4部
「加藤さん、大丈夫ですか?」
藤堂は病室に駆け込むなり叫んでしまった。
「おい、藤堂。ここ警察病院ではあるけど、一応病院だから静かにしろよ。」
三浦が言い、上田が
「いや、警察病院だからとかじゃなくて、病院は全体的に静かにするべきだろ。」
遅れて入って来た三浦と上田の顔を見て加藤が笑いながら
「上田さん、三浦さん、お忙しいのにお見舞いに来てもらってすみません。」
「まあ、気にするな。
俺らも今、結構暇なんだよ。警部が疑われてるから捜査にも入れてもらえないしな。」
上田が言い、藤堂が
「僕に対してのお礼はないんですか?」
「ああ、藤堂もありがとうな。」
加藤がさらりと言ったのに不満そうな藤堂をしり目に三浦が
「面会できるようになったから来たけど、そんなに具合が悪かったのか?」
「いえ、ケガ自体はそんなにひどくはなかったです。
銃弾も、貫通してましたし、当たった場所がよかったので神経とかにも異常はなくて、縫合した傷口が安定すれば後遺症とかもなく普通に歩けるそうです。」
「そうか、よかったな。」
上田が言い、藤堂が
「良くないですよ。
何であんな日にあんな場所にいたんですか?」
「いや・・・・・そんなこと言われてもな。
あんなことになるなんて思ってもみなかったしな。」
加藤が困った顔で言い、三浦が
「藤堂、かなり変なこと言ってる自覚はあるだろ?」
「ありますけど、でも、山本警部が加藤さんを撃つ理由なんてないじゃないですか?それとも何かしたんですか、加藤さん?」
「いや、俺には何も心当たりはないよ。
それに警部が俺を撃ったのだとすれば、真っ先に駆け寄ってきてから逃走する意味がわからないじゃないか。
俺が犯人なら、撃ってすぐにその場を離れてもうその場にいませんでしたってするけどな。」
「そうだよな、少なくとも救急車を呼んで、そのすぐ後に姿を消す理由がわからないよな。」
上田が言い、三浦が
「じゃあ、警部も誰かに襲われて連れ出されたんじゃないですか?
救急車を呼んで、加藤のところに戻ろうとしたところをフロアに潜んでいた犯人によって襲われた。
どうですか?」
「ありえなくはないですよね。
加藤さんが撃たれたんだから、山本警部も焦ってただろうし、スタンガンとかでいきなり攻撃されれば、さすがに抵抗できずに連れ去られてしまいますよ。」
藤堂が言い、上田が
「まあ、どちらにしても今回の事件は警察内部に犯人がいると俺は思うけどね。」
「何でですか?」
藤堂が聞き、上田が
「警部が疑われている理由は、同時刻、同じ場所にいたことと、加藤を襲った銃が、警部が貸与されていた物だったこと、そして警部がいなくなったことの三つなわけだけど、警部が犯人じゃなければ、警視庁の中にあの時間に入れる人間は同じ警察官かあるいは警察官によって中に引き入れられた人物ってことになる。
それに、犯行に使われた銃は保管庫に戻されていた物を誰かが持ち出して使ったことになる。警察官しか保管庫の場所は知らないし、さらに言うと、警部が銃を返してもその手続きをしないことを知っていた人物であるとするなら、警視庁の総務課の人間か、あるいはうちの課の人間の可能性もあるな。」
「そんな・・・うちの課にそんなことする人いるわけないじゃないですか。
それに手続きのこととか知らずに、適当に持ち出した銃が警部のものだったかもしれませんよ。」
三浦が言い、上田が
「これは仮定の話だよ。
それに警部が逃げているのかさらわれているのかはわからないけど、まずは警部を俺らで見つけるところからしないとな。
警察の身内が怪しい状況では警部の身の安全をまず確保しないといけなさそうだしな。」
「そう言えば、竹中さんとか黒田さんとか伊達たちはどうしてるんですか?」
加藤が聞き、三浦が
「竹中さんは、山本警部がそんなことするわけないって暴れたから謹慎中で、黒田課長は警部と同棲してたからかくまう可能性があるとかで監視付きでホテル暮らし、伊達と片倉、松前は勝手に捜査してると思うよ。」
「警部と黒田さんってそういう関係だったんですか?」
「いや、黒田さんが居候なだけだし、警部はほとんど家に帰らないからほとんど黒田さんの家と言っても過言ではない状態なんだけど、そのへんは融通の利かない考えの人もいるからさ。」
加藤の問いに上田が言い、藤堂が
「今川さんとか大谷については聞かないんですか?」
「えっ?ああ、ほら、皆で一斉にこれるほど暇じゃないかなと思ったからあの二人は留守番かなと思ってさ。」
加藤が答えたが納得できていないのか藤堂が、
「じゃあ、何で竹中さん達のことは聞いたんですか?竹中さん達も留守番だったかもしれないじゃないですか?」
「だって、黒田さんは課長だし、竹中さんは真っ先に飛んできそうだなと思ったし、伊達とかは本当に何してるかわからないから聞いただけだよ。」
「まあ、今日はこれくらいでいいだろ。
あんまり長居すると後ろで睨んでる人たちに無理やり連れてかれそうだしな。」
上田がそう言ってドアのところを指さした。上田の指さした方を見ると警護のための警官がこちらを睨んでいた。
「すみません、静かにします。」
三浦がそう言い、藤堂が
「じゃあ、最後に教えてください。
なんであんな時間まで残ってたんですか?」
「それは・・・・その・・昇格試験のための勉強をこっそりとしてたからで・・その・・・」
「何で昇格試験の勉強をこっそりするんですか?」
藤堂が詰め寄ると加藤が
「それは、先輩として藤堂より階級が下なのがあれだったからで・・・
内緒で昇格試験を受けて藤堂を驚かそうかなと思ってたりもしてたし・・」
「そんなくだらないことのために命を危険にさらしたんですか?」
「いや、まあ、そう言われると返しようもないんだけどさ」
「まあ、良いですよ。今度、僕が昇格試験の勉強のために使ってる本を持ってきますから一緒に勉強しましょう。どうせ一人でやってもはかどらなかったんでしょ?」
「いいのか?って言いうか、藤堂も昇格したら俺が昇格する意味ないだろ。」
「加藤さんが僕に並ぶのは十年早いですよ。」
「くそ、めちゃくちゃ勉強してサクッと追い抜いてやるからな」
「まあ、無理でしょうけど早く元気になって戻ってきてくださいね。」
藤堂はそう言い残して部屋から出て行った。三浦が
「加藤がいなくて寂しいんだよ。
勉強するのもいいけど、できるだけ早く戻ってこれるようにリハビリ頑張れよ」
「あはは、素直じゃないですね。」
加藤が笑いながら言い、上田が
「欲しいものがあったら何でも言えよ、三浦が奢ってくれるからな。」
「いや、そこは上田さんが奢ると所ですよ。」
三浦が言い、上田が笑いながら
「まあ、なんかあったら連絡しろよ。
じゃあ、俺らも行くは。藤堂が怒りそうだからな。」
上田はそう言ってドアに向かって歩き出した。三浦も
「じゃあ、連絡して来いよ。」
そう言ってドアに向かい歩き、ドアから出る時に加藤の方をチラリとみると加藤は寂しそうに笑っていた。