伺いたいと思います。
それでは黒木議員、お願いします。」
「はい。
まず始めに政府の対応の悪さから国民の皆様にご心配をおかけしたことを謝罪させていただきます。
本当に申し訳ありませんでした。」
黒木がそう言って頭を下げたことに驚いた司会者が焦っている。
黒木は頭をあげて、
「では、今回の件に関係しまして、外国人犯罪について少しだけお話しさせていただきます。
外国人犯罪と聞けば多くの人が、外国人が日本で犯罪を行うことだと思われるでしょう。
これも間違ってはいませんが、その全てでもないんです。
かなり大きめに分類すると2つに分けることができます。
まず1つ目が、皆さんがご存じの日本国内における他国籍者による犯罪です。
犯罪の種類は多岐にわたり、犯罪を行う原因もそれぞれに違いますが、これは日本人が犯罪を行うことにおいても同じことが言えます。
そのため、予防することは大変難しい状況になっています。
観光客、労働目的、留学等と外国人が日本に来ることは増えており、それに伴って経済効果を期待できることから政府としても受け入れてきました。
日本を訪れる外国人の分母が増えれば、犯罪を行う外国人の分子も増えてしまいます。
言葉の壁、通貨の違い等は科学技術の進展により、小型の通訳機械が開発されたり、世界のどこでも使えるクレジットカードができたり等で問題は解消されつつあります。
ただ、通訳機械は最近の技術によって開発されたものなので、値段がまだまだ高めなのが現実で、通訳機械を購入する経済的余裕のある方ばかりではない、あるいはなくても何とかなると思っておられる方もおられるでしょう。
クレジットカードも作成には信用が必要であり、信用は銀行の預金額によって判断されて得られるものとなっている部分もあります。
それでは貧困のために日本に働きに来る人達の信用は誰が保証できるのかという問題もあると思います。
これから先、問題は解決されていくでしょう。
でも、文化的なことであったり、生活習慣の違いなどから来る相互の違和感は良いところばかりを発信するインターネットやメディアが続く限り解消されていかないでしょう。
日本で犯罪に至る外国人を減らすためには本当の日本を発信していかなければいけない。
その点ではメディアの皆様の協力をお願いしたいと思います。」
黒木の予想外の発言が続いているからか司会者は汗を拭きながら、
「分類されたもうひとつというのはどんなものでしょうか?」
「そうですね、もう一つが外国における日本人の犯罪です。
日本人が日本の領土から出て他の地に行けば、日本人もその地の人からすれば外国人になります。
外国人に対して犯罪を行うこともあれば外国人から犯罪被害を受けることもあります。
問題となるのは、それぞれの国が定めている刑法はありますが、国際的に共通な刑法は存在しません。
さらに犯罪者が国外に逃亡したさいに犯罪者の引き渡しに関して、条約でとり決まっていない国同士では長期の交渉を必要とするなど、更なる逃亡の可能性を広げてしまいます。
国同士の関係などから犯罪者をあえて匿ったりする国も出てくるでしょう。
国際法には制限力が弱く、国際私法と呼ばれる分野では民法事案を通則法と呼ばれるものによって、どちらの国の法律を優先させるかを判断するなどの取り組みもありますが、刑事事案についてはその場その場の交渉によらなければならず明確な根拠となる法律もありません。
今回の事件に関しては、犯人グループは諸外国の警察に拘束され、あるいは自殺していますので、日本側が捜査に入ることはできません。
捜査協力を要請されれば、対応することはできますが、それすらない状況では何もできません。
情報の提供などにより政府としては対応を始めていますが、その見返りに相手国から捜査状況を教えてもらえるかというとそれも国同士の関係によります。
人を殺してはいけない、人を傷つけてはいけない、人に暴力をしてはいけない、人の物を盗んではいけない、こんなことは世界共通のはずなのになぜそれを国際的に共通な法律として作ることができないのか私には理解できません。」
「今回の事件は殺人罪として処罰されることになるんですよね?
犯人グループが帰国した場合は政府としてはどのような対応になるのでしょうか?
今回の事件は外国の要人ばかりが狙われているということですから、何もなしとすると諸外国が持っている例の疑惑も根強く残ると思うのですが?」
「政府の送った暗殺部隊ではないかということですね。
日本の主権がおよぶ範囲は日本の領土内のみです。
主権のおよばない場所での犯罪を日本の法律で裁くことはできません。
それに一度は裁判を受けて、服役などをして帰国されてきた人を犯罪者として拘束することも人権上は許されないことです。
ただ、日本の刑法には国に対する罪として内乱罪、外患罪があります。
武力などによる日本政府を倒そうとする行為や外国を貶めるような行為をすれば死刑になります。
要人を失った外国を貶める結果になれば、外患罪が適用される可能性はあるかもしれませんが、これも現実的には人を殺しただけでその国に対してどれ程の損害を生じさせたのかは判断が難しいので適用されないでしょう。
処分を下したくても何もできない、これが法治国家である日本の限界なのかもしれません。」
「法治国家であることがいけないかのような発言ですね?
訂正されますか?」
「そうですね、受けとる側によってはそうなると思いますので、訂正させてもらいます。
私が言いたかったのは法治国家であるにも関わらず、不安定な法律をそのまま放置して、その法律によって国を治めようとしてきたこれまでの政府の姿勢を批判したものであり、法治国家自体を批判したものではありません。」
「国会議員の資格認定試験が行われて、政治体制を新しくしたからといって、今までを批判するのはどうかと思いますが?」
司会者が言うと黒木は真剣な顔で
「私も前体制から引き続き、国会議員として働いている者としてその責任を取りつつ、新しい時代を作っていく若い人達に負の遺産を残さないように政治を行っていく責任もあると思っています。
日本に生まれて良かったと思ってほしいですし、こんな国で生きたくないと思わせないような国の改革を進めていきたいと思っています。」
司会者が汗を拭きながら、
「それでは、お時間が来たようです。
黒木議員、本日はありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
黒木は頭を下げた。